投稿日:2025年10月9日

塗装流れ跡の発生を抑えるための粘度・吐出圧力管理手法

はじめに:塗装現場における“流れ跡”問題のリアル

製造業の現場、とくに塗装プロセスにおいて「流れ跡」の発生は大きな悩みの種です。
流れ跡とは、塗装面に筋や濃淡のムラが生じてしまい、製品の美観や品質を大きく損なう現象です。

塗装現場の第一線では「この流れ跡、何とかならないか」「高級塗料を使っても直らない」「吐出圧だけ上げても解決しない」などの声が絶えません。
特に昭和から続くアナログ志向の業界では、経験と勘に頼るやり方も根強く残っています。

本記事では、塗装流れ跡問題の本質を見つめ、粘度と吐出圧力という重要パラメータを徹底管理する実践的手法をご紹介します。
調達・購買、生産管理だけでなく、サプライヤーやこれからバイヤーを目指す方まで、現場と未来をつなぐ内容を深く掘り下げていきます。

塗装の流れ跡、そのメカニズムとは?

現場で何が起きているのか

流れ跡は主に「塗料が塗装面に均一に広がらず、一部が重力や表面張力の影響で筋状に溜まる・流れる」ことで発生します。
この現象にはいくつもの要因が絡み合っていますが、大別すると以下のようになります。

  • 塗料の粘度が高すぎる/低すぎる
  • 吐出圧力が不足・過剰
  • ガンの吹き付け速度・距離の不均一
  • 下地処理や基材表面の影響
  • 温湿度など環境条件

他にも多様な要素がありますが、今回は「粘度」「吐出圧力」に焦点を絞って究明します。

アナログ現場の“思い込み”が流れ跡を呼ぶ

昭和から令和に至るまで、製造業の現場では「いつもの配合、いつもの方法」で仕事を続ける文化が根強くならんでいます。
現場のベテランほど「これで大丈夫」と思い込みが強く、その判断が流れ跡を助長することも珍しくありません。
まずは、この“慣れ”による盲点を認識することが重要です。

粘度管理:塗装品質の根幹を握るパラメータ

なぜ粘度管理が要なのか

塗料の粘度とは、液体の流動のしやすさ—すなわち「トロみ」「サラサラ感」を数値化したものです。
粘度が高すぎれば、塗料は広がらず厚くなり、流れてしまい流れ跡が発生します。
逆に低すぎると垂れやすく、これも流れ跡やムラの原因となります。

現場でできる粘度管理のコツ

1. 塗料メーカーレシピの遵守
ほとんどの塗料にはメーカーレシピが添付されています。
推奨希釈率や指定シンナー、温度帯まで記されているので、まずはこれを厳密に守ることが第一歩です。

2. 温度補正を意識する
現場温度が10℃違えば、粘度も大きく変化します。
温度換算チャートや、温度測定付きの粘度計(カップ)を活用し、一定の条件を維持しましょう。

3. 粘度カップの標準化
作業者が複数いる工場では、粘度カップ(例えばフォードカップ4など)を標準化し、毎日の塗料準備で使います。
だれが測っても同じ結果が出るよう、環境と手順もセットで統一します。

4. 粘度測定とトレース管理
日々の粘度結果をロギング・管理することで、「昨日と今日、なぜ仕上がり感が違うのか」といった因果関係の可視化も進みます。
デジタル管理できなくても、記録を残して分析習慣をつけることが大切です。

吐出圧力管理:塗装設備の“呼吸”を整える

吐出圧力がなぜ重要なのか

塗装ガン(エアスプレー、エアレスなど)で塗料を安定的に吐出させるには、適切な圧力コントロールが必須です。
圧力が高すぎると塗料の飛散が増し、輸送中に乾燥しかねません。
一方、低すぎると粒子が粗くなって流れ跡の大きなリスクを孕みます。

現場でできる吐出圧力の管理方法

1. メーカー推奨値を必ず確認
塗装システムごとに適正な圧力範囲があります。
装置のマニュアルや塗料のTDS(技術資料)を事前に確認し、推奨値にセットしましょう。

2. 初期値から徐々に微調整
実際の部品や製品の塗装テストで、仕上がりを見ながら0.05MPa単位など細かく圧力を調整します。
現場で「ちょっとずつ変えてみる」ことで、最適点を導き出します。

3. ガンのノズルや吐出量もセットで評価
圧力だけでなく、ノズル径・塗料吐出量が一体で仕上がりに影響します。
塗装ガンの状態(摩耗や詰まり具合)も都度チェックし、トータルで管理しましょう。

4. 吐出圧力計の定期校正
古い圧力計ではズレが発生し、現場の勘違い原因となります。
一定期間ごとに校正・交換することで再発防止につながります。

アナログ現場でもできる、自動化・デジタル化の小さな一歩

現場の“デジタル化”には抵抗感がつきものですが、今や粘度や圧力のデジタル記録は意外に簡単です。
既存設備に外付けできる記録計や、スマートフォン連動のメモリも活用できます。
1日1フォーマット、エクセルや紙で「見える化」するだけでも、管理品質・トレーサビリティは大きく向上します。
まずはアナログ管理の「標準化」→「記録のデジタル化」へと進めると良いでしょう。

サプライヤー・バイヤーが知るべき現場の“本音”と課題

なぜ現場改善は難しいのか?

調達側・バイヤーが「流れ跡をゼロにしてほしい」と要望しても、現場の作業者には「どう直せばいいのか、具体的な基準が分からない」「指示と現実がかみ合わない」といったストレスがあります。
また、サプライヤー側も「バイヤーの品質要求が高すぎる」「現場環境の違いを理解してもらえない」と悩みを抱えています。

現場とバイヤーの“温度差”を埋めるには

まずは「粘度」「吐出圧力」など数値で共通言語化すること、記録と現場写真をセットでやりとりすることが推奨されます。
バイヤーも現場見学や改善活動への同行を積極的に行うことで、サプライヤーとの信頼関係が強化されます。
お互いに「状況と要件」をリアルタイムに共有する工夫が、ものづくり現場の品質向上への近道です。

まとめ:現場主導で“塗装流れ跡ゼロ”を目指す

塗装流れ跡の抑制は、単なる「勘と経験」から「理論と管理」への転換が鍵になります。
粘度と吐出圧力の管理を徹底することで、これまで曖昧だった不良原因が見える化され、現場改善のサイクルが回るようになります。

昭和のやり方を大切にしつつも、そこに数値管理やデジタル記録といった新技術を融合させて“現場力”を最大化しましょう。
調達・購買担当者、これからキャリアを積みたい方、現場で悩む全ての方に、この記事が実践のヒントとなれば幸いです。

今こそ「現場の知」と「数値管理」を組み合わせ、塗装不良ゼロという新たな地平線をともに目指しましょう。

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