投稿日:2025年7月1日

ユーザビリティ評価可視化で製品価値を向上させる調査手法

はじめに:製造業におけるユーザビリティ評価の重要性

製造業界は近年、従来の大量生産・コスト競争から、ユーザー本位の価値創造へとシフトしています。
製品の「使いやすさ」や「体験価値」は、B2B分野ですら重要な購買決定要因となりつつあります。
しかし、現場ではユーザビリティ評価が「感覚的」「後付け的」「個別対応的」になりがちで、十分な可視化・活用がなされていないのが実情です。

本記事では、20年以上にわたる製造業経験を踏まえ、ユーザビリティ評価を可視化し、製品価値を本質的に高めるための調査手法に迫ります。
また、昭和型のアナログ体質が根強く残る現場でこそ有効な、現場目線の実践的アプローチも交えてご紹介します。

ユーザビリティ評価可視化の真価とは何か

ユーザビリティとは「ユーザーが製品・サービスをどれだけ容易に、意図通りに、満足して使えるか」の度合いを意味します。

このユーザビリティ評価を可視化する目的は、主観や属人的な判断に頼らず、定量的・定性的なデータに基づいて設計改善・品質向上へつなげる点にあります。

例えば

・操作性の問題点を数値で明示する
・ユーザーの製品使用上のストレスやボトルネックを可視化する
・設計部門に的確なフィードバックを渡す
など、開発〜量産〜市場投入まで、あらゆるプロセスで高付加価値化の源泉となるのです。

なぜ製造業は可視化が遅れているのか?業界構造の壁

日本の製造業は、長らく「設計・製造はメーカー主導、ユーザーの声は二の次」という構造が支配的でした。

加えて現場には

・暗黙知(ベテラン職人の経験則)
・属人的な判断(現場リーダー個人の決断)
・紙ベースや口頭・電話によるアナログな情報伝達
など、昭和的な働き方が色濃く残っています。

このため、ユーザビリティの定量評価やデータドリブンな改善活動が定着しにくいのが現状です。

また、部品サプライヤーと完成品メーカーの力関係、組織の縦割り意識なども、「自工程完結主義」に陥り、ユーザー目線の本質的な価値検証が後回しになる要因となっています。

ユーザビリティ評価手法の全体像:基本から応用まで

ユーザビリティ評価といえば、直感的には「アンケートやモニターテスト」を思い浮かべる方が多いかと思いますが、実際はより広い手法体系があります。

定量的な評価手法

・タスク完了率や作業時間の計測
・エラー発生頻度のカウント
・NPS(ネットプロモータースコア)、CS(顧客満足度)などの指標化

これにより「どの製品機能が、どれくらい使いやすいか?」が客観的に把握できます。

定性的な評価手法

・ユーザーインタビュー、ヒアリング
・観察法(実際に作業現場での使われ方を分析)
・ペルソナ/カスタマージャーニーの作成

これによって、「なぜ(Why)」ユーザーが使いづらさを感じているかのインサイト抽出が可能です。

近年注目の評価技術

・Eye Tracking(視線計測)
・感性工学、ユーザーの心理的ストレス指標
・IoTセンサーデータによる利用実態の自動収集

特にIoT導入が進む現代工場では、設備側のログデータとユーザーの操作ログを突き合わせ、潜在的な使いづらさや異常値をリアルタイムに抽出するといった先端的な調査も可能となっています。

「可視化」が製品価値向上に直結する理由

ユーザビリティ評価を可視化して蓄積することで、以下のような多面的な価値向上がもたらされます。

1. エビデンスに基づく本質的な設計改善

従来は「お客様からのクレームがあった」「担当者の思い付き・勘」に頼った対症的な改善が主流でした。
しかし、可視化データを用いれば

・改善すべき機能・工程の優先度付け
・設計品質や使いやすさのKPI(指標)化
・後工程、他の製品へ横展開できるナレッジ化

など、PDCAサイクルが飛躍的に回しやすくなります。

2. サプライヤー—バイヤー間での共通言語形成

部品やシステムのサプライヤーが、バイヤーである完成品メーカーに技術提案や品質改善を訴えるシーンでも、可視化指標は強力な共通言語となります。
「御社ユーザーの操作ストレスを30%低減できる設計です」など、データに基づいた提案は評価・選定でも強い武器になります。

3. 顧客エンゲージメント/リピート率向上

ユーザーの「使い心地」「使い勝手」への不満や無意識のストレスを拾い上げ、先回りして改善していくことで、顧客満足度とリピート率の向上が見込めます。
とくにB2Bの場合、1社毎のロイヤルカスタマー化がLTV(生涯顧客価値)最大化に直結します。

現場に根付かせるための3つの実践ノウハウ

どんなに高精度な評価手法も、現場に根付かせてこそ真価を発揮します。アナログ文化や暗黙知の壁を乗り越えるためのノウハウとして、以下の3点を提言します。

1. “巻き込み型ワークショップ”の導入

ユーザー(現場オペレーター)、設計、品質管理、営業、ITなど関係部署を横断し、評価データをもとにしたワークショップを開催します。

・自分たちの現場で直面している課題をリアルデータで実感
・改善案を多方面からブレスト
・最初からすべてをデジタル化せず、「ホワイトボードで可視化」「紙と付箋」でのダイアログも推奨

これにより、評価活動が単なる「監査」「指摘」ではなく、「自分ごと」へ昇華しやすくなります。

2. データ収集の省力化・“現場目線”ツール選定

現場で一番嫌われるのが「面倒くさい」「何の役に立つか実感できない」調査活動です。
そのためには

・普段使っている業務システムと連携(例:スマホやタブレットでの簡単な入力)
・IoTやセンサー自動取得との組み合わせ
・100点満点の完璧な調査より、まずは「50点でも現場で回る仕組み」から始める

など、省力化と現場ニーズ重視が根付かせるポイントです。

3. 成果の可視化・フィードバックサイクルの構築

ユーザビリティ評価をしても「どう変わったか?」「現場の困りごとが解消したか?」を実感できなければ形骸化します。

・改善前後の評価指標をグラフで見える化
・現場での「困りごと」—「改善」—「成果」ストーリーを社内報や掲示板で共有
・成功事例を見える化し、他部署・拠点へ展開

これにより、現場は初めて「やって良かった」と実感し、活動の粘り強い拡大が実現します。

ユーザビリティ評価可視化の最新トレンドと未来展望

ユーザビリティ評価もAIやクラウド活用で日進月歩の進化を続けています。

・AIによるユーザービリティ課題の自動検出(UI/UX診断)
・クラウドベースで拠点横断・グローバル共通のデータ蓄積
・カスタマージャーニー全体にわたる一貫した評価指標体系の構築

これにより、従来は個人や一部の現場に留まっていた知見が、全社・グローバル規模で生きる時代に突入しています。
今後はバイヤーやサプライヤーとの連携強化や、DX推進の起爆剤としてもユーザビリティ評価可視化は無視できないテーマとなっていきます。

まとめ:今日から始める一歩が未来を変える

製造業におけるユーザビリティ評価可視化は、「完成品メーカーとサプライヤー、現場担当から管理職まで」が一体となって進めるべき最大の投資領域です。

最先端の手法を求めすぎて「どこから手を付けていいかわからない」と尻込みしてしまうこともありますが、まずは

・身近な現場課題を“数値や図”で可視化
・関係者で現状を共有し、納得感のある改善活動を始める
・成功・失敗も含めたナレッジを蓄積し、全社で活かす

この一歩から大きな変革が生まれます。
アナログ文化が残る現場でも、真にユーザーに寄り添った製造業へ変革する大きな武器となるはずです。

バイヤー志望の方、そしてサプライヤーの立場でバイヤーの意図を知りたい方も、ぜひ現場の実践から発想を広げ、未来につながる価値創出の道を切り拓いてください。

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