投稿日:2025年12月2日

工程内の“良品のばらつき”が後工程でトラブルを生む構造

はじめに

製造業の現場では、「良品」と判定された製品がその後の工程でトラブルを引き起こすという現象が珍しくありません。
「良品」とは、規格に合致し、すべての品質試験をクリアした製品を指しますが、実際にはその中にもばらつきが存在しています。
この“工程内の良品のばらつき”こそが、後工程・最終工程・さらには顧客での不具合という、大きなリスクにつながるケースが多いのです。

この記事では、20年以上の現場経験を元に、なぜこのばらつきが生じるのか、昭和から続く製造業のアナログな慣習の弊害、そしてどう対処し現場改革につなげるかを実践的な観点から掘り下げて解説します。

良品のばらつきとは何か

良品のばらつきの定義

ばらつきとは、同じ規格に合格した製品であっても、寸法や性能、外観などの値に幅があることです。
たとえば、公差±0.1mmの寸法で、A製品は+0.1mm、B製品は-0.09mm、C製品は0.0mmだったとします。
すべて規格内ですが、バラバラな値が許容限界の中で生じています。

これは測定値だけに限りません。
塗装のムラ、素材の硬度、溶接強度など、あらゆる要素に“ばらつき”“ゆらぎ”が存在します。
このばらつきこそが、後の工程や最終製品でのトラブルの火種です。

なぜばらつきがトラブルを生むのか

個々の製品が許容範囲内であっても、常に「上限ぎりぎり」が連続すると、少しの変動が大きな問題を生み出します。

例を挙げると、部品AとBを組み合わせる工程を考えましょう。
部品Aは許容下限ギリギリ、部品Bは許容上限ギリギリ。
この両者が組み合わさると、組立性が著しく悪化したり、現場で強い圧力や加工を加えないといけなくなり、破損や不良発生のリスクが高まります。

こうした局所的な“良品のばらつき”は、最終的には次工程以降の作業負荷の増大、不良率の上昇、最悪の場合は顧客先でのクレーム・リコールにつながります。

なぜ良品のばらつきが生じるのか

上司の“OK”と現場のリアル

昭和から続く製造現場では、“上司が良いと言えばOK”という暗黙の文化が根強く残っています。
「この程度のばらつきなら外には出ない」「うちの工程ではこれが常識だ」と、経験や勘に頼った合否判定が行われてきました。

しかし、製造工程が多様化・高度化した現代では、こうした阿吽の呼吸が通用しなくなりつつあります。
データ化や見える化が進まない現場ほど、良品のばらつきを見逃し、トラブルの“潜在リスク”を積み上げてしまうのです。

属人的な検査・判定の弊害

検査作業が目視や簡易測定だけに頼ると、AさんがOKでもBさんにはNG、という属人性が生まれます。
特に人手不足が深刻な工場では、教育期間の短縮やローテーションの頻度増加により、ばらつきの許容範囲が拡大する傾向が顕著になっています。

ヒューマンエラーや“判断の揺れ”は、どれだけ注意深く検査しても排除は困難です。
結果、工場ごとのローカルルールによる判定基準の差が、全社的な品質担保の障害となるのです。

測定・管理手法の遅れとIT化の壁

現場には未だにアナログな測定器、紙のチェックリスト、記録ノートが多用されています。
デジタル化すれば“ばらつき”の傾向や異常値も素早く発見できますが、現場では「PCが苦手」「慣れたやり方が一番」と抵抗感が強いです。

また投資コストや、生産中断のリスクを避けるために、「今のやり方で問題ない」と現状維持を選択し、結果的にばらつきを放置しがちです。

工程内のばらつきと“後工程はお客様”の本当の意味

次工程不良は前工程の責任

製造業の基本原則として「後工程はお客様」があります。
後工程(自社内の次の製造工程)は、自分が出荷する“最初の顧客”です。
後工程で不具合が発生した場合、その責任は前工程にあります。

この原則は多くの現場で知識として浸透していますが、実態は「とりあえず規格内ならOK」「自分の工程を通った後は関知しない」といった意識が根強く残っています。

良品の範囲内とはいえ、ばらつきの大きい製品を“次工程に丸投げ”する構造が、伝統的な日本の現場文化の中に残っているのです。

“隠れコスト”としてのばらつき対応

ばらつきの大きい部品を受け取った後工程では、単純な組み立てや流れ作業だけでなく、「当てがい直し」「補修」「余分な調整作業」が多発します。

たとえばピッタリ合わない部品が流れてきた場合、ハンマーで叩く、削る、無理やり押し込むなど非定常な対応が増えます。
これが現場の作業負荷・残業の増加や、突発的な不良・設備停止というかたちで“隠れコスト”となって蓄積していきます。

顧客品質に直結する本当のリスク

もっとも大きなリスクは、最終製品のばらつきによる市場クレームやリコールです。
現場の目で見落とした“ばらつき”が、使われる現場で機能不良を引き起こす。
市場の信頼失墜、巨額損失、それによる会社の屋台骨が揺らぐ事例も少なくありません。

この構造的な問題を理解し、ばらつきの根を断ち切る取り組みが今ほど求められている時代はありません。

これからの製造業に必要なばらつき対策

ばらつきの“見える化”の実践

ばらつき問題に取り組む第一歩は、現場の測定データや記録の「見える化」です。

SPC(統計的工程管理)を導入し、各工程のデータを時系列で数値化・グラフ化しましょう。
ばらつきの傾向、異常値の早期検出が可能となり、手遅れリスクを大幅に削減できます。

今やIoT対応の計測器やクラウド管理システムも手頃な価格で導入可能です。
紙に記録するだけでなく、データ蓄積→分析→フィードバックの流れを習慣にしましょう。

現場主体のPDCAで“標準化”する

「一番できる手順・一番ダメにならないやり方」を現場メンバーと議論し、検査基準や作業手順の標準化を進めましょう。
この標準化が進むことで、ベテラン・新人を問わず同じ基準で判定ができます。
現場の納得感を得ながら、PDCAサイクルを回し、都度最適化する体制づくりが不可欠です。

工程横断の情報共有文化を創る

部門を超えたばらつき情報の共有が、全体最適へのカギです。
「工程Aがこんなリスクを持っていた」「工程Bでどんな補正処置が増えているか」など、部門横断の会議や定例報告を設けましょう。

QCサークルやカイゼン提案活動を、ばらつき対策に直結するテーマとして取り組ませるのも効果的です。

サプライヤー・バイヤーの視点で“ばらつき”を読み解く

バイヤーの苦悩と本音

調達バイヤーの立場からは、「仕様通りだがトラブルが多い」「同じサプライヤーでもロット毎に組み立てやすさが違う」という根深い課題に直面します。

購買価格だけでなく“安定品質”が真の付加価値であり、安さ優先の短期発注がばらつきリスクを高める危険性があります。

バイヤーとしては、サプライヤーとも継続的な品質会議や現場監査(工程監査)を実施し、ばらつきの原因や傾向を数値・実態で掴むことが不可欠です。

サプライヤーの立ち位置と勝ち残りのヒント

サプライヤー側は「良品判定はクリアしている」「クレームも無く流れている」と現状維持思考になりがちです。

しかし、バイヤーが本当に求めているのは「ばらつきの少ない安定生産」「イレギュラー発生時の迅速な根本対策」です。
工場の生産技術者や品質保証担当者が、納入実績・出荷前検査データ・工程異常の全員共有に本気で取り組み、他社との差別化を示すことで「バイヤーに選ばれるサプライヤー」へと進化できます。

おわりに

工程内に潜む“良品のばらつき”は、現場にとって見えにくい、しかし確実にリスクを内包した存在です。
昭和時代から続く現場慣習・属人的な検査体制・部門間の壁が、現代の製造現場でも根強く残っています。

本記事で示した通り「ばらつきの見える化・標準化」「工程横断の情報共有」「バイヤー目線でのサプライヤー連携」こそが、現場力進化と顧客信頼獲得の第一歩です。

小手先の品質向上ではなく、“ばらつき”という見えざる地雷原を一つ一つ踏破し未来の製造業の新地平を開いていきましょう。
現場でカイゼンに取り組む方、バイヤー・サプライヤーそれぞれの立場から、ぜひ“ばらつき”という観点を日々の改善活動に役立てていただければ幸いです。

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