投稿日:2025年6月19日

組込ソフトウェア開発における検証手法と信頼性向上不具合防止のポイント

はじめに:変化する製造現場と組込ソフトウェアの重要性

製造業の現場では、機械や設備の自動化・IT化が加速し、以前にも増して組込ソフトウェアの役割が大きくなっています。

ものづくりの現場では、PLCやマイコンによる制御はもちろん、各種センサやロボット、IoT対応によるデータ取得や遠隔監視といった領域でも、ソフトウェア品質が全体の生産性や安全性に直結します。

しかし、昭和時代から続く「現場主義」「暗黙知」「長年の勘」といった風土が根強く残る製造現場では、組み込みソフトウェアの信頼性や品質担保の手法について十分に標準化・体系化が進んでいないケースも多いのが現状です。

本記事では、現場で20年以上の実体験に基づきながら、現代製造業に求められる組込ソフトウェア開発の検証手法や、不具合防止に欠かせない信頼性向上のポイントについて深堀りしていきます。

バイヤーやサプライヤー、エンジニアや生産管理者の皆さんに、実践で役立つ知見をお届けします。

なぜ組込ソフトウェアの検証が重要なのか

製造現場における「目に見えない不良」の怖さ

ハードウェアの不良は形になって現れる一方、ソフトウェアのバグや不具合は表面化しづらく、初期段階では発見が難しいという特徴があります。

たとえば、生産ラインの異常停止や、予期せぬ動作、伝達ミスによる材料ロスなど、ソフトウェア由来の不良は最終的に多額の損失や社内的信用失墜に直結します。

最近は車載システム、FA機器、家電など、どこを見ても「ソフト不良がリコールや納期遅延の原因となった」というニュースが目立っています。

現場における「目に見えない不良」をいかに未然に防ぐかが、製造業の競争力や製品価値の根幹といえるでしょう。

組込ソフトウェアに求められる検証範囲の広がり

従来の組込ソフトは単純な制御が主目的でしたが、最近はネットワーク接続やクラウド連携、セキュリティ対策も含めて検証が必要となっています。

単体テスト・結合テスト・システムテストにとどまらず、通信エラーや不正アクセス時のロバストネス、長期運用を想定したストレステストなど、多角的な検証手法が欠かせません。

よくある現場発の課題とその本質

試験の形骸化、手戻りの温床

製造現場でよく聞く悩みとして、
・テストケースが仕様書のコピペで、現物での実態と合っていない
・「動いたから良し」となり、異常系や例外処理が手薄
・設計変更や部品仕様の違いに検証が追従できていない
などが挙げられます。

これは”昭和流の現場勘”や、”形式だけの検証”が改善されていないことが根本原因です。

指摘事項をチェックリスト化したり、工程ごとにエスカレーションを可視化するなど、ルールだけでなく「なぜ現場で本質的なテストが必要なのか」を全員で意識共有することが重要です。

ブラックボックス化しやすいライブラリや外部モジュールの運用

特に昨今はオープンソースのソフトや外部提供されたツールを組み込むケースが増えています。

こうした”ブラックボックス”に関しては
・どこまで内部動作やバージョン更新を把握できているか
・自社基準での再検証や、ベンダーとの情報連携が取れているか
を意識する必要があります。

現場目線を活かして「外部依存部分の検証手順を自社ノウハウとして標準化」することが、長期的なリスク低減につながります。

信頼性向上のための検証手法 〜具体的アプローチ〜

1. 要求品質を明確にするファンクションテストの徹底

もっとも初歩でありながら、意外と落とし穴が多いのが「本当に意図通りに動作するか?」という機能テストです。

要求仕様(SRS)を細分化し、「もしこの条件なら?」「この順序の操作は?」といった具合に、現場のオペレーターの行動も想定したケースを実践的に洗い出します。

失敗例を記録し、傾向分析するルーチンを組めば、現場の暗黙知や”うっかり操作”がソフト設計側にも伝わる仕組みができます。

2. ハードウェアとの境界(インターフェース)の徹底確認

アナログな現場では、「センサーがつながればOK」「リレーが動くからOK」という過信がありがちです。

しかし、センサーの誤差やノイズ混入、経年に伴う信号のズレなど、現場特有の要因が意思決定ミスを生むことも多いです。

おすすめは「ハードとソフトを意図的にミスマッチさせる異常シナリオテスト」です。

例として、「センサー値が急に異常値を出した場合のA/D変換」「リレー切り替え時の多重入力」といった、実際の現場トラブルに基づくリアルなテストを事前に計画しておくことが、ロバストなシステムづくりには不可欠となります。

3. 長期安定稼働を見据えた耐久テスト・バウンダリテスト

工場ラインや工作機械などは24時間365日動き続けることも珍しくありません。

たとえばマイコンのメモリリーク、ログファイル肥大化、繰返し通信によるオーバーフローといった、「長期稼働時にだけ起こる不具合」も多くあります。

このため「連続稼働試験」「各種パラメータを限界状態で操作するバウンダリ値テスト」など、現場運用に即した耐久性の検証が必須です。

現場経験者の観点で、「月次点検のタイミングとテストパターンを合わせる」といった運用連携が生産管理上のリスク低減に大きく寄与します。

4. 工場現場ならではの「ヒューマンエラー」を意識した検証

組込システムにおいては、現場作業員による操作ミス、設定ミス、感電・事故防止の観点からも意外なテストが必要です。

たとえば「間違った手順で操作しても異常停止しないか」「工具でスイッチを操作した場合の影響」「現場独自の最短化操作時の挙動」など、現場固有のヒューマンエラーを現物を使って徹底的に洗い出しましょう。

現場ヒアリングや実際の運用観察を通じて、現場経験の浅いエンジニアにもノウハウ共有することが大切です。

効果的な検証実践を進める業界トレンドと現場起点の工夫

モデルベース開発(MBD)の現場展開

最近注目されているのが、実機を使わずソフトウェアや物理挙動をバーチャル空間で再現し、検証するモデルベース開発(MBD)です。

従来は「実機が来ないとテストできない」「現場が忙しくて試験の時間がとりづらい」などの課題がありましたが、MBDを使うことで
・設計段階から仕様漏れやバグの早期検出
・現場の稼働に影響を与えずに様々なテストシナリオを検証
が可能となっています。

現場工程とも連携し、「シミュレーションと実機検証のフィードバックループ」を構築することで、設計品質と生産現場の安定稼働が同時に実現できるのが大きな魅力です。

アナログとデジタルの融合:現場ヒアリング×可視化ツール

昭和的なヒアリング文化や職人気質も、デジタル時代と組み合わせて進化しています。

たとえば
・現場オペレーターの声をテスト計画に反映するワークショップ
・操作ログや異常履歴の自動記録/ダッシュボード化
・テスト進捗やバグ状況を全員で見える化
などが実践されています。

現場経験者が異常の傾向や、発見時の違和感をデータにして、全社でナレッジとして活用する土壌を作りましょう。

信頼性向上・不具合防止のために現場で活きる3つの心得

1. 「安全第一」を形だけで終わらせず、ソフト設計と現場運用を双方向につなげる。
2. ヒューマンエラーや例外ケースは「現場の想定外」を全員で共有し、設計・運用へ反映する。
3. 自社現場での異常経験やノウハウは、標準化してベンダーや設計委託先にも展開する。

このような地道な積み重ねが、最終的な製品力や市場信頼性につながります。

まとめ:製造業の未来を創る、現場発組込ソフトウェア品質の底上げ

いかにデジタル化や自動化が進んでも、「現場ならではの勘や経験」「見えない部分まで徹底して検証できる現場力」がものづくりの本質です。

バイヤー、サプライヤー、現場管理者、エンジニアーー全ての立場で、「未然防止」と「価値ある品質」を意識した検証実践がこれからますます求められます。

本記事が、皆さまの日々の業務改善や新しい検証手法の導入、現場ノウハウの継承といった実践へのヒントとなり、製造業の信頼性向上に少しでも貢献できれば幸いです。

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