投稿日:2025年4月27日

スマートデバイスにおけるUX/UI設計とそのポイント

はじめに

スマートフォンやタブレット、ウェアラブル端末などのスマートデバイスは、今や製造業においても欠かせないツールになりつつあります。
しかし、BtoB領域でのUX/UI設計は、一般消費者向けとは異なる視点が必要です。
特に昭和世代から続くアナログ文化が根強い工場では、使いやすさと現場適合性の両立が不可欠です。
本稿では、20年以上の工場運営経験を持つ筆者が、スマートデバイス向けUX/UI設計のポイントを解説します。
調達購買、生産管理、品質管理など各部門での活用をイメージしながら読み進めてください。

スマートデバイス導入が製造業にもたらす価値

リアルタイムデータの可視化

従来のホワイトボードや紙帳票は更新のタイムラグが発生し、現場で起きている事象を即座に共有できませんでした。
スマートデバイスを介して、生産実績や不良情報をリアルタイムに見える化すれば、状況判断が瞬時に行えます。
結果として、ライン停止時間の短縮やリワーク工数の削減が期待できます。

人手不足対策と技能継承

多能工化が求められる昨今、作業手順を動画やARで表示できるスマートデバイスは新人教育の強い味方です。
UX/UIを直感的に設計すれば、属人化していた匠の技術もデジタルで標準化・伝承できます。

部門横断のコミュニケーション活性化

調達が発注の進捗を、品質が検査結果を、製造が設備稼働率を、同じプラットフォームで共有できれば、サプライチェーン全体の最適化が進みます。
UIは部門ごとにダッシュボードを切り替えられる構造にすると、担当者が欲しい情報だけを一目で確認できます。

製造現場特有のUX/UI要件

作業環境:手袋・油汚れ・騒音

現場では安全のため手袋を着用するケースが一般的です。
タッチターゲットは直径10〜12mm以上、ボタン間隔は2mm以上確保し、誤タップを防止しましょう。
また画面が油で汚れやすいため、明度とコントラストを高めに設定すると視認性が向上します。
騒音環境下では音声ガイダンスよりバイブレーションや色点滅などの視覚・触覚フィードバックが効果的です。

短時間での認知負荷最小化

ライン作業者は1画面に30秒以上費やす余裕がありません。
操作フローは「入力→確認→送信」まで3タップ以内を目標にしましょう。
情報を整理し、一次情報(作業指示)と二次情報(詳細条件)は階層を分けて表示します。

多言語・多世代への対応

外国人技能実習生やベテラン作業者が混在する現場では、テキストだけでなくピクトグラムと色を組み合わせたUIが有効です。
フォントサイズは14pt以上、ユニバーサルデザインフォントを用い、文字認識を助けます。

UX/UI設計における6つのチェックポイント

1.操作フローは3タップ以内

工程内でスマートデバイスを触る時間を極力短縮します。
選択肢を最小限にし、リストは検索ではなくプルダウンで素早く選べるようにします。

2.グローブ操作とハードキー連携

静電容量式タッチパネルに対応した手袋が増えていますが、厚手グローブでは反応しづらいこともあります。
物理ボタンやバーコードスキャンで代替入力ができる設計にすると安心です。

3.誤操作防止のフィードバック

送信ボタンはカラーフィードバック+バイブレーションで確実に押下を認識させます。
Undo機能を設け、間違えても3秒以内なら取り消せると現場のストレスが大幅に減ります。

4.カラーユニバーサルデザイン

赤緑色覚特性の作業者にも判別できるよう、色だけでなく形状やパターンで状態を区別します。
エラーは赤+斜線、完了は緑+チェックマークなど、多重表現が有効です。

5.オフライン・弱電波環境対策

金属とコンクリートに囲まれた工場ではWi-Fiが不安定です。
ローカルキャッシュとキューイングでデータを保持し、電波が復帰したタイミングで自動同期させましょう。
送信状態はプログレスバーで可視化し、ユーザーを不安にさせないことがポイントです。

6.セキュリティと権限制御

バイヤーやサプライヤーが同じ端末を閲覧する場合、機密情報を誤って開示しない設計が必要です。
ログイン後の権限によってメニューを動的に生成し、見せない項目は完全にUIから排除します。
NFCや顔認証で素早い本人確認を行うと現場フローを崩しません。

成功事例:スマートピッキングアプリの開発

背景

旧来は紙のピッキングリストをクリップボードに挟み、部品棚を巡回していました。
品番の読み違い、リスト紛失、進捗確認の遅れが頻発していたため、スマートデバイス化を決定しました。

UX/UIの工夫

・品番バーコードをスキャンし、合致すれば緑、誤品は赤でフラッシュ表示。
・棚番号を音声+バイブレーションで通知し、視覚と聴覚の両方で誘導。
・ピック数表示は手袋でも操作しやすい大型ステッパーボタンを採用。
・当日のピッキング残数をプログレスバーで可視化し、作業者のモチベーション維持。

導入効果

誤ピック率70%削減、ピッキング時間25%短縮、紙リスト印刷コスト100%削減を達成。
作業者アンケートでは「画面が見やすい」「ボタンが押しやすく迷わない」と高評価でした。

レガシーシステムとの橋渡し

API連携でデータ二重管理を防ぐ

ERPやMESがレガシーな場合、バッチ投入ではリアルタイム性が損なわれます。
スマートデバイス側でREST APIを用意し、トランザクション単位でPUT/POSTする設計が理想です。
難しい場合はCSVエクスポートを自動化し、夜間バッチで基幹に取り込むハイブリッド方式も有効です。

ユーザー教育と運用定着

優れたUIでも「使わない文化」が残れば意味がありません。
導入初期は、班長が朝礼で1分間の操作デモを行い、質問はその場で解決するワークショップ形式が効果的です。
また、KPIを「アプリ使用率」「紙帳票削減枚数」など具体的に設定し、定期的に可視化すると現場を巻き込みやすくなります。

バイヤー視点で押さえるべきポイント

導入コストではなくTCOで評価

端末価格やライセンス料だけで比較するのは危険です。
誤操作による作業停止や教育時間の増加は隠れコストになります。
UX/UIが優れているほどTCOは下がるため、トライアル時に操作性を体感させましょう。

サプライヤーとの共創フレームワーク

RFP段階で「現場ペルソナ」「使用シナリオ」「業務KPI」の3点を共有すると、サプライヤーは的確なUXプロトタイプを提案できます。
さらにスプリントレビュー形式で週次改善サイクルを回すと、現場ニーズを即座に反映できます。

まとめ

スマートデバイスのUX/UI設計は、現場の安全・効率・モチベーションを左右する重要要素です。
手袋操作、誤操作防止、カラーユニバーサルデザイン、オフライン耐性など、製造業特有の要件を押さえることで、導入効果は最大化します。
バイヤーはTCO視点で評価し、サプライヤーは共創型でプロトタイプを磨き上げることが、アナログ文化から脱却する最短ルートです。
本稿のポイントを参考に、貴社のスマートデバイス活用を一歩先へ進めてください。

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