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ODM開発で求められる“ユーザー価値の翻訳スキル”

目次
はじめに:ODM開発の現場で感じる新たな課題
製造業におけるODM(Original Design Manufacturer:相手先ブランドによる設計・製造供給)ビジネスは、ここ数年でさらに重要性を増しています。
単なる受託製造から、設計や製品企画の初期段階から深くコミットするODMモデルは、海外・国内を問わずサプライヤー各社の付加価値源泉となってきました。
しかし、ODM開発において「言われた通りにつくる」では通用しない局面が増えています。
求められるのは、顕在化されていない“ユーザー価値”を読み取り、それを設計・部品選定・生産へと精緻に“翻訳”するスキルです。
今回は、長きにわたり現場の厳しさ・商談・試作・量産の修羅場をくぐってきた経験を基に、ODM開発で活躍するための「ユーザー価値の翻訳スキル」について解説します。
そもそもODMとは? OEMとの違いを再確認
OEMとODMの境界
製造業の現場では、OEM(Original Equipment Manufacturer)とODM(Original Design Manufacturer)の違いはしばしば曖昧です。
OEMは基本的に「設計(図面・仕様)は発注元→生産は受託メーカー」で分けられます。
一方、ODMは「発注元の大枠要件や構想を受け、受託メーカーが設計、場合によっては一部企画・開発まで担う」というもの。
近年、競争が激化・多品種化するなかで、コア部位・コスト・信頼性・使い勝手まで提案力がないと勝負になりません。
従来は“言われた物を正確に作る”OEM型が多かった現場も、今ではODMへのシフトを求められています。
ODMに携わるプレイヤーの共通課題
ODM開発の現場で頻繁に聞く課題は「何度も仕様変更や指示待ちの往復に時間がかかる」「提案が刺さらない」「顧客も自社も認識のすり合わせに苦労する」といったものです。
これらを解消できるのが、“ユーザー価値の翻訳スキル”です。
なぜ「ユーザー価値の翻訳」が重要なのか?
ノウハウだけでは戦えない時代
かつての製造業は、「安定品質・低コスト・確実な納期」が何よりの武器でした。
しかし、いまやそれらは「前提条件」として求められています。
差別化するためには、「なぜこの仕様が必要とされているのか」「エンドユーザーが本当に欲しい価値は何か」をとことん突き詰め、設計・材料選定の段階で反映する能力が必須です。
発注側バイヤーが何に困っているのか?
発注側のバイヤー視点で考えると、彼らは「自社ブランド価値と、エンドユーザーに届けたい体験」と「現実的なコスト・量産の壁」との間で常に板挟みです。
「ここをどう解釈して、どう実現するか?」
ODMメーカーは、単なるサプライヤーを超えて、「企画の伴走者」「現場の目利き」としてバイヤーをサポートする存在が求められます。
その際にポイントになるのが、“ユーザー価値の翻訳スキル”です。
ユーザー価値の翻訳スキルとは何か?
ステークホルダーごとに異なる「価値軸」の理解
ODM開発では、取引先バイヤー、最終顧客(エンドユーザー)、自社工場の現場スタッフ、部品メーカー、物流会社など、多くの関係者が介在します。
それぞれが抱える「譲れない価値軸(重視ポイント)」を読み取り、時に矛盾するこれらの要素を最適化する発想が本質的な“翻訳”です。
バイヤーが重視するのは自社ブランドのポジショニングやコストダウン、エンドユーザーは使い心地やデザイン、安全性。
一方で現場では「生産のしやすさ」「歩留まり」「標準化できるか」などが焦点です。
この“翻訳スキル”では、すべての意見をただまとめるのではなく、「本当に譲れないポイント」を浮かび上がらせ、設計や工法に落とし込む舵取り力が必要になります。
情報の非対称性への橋渡し
特に昭和的なアナログ業界では、断片的な要求・ノウハウが伝言ゲーム的に伝達されることも珍しくありません。
バイヤーは「もっと薄く・軽くしたい」「耐久性を上げてほしい」など抽象的な言葉でニーズを伝えてきます。
その背景には、「なぜ」それを求めるのか、業界慣習や政治的な要因、ユーザー層の嗜好変化などが潜んでいます。
ODM担当者がその真意まで掘り下げ、設計部門やサプライチェーンと共有できるか。
これがODMプレイヤーの実力差を大きく左右します。
ユーザー価値の翻訳スキルを高める5つの実践的アプローチ
1. 顧客ヒアリングの「なぜ?」を5回繰り返す
ヒヤリングの際、要件や仕様への要求だけでなく、「なぜそれが必要か?」を繰り返し問うことが基本です。
表面的な「要件→対応」ではなく、「背景事情」や「業界トレンド」まで掘り下げて理解することで、思い込みによる方向性のずれを防げます。
例えば、「もっと薄くしたい」要望の裏に「競合商品との差別化」や「物流コスト圧縮」、「ユーザーが収納しやすくなる」など複合的な理由が隠れている場合も。
こうした本質的なレイヤーまで掘り下げてから、設計へ反映します。
2. 製造現場から「ものづくり目線のフィードバック」
現場の担当者こそが、設計仕様の現実的実現可能性を最も知っています。
ユーザー価値を追求しすぎてコスト増や歩留まり悪化など“死の谷”に陥らないためにも、必ず製造部門・品質管理部門と直接意見交換を重ねましょう。
現場の「こうすれば効率が上がる」「この素材なら工程が省略できる」といった気付きが、ユーザー価値向上と製造性の両立に繋がります。
3. 市場・顧客の行動分析データを設計会議に持ち込む
従来はカタログスペックや打ち合わせ議事録ばかりが設計の基準でした。
しかし今は、消費者の口コミ、競合分析、エンドユーザー行動分析データといった一次情報が豊富にあります。
ODM担当者がこれらを積極的に読み込み、「どんな使われ方が想定されているのか」「競合の設計思想はどうか」などの気付きから仕様に反映すると、バイヤーからも信頼されやすくなります。
4. バイヤーへの「逆提案型」のコミュニケーション
「バイヤー指示待ち」型の受動的コミュニケーションは、リードタイムの遅延や価値訴求力の低下を招きがちです。
最新の技術動向、市場の実例、過去のトラブル経験値を加えた「こういった案もありますがいかがでしょうか?」という逆提案の姿勢が、ODMサプライヤーの信頼を高めます。
へりくだるだけでなく、「なぜその提案がユーザー価値に寄与するのか」を論理的に説明しましょう。
5. デジタルツールの活用による翻訳精度の向上
従来の「紙図面・電話会議」では、認識齟齬や情報伝達ロスが頻発します。
CADデータの3D共有、仕様変更のリアルタイム管理、IoTによる現場データ把握など、デジタルツールを活用した情報共有が“翻訳ミス”の減少とリードタイム短縮に直結します。
これからODMに関わる若手・新任担当者は、こうしたデジタルリテラシーを積極的に身につけることで優位に立てます。
昭和的アナログ業界が“脱・伝言ゲーム”するためには?
日本の製造業は長らく、「職人の勘と経験」「人脈・現場主義」「コミュニケーションは対面重視」といった昭和型のアナログカルチャーが根強く残っています。
現場は悪い意味での「慣習主義」と「担当間の伝言ゲーム」で動いている面もあります。
これを打開するヒントも、“ユーザー価値の翻訳スキル”と関係します。
それは「属人化から見える化」へのシフトです。
情報や判断を属人的に握るのではなく、要求仕様・過去の経緯・トラブル事例・現場の生データを「全員が参照可能な共通言語」として見える化しましょう。
例えば、「なぜその設計変更が起きたか」「なぜその材料に変更したか」など、背景ストーリーも含めてロジカルにデータベース化するのが理想です。
この実現には「IT導入」「紙資料のデジタル化」「ナレッジ共有文化の醸成」「プロジェクトでの学びの蓄積」がカギになります。
ODMプレイヤーが今後伸びるためにすべきこと
異業種・異文化に学ぶ“ラテラルシンキング”の重要性
OEM~ODMに携わる方には、「これまでのやり方」だけに頼らない横断的な発想(ラテラルシンキング)が求められます。
例えば、自動車部品やスマート家電のODM企画であれば、IT業界・流通業界など異分野の最新動向を素直に取り込みましょう。
「他業界でのユーザー体験」からヒントを得て提案につなげる柔軟性が、バイヤー・エンドユーザー双方の「なるほど!」を引き出します。
全員参加型イノベーションの推進
企画・営業・設計・調達だけでなく、現場オペレーター・協力会社なども巻き込み、多様な視点でユーザー価値を議論する場を意識的につくりましょう。
現場スタッフの気付きは、しばしば大きな生産性・品質向上の種になりえます。
その意見を“拾い上げて翻訳”することがODM企業の底力に直結します。
まとめ:ODM開発で“勝つ”ための実践知
「ユーザー価値の翻訳スキル」とは、単なる言語変換や要件の“伝書鳩”にとどまるものではありません。
顧客の本音と現場の現実、設計の理想とコスト・品質の折り合い――そのすべてを両立させる知的筋力・現場の胆力・異文化翻訳のセンスです。
昭和世代のアナログな現場文化も尊重しつつ、デジタルの力・多様な知見を取り入れることで“脱OEM”は加速します。
ODM開発は、製造業にとって今後10年の成長領域。
ぜひ“ユーザー価値を翻訳する”新たなスキルを武器に、現場でも企画でも「指名されるプレイヤー」になりましょう。
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