投稿日:2025年10月9日

缶詰が腐らないための真空充填と高圧殺菌の工程設計

はじめに:缶詰製造が支える「腐らない」安心

缶詰――それは保存食の代表格として、家庭や外出先、災害時にまで利用されている日本人の生活に根ざした加工食品です。

しかし、「缶詰はなぜ腐らないのか?」と問われると、実は明確に答えられない方も多いのではないでしょうか。

その秘密は、「真空充填」と「高圧殺菌」という2つの製造プロセスに隠されています。

この過程には決して一筋縄ではいかない、製造現場特有の難しさ・面白さが詰まっているのです。

本記事では、現場に根ざしたノウハウや業界動向の変遷も踏まえつつ、缶詰が腐らない理由について技術的・現場的に深掘り解説します。

バイヤーやサプライヤー、製造業界で働く方々の視点に立ち、実務に活きる知識やヒントをお伝えします。

缶詰が腐らないロジック:基本は酸素遮断と細菌死滅

まず押さえておきたいのが、缶詰が腐らない理由の本質です。

食材が腐敗する主な原因は、①空気(酸素)から進入する微生物や、②元々食材に存在する微生物が繁殖することです。

したがって、
1.缶詰内部に酸素を残さない「真空充填」
2.熱処理で微生物を死滅させる「高圧殺菌」
この2ステップが設計上のキモになります。

真空充填:酸素断絶で腐敗菌の活動を止める

最初の真空充填は、食品の詰め込み工程の直後、または同時に行われます。

缶内部を真空(低圧)状態に近づけ、可能な限り酸素を除去します。

これにより、好気性(酸素を必要とする)微生物の増殖が防がれるだけでなく、食材自体の酸化変質(変色・風味変化)も抑制されます。

熟練工場では「なぜか毎回、真空度が微妙に変わる」「食材の量や汁気によっても真空度に差が出る」といった現場ならではの課題と地道に向き合い続けています。

実は、昭和の缶詰工場では手作業による蓋閉め・加熱が標準的でしたが、現在ではセンサー連動の自動充填機や真空検知装置が当たり前になりました。

一方で、地方工場や小規模メーカーには未だ昭和流の「勘・コツ」が生き続けている場面も少なくありません。

高圧殺菌:容器ごと加圧加熱して「完全死滅」へ

第二段階が高圧殺菌です。

缶詰の内部には、嫌気性菌(酸素なしでも増殖する菌)も潜んでいる可能性があり、その代表格がボツリヌス菌です。

このため、缶詰は「密封した状態」で「121度, 2気圧以上」「20分以上」といった厳しい基準で加圧加熱(レトルト殺菌)が行われます。

ここでも現場知識がものを言います。

原材料ごとの熱伝導性や充填率によって温度上昇のスピードや殺菌効率は大きく異なります。

例えば、小さな魚介は短時間でも十分熱が通りますが、ごろっとした野菜や塊肉の場合、熱の中心到達までの時間が大きく変わります。

この工程設計には、原材料サプライヤーとの密な情報共有、「どこまで高温で品質を保ち、どこまで短縮して効率化するか?」という生産管理ならではのラテラルな知恵が問われます。

真空充填・高圧殺菌の工程設計において現場が直面する壁

ライン自動化と少量多品種化の狭間で

近年、顧客のニーズ多様化により、缶詰業界にも少量多品種化の波が押し寄せています。

昭和時代のような「ひとつのラインで大量生産」の発想は通用しなくなり、充填量や食材形状に応じて「真空度」「加熱条件」を頻繁に調整しなければなりません。

しかし、自動化設備は本来「設定変更に弱い」という宿命があります。

現場は「パラメータ一発で自動に理想値が出ない」「結局、熟練作業者の五感が頼り」といったジレンマに悩まされています。

この点、工場長経験者が改めて注目しているのが、ラインの「段取り替え効率」と「現場スタッフへの権限委譲」です。

現場がリアルタイムに微調整できる、属人的ノウハウを数値として見える化しさらなる自動化へ反映する。

こうした工場の地道な現場改善こそ“昭和の勘”から“令和のデータ活用”へのギャップを埋めるカギとなっています。

バイヤー・サプライヤー双方に求められる食品安全意識

バイヤー視点から見ると、缶詰の安全性は原材料段階からすでに左右されます。

ボツリヌス菌の芽胞は土壌や水中にごく普通に存在するため、「原料の品質・検査」「搬送過程の衛生管理」「トレーサビリティ」といった川上での安全管理が不可欠です。

昨今の大手チェーンや外資系サプライヤーは、HACCP、FSSCなど国際規格の導入をバイヤー要件として要求します。

一方で、歴史あるアナログ系サプライヤーは「ここまで細かい管理は不要」という昭和世代の感性が根強く、現場の溝となるケースもしばしばです。

食品工場長の立場から見れば、「相手がなぜそこまで細かくリスク管理したいのか?」を知り、納得感をもって現場教育することが、サプライヤー側の生き残り戦略となっています。

現場に根付いた「工程管理」の深化:ラテラルシンキングの実践

では実際、どのようにして真空充填と高圧殺菌の加工精度を高めていくのでしょうか?

「見える化」と「ラテラル思考」で課題解決

従来は、「この原料はしっかり加熱すればOK」「いつもこのくらいの真空度なら十分」という経験則頼みが多く見られました。

しかし近年は、
・データロガーで缶内部の温度・圧力経過を可視化
・X線や赤外線センサーで充填具合や異物を検出
・AIによる殺菌履歴の解析と最適パラメータの提案
といった新技術導入が当たり前になっています。

実は、工場現場で最も重要なのは「過去の常識」を一度、疑ってみることです。

例えば、「真空度」「殺菌条件」は同じでも、パッケージデザインの変更や原料カットサイズの微妙な違いが大きく結果に影響します。

ここで単純なマニュアル対応にとどまらず、「なぜこうすると結果が変わったのか?」という横断的(ラテラル)な気づきが課題解決のカギとなります。

工程条件を本質から理解し、データと現場の肌感を往復させながら粘り強く最適解を探る。

これこそが現代の製造業バイヤー・サプライヤーに求められる本物の現場力です。

昭和から令和へ、サステナブル工場運営への意識転換

昨今はSDGs・サステナビリティの波もあり、缶詰業界でも「加熱エネルギー削減」「廃棄食材リサイクル」「無駄な工程カット」など工程設計の見直しが進みつつあります。

真空充填機やレトルト釜も、省エネ性能やメンテナンス性を軸に新型機器への切り替えが進められています。

工場の運営責任者であれば、「安全・品質」と「コスト・環境配慮」の両立思考が問われます。

このギャップをいかに乗り越えるかは現場のチャレンジ精神にかかっており、伝統の製法を守りつつも時代の要請に応える「技術と知恵の継承」が強く求められています。

まとめ:変化の時代、「現場目線の工程設計」が缶詰の未来を拓く

缶詰が腐らない理由、その根幹は「真空充填」と「高圧殺菌」という二大工程に集約されます。

しかし、その工程設計・管理は、単なるマニュアル対応ではありません。

消費者の安全を守るためには、現場スタッフ一人ひとりが「なぜこの工程が必要か」を自分ごととして理解し、時代や設備の進化に合わせて柔軟に行動することが不可欠です。

昭和流の経験にデジタルの知恵を融合し、現場から積極的な提案や改善を重ね続ける。

“知ったつもり”ではなく、“本当の現場力”を磨き続けること――これこそ、今後の製造業バイヤー・サプライヤーにとって最大の競争力となるでしょう。

バイヤー視点、サプライヤー視点、現場視点。

それぞれの立場から缶詰工程を多角的に捉え、業界全体の発展に貢献していきましょう。

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