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切削から板金への工法転換で部品コストを圧縮するVA提案

目次
はじめに:切削から板金への工法転換はなぜ今注目されているのか?
近年、製造業界では原材料価格やエネルギーコストの高騰、人件費の上昇など、コスト圧力が絶え間なく続いています。
その中で、古くからある機械加工(切削加工)に頼った部品製作が、コスト面や納期、品質の観点から見直されています。
一方、板金加工は技術進化や設備の自動化によって柔軟性と生産性を高めており、工法転換の有力候補となっています。
本記事では、長年製造現場で調達購買・生産管理・品質管理・自動化に携わった筆者が、切削から板金への工法転換で部品コストを圧縮するポイントや、現場レベルで実現するための実践的なVA(Value Analysis)提案手法を詳しく解説します。
工法転換の基礎知識:切削加工と板金加工の違い
切削加工とは
切削加工は旋盤やフライス盤、マシニングセンタなどを用い、素材から削ることで目的の形状を「削り出し」ていく加工方法です。
高精度で複雑な形状や微細な寸法も実現できますが、素材ロスが多く、加工時間もかかりがちです。
また、熟練作業者の技能に依存する場面がまだまだ多いという現状もあります。
板金加工とは
板金加工は、主に金属の薄板をレーザーやパンチで打ち抜き、曲げ、溶接、スポット溶接、タップ加工などを組み合わせて製品を作ります。
最近では自動化ラインや多関節ロボットの導入も進み、繰り返し生産や中ロット品において非常にコストパフォーマンスが高い手法となっています。
設計の自由度と価格競争力、この2つを両立できる可能性を秘めています。
製造現場の「昭和型」思考と、その壁を越えるために
日本の多くの製造業では、古くからの「図面どおりの伝統的な切削加工」がいまだに根強く、工法転換の議論が進まないことが多々あります。
「精度のためには削り出し」「強度が心配」「試作品からそのまま量産」「今の仕入先が安心」など、昭和から続く現場感覚が新しいチャレンジを妨げています。
しかしこの「思い込み」に囚われていると、次第に現代のグローバル競争に負け、バイヤーやサプライヤーの両方が生き残れなくなるリスクがあります。
ここで必要なのは、「既存図面を見直して、意図的にVA/VEを施し、最適な工法を公正に選ぶ」という能動的な意識改革です。
切削から板金へのVA提案の進め方:5つのステップ
1. 部品点数・用途の洗い出しとグルーピング
まずは現行生産品の部品点数・形状・求められる機能や用途を“棚卸し”しましょう。
この段階で「機能性」「強度要求」「使用場所(外観、内装、駆動部)」別にグルーピングすると、切削から板金転用がしやすい品目が浮かび上がります。
2. 寸法・材質・公差・表面処理の要求精度を見直す
切削でしか実現できない要求なのか、それとも板金でも十分対応可能なのかを再確認します。
例えば、±0.1mmの精度やミルシート付き材質、特殊コーティングなどは切削の特権ですが、実際の利用用途では「そこまで精度や強度が必要ではなかった」ということが多くあります。
意思決定は設計者・生産技術者を巻き込むのがコツです。
3. 板金の場合のコストシミュレーション・ロット試算
板金加工は、材料取り都合(歩留まり)や加工工程、溶接・組立有無でコストが大きく変動します。
このため、追加工や溶接箇所を最小限に抑えて設計を工夫しながら、100個/500個/1000個とロット別にシミュレーションすることが重要です。
4. サプライヤーとのコラボVAによる実現性検証
板金加工メーカーや加工サプライヤーとのコミュニケーションが成否のカギ。
現場に直接図面を持ち込み、「どこまで板金でできるか」「どのくらいの価格帯になるか」「試作でどこまで品質検証できるか」を詳細に議論します。
ここで“サプライヤー開発”を並行させると、技術レベル&コスト競争力の底上げになりやすいです。
5. 全社的なVA/VE活動として展開・教育
1部門や1品目だけで行っても全社的効果は限定的です。
PDCAで全社VA/VE活動として位置付け、購買部門主導で設計・生産技術部門を巻き込むようにしましょう。
成功事例や失敗事例のナレッジ共有も、今後の業務効率UPにつながります。
切削から板金への工法転換の成功事例
事例1:大型産業機械用パネル部品のVA
大型装置の本体カバーやパネルで、従来はアルミの削り出し(切削)で手配されていたものを、板金(アルミ曲げ加工+TIG溶接)で転換。
外観要求と組立強度のバランスを再検証し、公差を緩和することでコストを40%削減し、納期も約2週間短縮できました。
事例2:ブラケット類の一体化→加工工程・部品点数削減
各種ブラケットやスペーサー部品を、複数個の切削部品→一体型板金部品化(レーザー加工+曲げ+スポット溶接)でまとめた結果、部品点数が半減。
組立工数削減→人的ミス低減→トータルコスト20%カットに繋がりました。
バイヤー目線で求められるサプライヤー像とは?
購買バイヤーの立場から見ると、板金VA提案を成功させるサプライヤーの特徴は以下の通りです。
・VA/VE提案スキルや実績が豊富で、設計チェンジを自ら提案できる
・自社加工の枠に捉われず、最適な外注ネットワークも活用して全体最適を狙える
・品質・納期・コストのバランス感覚に優れ、柔軟なコミュニケーションが可能
・旧図面や“図面レス”案件にも柔軟対応できるデジタルツールを積極活用
・初期試作・評価用サンプルを迅速に出せるスピード対応力がある
逆に「自社の加工しかできない/柔軟性がなく頭ごなしの対応」では、購買サイドの信頼を得るのは難しい時代です。
板金VAを全社で“当たり前”にするために欠かせない視点
工法転換は単なるコストダウンだけでなく、組立効率化・品質安定・調達リスク低減といった副次的メリットも期待できます。
特に今後は人手不足や加工業者の淘汰が進む中、「省人化」「自動化」「標準品活用」といったギアを上げていく必要もあります。
昭和からの“アナログ思考”を脱却し、「誰が・どこで・どう加工するのが最適?」という全体最適化思考を持つことが、今後の日本の製造業に求められる基盤です。
まとめ:切削から板金への工法転換で製造業の未来を切り拓く
切削加工から板金加工への工法転換は、コスト削減だけでなく、納期短縮・サプライチェーン強靭化・省人化といった多面的な効果を生み出します。
「図面どおり」の旧態依然の考え方から一歩踏み出し、設計・購買・生産技術・現場など、全員参加型で能動的なVA提案を浸透させることが、これからの製造業に強く求められます。
バイヤーを目指す方、サプライヤーとして提案力を磨きたい方、そして今まさに現場で葛藤している方に、ぜひ本記事の内容が「新たな地平線」を切り拓く一助となれば幸いです。
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