投稿日:2025年10月10日

塗装被膜の耐候性低下を防ぐ紫外線対策と塗料選定の工夫

はじめに:なぜ塗装被膜の耐候性は課題なのか

製造業の現場では、塗装された製品が屋外や過酷な環境下で使われることが非常に多いです。
自動車、建設機械、インフラ部品、各種筐体など、塗装被膜は製品の美観だけでなく、腐食防止や性能維持の観点でも重要な役割を持っています。
一方で、塗装被膜の耐候性、すなわち紫外線や風雨、温度変化に対する長期的な強さは、今なお多くの現場で課題となっています。
特に、耐候性低下の要因である紫外線(UV)への対策をおろそかにすると、色褪せ、剥がれ、ひび割れといった現象が短期間で発生し、クレームやコスト増の大きな要因となってしまいます。
この記事では、現場の失敗や実体験をふまえ、塗装被膜の紫外線対策と塗料選定の実践的な工夫について掘り下げていきます。

塗装被膜の耐候性に影響する要因

1. 紫外線と可視光の影響

塗装表面に降り注ぐ太陽光のうち、特に紫外線は被膜の分子結合を破壊しやすい性質があります。
これにより、塗膜の主成分である樹脂や顔料が分解・劣化し、色あせやチョーキング現象(白化、粉ふき)を引き起こします。
現場で塗装品を長期置きしたら、予想外に色が退色していた、という経験は多くの方があるでしょう。

2. 雨水、湿度、温度差

紫外線に加えて、雨水や露、湿度の変動、さらに昼夜の大きな温度差も塗装被膜にダメージを与えます。
これらが塗料内部へ浸透・膨張・収縮を繰り返すことで、クラックや剥がれの原因となります。
特に、紫外線と水が同時に作用すると劣化は加速します。

3. 塗装工法と素地管理

塗料の選定だけでなく、下地処理や塗装工程の品質も大きな影響を与えます。
素地の油分・錆除去不足や、乾燥条件の悪さは、塗装不良を招き被膜耐候性を著しく低下させます。
また、塗装後の管理や運搬環境も重要です。

古い慣習から抜け出せない?昭和的現場の落とし穴

なぜ現場は「従来通り」に固執するのか

多くの工場現場では、「この塗料で何年もトラブルなかった」「昔から使っているから間違いない」といった理由で、塗料や工法を変えない傾向があります。
昭和時代からのアナログなマニュアルや、「先輩が言うから正しい」という空気が強く、実験データや最新のカタログ値を軽視しがちです。
この”思考停止”こそが、塗装不良や耐候性問題の温床となっています。

バイヤーとサプライヤー間の温度差

バイヤーとしては「実績ある塗料だから、コストも安いし発注しよう」と考える一方、サプライヤーや塗装工場側は「新しい案件だけど仕様が古い」「最新の耐候性グレードを提案したい」とジレンマを抱えています。
長年の付き合いや値下げ圧力のため、本質的な改善提案がしづらい状況も多く存在します。

厳しい要求水準と、不十分なフィードバック

自動車や建設大手のバイヤーは、高い耐候性を要求する傾向にありますが、現場に要求の詳細やトラブル情報が正確にフィードバックされないまま、従来通りの材料やプロセスが繰り返されてしまうという問題も根深いです。

紫外線対策に効く最新塗料とは?

塗料に使われる主な紫外線吸収剤、遮断剤

現代の塗料には、耐候性向上のために以下のような特殊成分が利用されています。

・紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系など):分子レベルで紫外線のエネルギーを吸収・変換し、被膜へのダメージを軽減します。
・HALS(ヒンダードアミン系光安定剤):塗膜樹脂の分解ラジカルを捕捉し、紫外線による劣化連鎖を抑えます。
・酸化チタン(白顔料)の利用最適化:白顔料の結晶制御や皮膜表層の粒径管理によって、紫外線の透過・反射性能が調整されるようになっています。

アクリル・ウレタン・フッ素…どのグレードを選ぶべきか

– アクリル樹脂塗料:美観・コスト重視。耐候性は中程度。屋内や一時保護用途向き。
– ウレタン樹脂塗料:柔軟性と耐久性、コストバランス。2液型の場合、重耐候性だがDIYや小物向けのイメージも強い。
– シリコン樹脂塗料:非常に高い耐候性。建築や看板、屋外部品など幅広い分野で主流。
– フッ素樹脂塗料:超耐候性、超撥水性。大型インフラや高級建材向け。コスト高だが長寿命を重視する用途で力を発揮。

現場で多数の製品群を管理する立場としては、「一番高価な素材=最良の選択」とは限りません。
設備のメンテナンス周期や納品先の要求レベル、コストバランスに細かく目を配る必要があります。

現場で役立つ実践的な紫外線対策

1. 屋外曝露試験の徹底

昔ながらの促進耐候性試験(ウェザーメーター等)だけで判断していませんか?
本当に日射や湿度、気温が激しい現場なら、テストピースを実際に屋外に設置し、半年~1年、定期的に目視検査・色差測定を続けてこそ初めて”生きたデータ”が得られます。
新規塗料導入時にはぜひ推奨します。

2. 下地処理・プライマー選定に妥協しない

紫外線による塗装劣化は被膜表面から始まる一方、下地管理が悪いとクラックや剥がれの温床になります。
素地面の脱脂、ケレン、サンドブラスト、そして被膜密着性を高める専用プライマーの選定――この一手間が塗装寿命に直結します。
作業者への教育・定期添削も重要です。

3. 塗装厚みと塗装回数の最適化

手間賃削減で「一発塗り」「薄膜」で済ませていませんか?
耐候性を最大化するためには、カタログ値を参考に最適な被膜厚(μmオーダー)を守り、所定回数の塗装・乾燥工程を必ず厳守しましょう。
とくに防錆性と耐久性のトレードオフには細心の注意が必要です。

4. 塗装品の保管・輸送時の直射日光対策

塗装後、屋外やボンネット上で長時間置かれることで、初期劣化(黄変・色あせ)が進行します。
納品待ちの現品は屋根下やシート覆いで保管し、トラックでの輸送時も直射を避けるなど、現場で簡単にできる対策を徹底しましょう。

これからの塗料選定は、バイヤーとサプライヤーの真の協働で

コストだけでなく「価値」も評価するバイヤー姿勢へ

未来の製造業現場では、耐候性やトータルコスト、製品寿命まで見据えた塗料選定が重要になっています。
バイヤーは、カタログスペックや単価だけでなく、現場での耐久データ、サプライヤーの改善提案、トラブル発生時の対応力など”定性的な価値”も認めるバランス感覚が求められます。

サプライヤーは「新たな視点」で現場の課題に寄り添う

塗装材料の専門家、塗装工場、下地管理業者など、各プレイヤーが「なぜ古いやり方を続けるのか」「どんな現実問題が発生しているか」を真摯に分析し、最新の材料提案やプロセス改善、保管流通含めて”現場を変える”工夫を惜しまないことが大事です。
目からウロコの改善例こそ、現場を動かす原動力となります。

まとめ:塗装被膜の耐候性はラテラルシンキングから生まれる

耐候性の高い塗装被膜づくりは、単純に「高価な塗料を使う」ではなく、「現場の常識」を疑い、「工程・材料・保管・バイヤー意識」それぞれの壁を超えて考えるラテラルシンキング(水平思考)が鍵です。
トラブルやロスが多発する現状環境から一歩抜け出し、現場、バイヤー、サプライヤーが本音で対話しあえる体制づくりが未来の”強い日本のモノづくり”につながると、現場経験者として強く確信します。
塗装工程の現場管理者、バイヤー志望、サプライヤーの皆様も、今一度自分たちの現場に最適な「紫外線対策」と「塗料選定の工夫」を、目の前のできるところから見直してみてはいかがでしょうか。

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