投稿日:2025年11月16日

アウトドアTシャツ印刷で耐候性を上げるためのUV吸収剤と防汚コート設計

はじめに:アウトドアTシャツへ求められる耐候性の本質

アウトドアTシャツは、都市で着用するファッションTシャツとは異なり、より厳しい自然環境下での使用を想定しています。
そのため、紫外線や雨、汚れに対する「耐候性」が求められます。
耐候性の高さはTシャツ自体の品質イメージ向上や、長持ちする製品を届けるという観点から、ブランド価値の鍵となります。

しかし、アパレル業界、特に印刷工程においては、昭和時代から続くアナログな手法や現場独自のノウハウが強く根付いています。
新たな素材や加工技術を積極的に採用しない文化も、未だ根強く残っています。

この記事では、耐候性を向上させるためのUV吸収剤や防汚コート設計の最適な運用について、調達・生産・品質・現場目線の複眼的な視点から深掘りします。
また、アウトドアTシャツの印刷現場にありがちな課題とその打開策、次代のモノづくりの現場でバイヤーやサプライヤーが意識すべきポイントについても考察していきます。

UV吸収剤で高めるプリントの耐候性——その化学的メカニズム

アウトドアTシャツの印刷品質を大きく左右する「プリントの退色・劣化防止」。
その鍵を握るのがUV吸収剤です。

UV吸収剤は、紫外線を吸収し、熱などに変換して拡散する役割を果たします。
これにより、プリントインクや樹脂、顔料などが紫外線による分解や変色を起こしにくくなります。

印刷用インクに添加するUV吸収剤には、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系などの種類があり、それぞれ反応領域や樹脂との適合性に違いがあります。
たとえば耐候性重視の場合、ベンゾトリアゾール系は高い紫外線吸収能を持ち、多くのプラスチック樹脂や繊維の加工で広く使われています。

重要なのは、「インク組成のどの段階で、どの種類のUV吸収剤をどの濃度で練り込むか」という設計思想です。
ただ闇雲にUV吸収剤を加えても、インクの密着性が弱まったり、予期せぬ色調変化が発生する場合があります。
塗膜の厚みや顔料とのバランス、そして洗濯耐久性も見逃せません。

工場現場では、「標準配合」に頼り切った通り一遍な運用が多いですが、屋外用の印刷設計では“使い勝手のいい現場目線”と“最新技術の応用”の両立が必要不可欠です。

現場で見落とされがちなUV吸収剤のバイヤー視点

調達・購買担当として気を付けたいのは、「製品スペック表の数値」だけに頼らず、インクメーカーや化学メーカーの担当者と深くコミュニケーションをとることです。
同じUV吸収剤でも「粒子径」「親水性/疎水性」「混和可能な溶剤」など細かいスペックが現場の印刷方法に合致しなければ、宝の持ち腐れとなります。

また、現場からは「コストを下げたい」「1種類で全製品共通化したい」という声が根強いですが、アウトドアTシャツ用だけは特別仕様と割り切る発想も必要です。
使用部位や印刷範囲、色・柄による紫外線曝露度の違いにも目を配り、サプライヤーとの共同開発姿勢が差別化につながります。

防汚コート設計:アウトドアTシャツ専用の新常識

アウトドア用アパレルにおいては、太陽光や風雨だけでなく「泥・花粉・油汚れ」などへの耐性も重視されます。
ここで効力を発揮するのが防汚コートです。

従来、Tシャツ素材そのものに撥水・防汚加工を施す手法が主流でしたが、印刷部分の表面だけを改良するコート設計が注目されつつあります。
これは、プリント面に極薄の特殊樹脂層やシリコーン系/フッ素系撥水剤をコーティングすることで、プリントそのものを保護しつつ、汚れが付きにくく落ちやすい効果を狙うものです。

最新の防汚コートは、表面自由エネルギーを極端に低くコントロールするもので、指紋や泥汚れも玉状に撥いて、ちょっとした雨や洗濯でもすぐに流れ落ちる性能を持っています。

注意点:防汚コートの「塗りすぎ」によるトラブル

現場の経験から言えば、「せっかく高機能だから」とコート剤の濃度や積層数を高くし過ぎると、プリントの発色や通気性が損なわれ、「ゴワゴワした質感」や「べたつき」の苦情が頻発します。
また、洗濯耐久性、伸縮性(ストレッチ)、接着工程との干渉など複雑な設計配慮が必要です。

最適量は“多ければ多いほど良い”というものではなく、「Tシャツ用途」「プリントの柄・色」「ユーザーの使用シーン」に合わせてきめ細かな調整が求められます。

昭和型現場の壁を超える!守旧派との対話術

製造業の現場には、かつての成功体験や“変わることへの不安”が根強くあります。
熟練の職人技や現場目線も重要な財産ですが、新素材・新工法の導入となると古参メンバーほど抵抗感を抱きがちです。

そこで実用化へ向けては、次のような「対話と実験」プロセスが有効です。

1. ミニマム実験/サンプル評価

一気に現場全体を変えるのではなく、既存工程と新しいインク・コート剤を並行して、同条件でサンプルTシャツを製作します。
屋外曝露、洗濯、実使用(ユーザー目線の着用モニター)など多面的なテストで“リアルな違い”を確かめます。

2. 長所・短所を「見える化」して共感をつくる

現場で「何が変わるのか」を数値だけでなく、動画、写真、サンプル片など五感で体感できる方法で共有します。
「どうせ変わらない」「手間だけ増える」といった心理的ハードルを具体の成果で乗り越えます。

3. バイヤー・サプライヤー協業の新しい関係構築

単なる価格交渉だけでなく、「どうすればユーザーが喜ぶTシャツをつくれるか」「品質を上げつつ工程の負荷バランスをとれるか」といった共同課題のもとで、開発・品質・生産・営業が連携する仕組みを築くことが、次代の製造業マネジメントには不可欠です。

サプライヤー視点:バイヤーが本当に求めているもの

サプライヤーの立場でバイヤー対応をしていると、つい「コストダウンが一番」とのみ思いがちですが、近年のバイヤー像は変化しています。

「市場価値の高いTシャツ製品を開発したい」「差別化できる技術を採用して自社らしさを打ち出したい」という意識が強まっており、品質・機能とコストの最適バランスを探っています。

特に、アウトドアTシャツ分野では「単なる印刷外注先」ではなく、「素材・加工・印刷技術を一緒に進化させるパートナー」への期待が高まっています。

サプライヤーとしては、積極的に技術提案を行い、UV吸収剤や防汚コートのサンプルをタイムリーに提供し、現場実験にも立ち会う姿勢が重視されます。

現場目線での業界動向と今後の展望

近年、コンシューマーの価値観変化やサスティナビリティ志向の高まりから、「長く使えるアウトドアTシャツ」が求められています。
今後は、プリントの色褪せや劣化を抑え、かつ洗濯後も清潔感のある製品を継続提供するために、UV吸収剤や防汚コートの最適化がより加速するでしょう。

加えて、今もアナログが根強い現場でも、デジタル×アナログの融合が進み、一人ひとりの現場作業者が「なぜ新技術が必要か」を理解し、自信を持って提案・応用できる人材育成がカギとなります。

バイヤー・サプライヤーともに「共創」「技術情報の見える化」「現場検証=ファクトベース」の三本柱を大切に、最先端の素材や加工から“選び・つなぎ・磨く”アクションへ踏み出してほしいと考えます。

まとめ:昭和から令和へ、アウトドアTシャツの耐候印刷は進化する

アウトドアTシャツ印刷におけるUV吸収剤と防汚コートの技術革新は、単なる「耐候性向上」だけでなく、製品ライフサイクルの価値最大化、ブランド個性の創出、ユーザー体験の革新へとつながっています。

昭和から続く現場文化やアナログな手法もリスペクトしつつ、現代の技術や情報をミックスした“現場発イノベーション”が、これからの日本のものづくりを支えていきます。

本記事をきっかけに、バイヤー、サプライヤー、現場すべての立場の人が「一歩先の現場力」と「未来を見据える目」を養い、アウトドアTシャツをはじめとする製造業の新たな高みへ挑戦することを期待します。

You cannot copy content of this page