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FEM解析で可視化するねじ緩みメカニズムと対策

目次
はじめに
ねじは、製造業の現場において最も基本的な締結部品のひとつです。
しかし、「ねじの緩み」による事故やトラブルは、今も絶えません。
その原因究明や対策として、近年ますます注目されているのが「FEM解析(有限要素法解析)」です。
FEM解析を活用することで、従来目視や定性的評価に頼っていたねじ緩み現象を、数値シミュレーションで可視化できます。
本記事では、現場で培った経験や業界の裏側を交えながら、ねじ緩みのメカニズムとFEM解析による問題解決の実例、そして具体的な対策について、深堀りします。
バイヤーや設計者、現場担当者だけでなく、サプライヤーの視点からも活用できる内容です。
そもそも「ねじ緩み」とは何か
まず、「ねじが緩む」とは、どのような現象なのでしょうか。
ねじの緩みは、主に以下の二つのケースで発生します。
- 外れ荷重や振動によって、ねじ部で摩擦力が低下し、徐々に回転・軸力低下が発生する。
- 繰り返し荷重や熱膨張による材料変形で、初期の締結力が低下し、固定できなくなる。
特に製造現場では、組付けた直後は問題なくとも、運転後しばらくしてから自然と緩んでしまう“経年緩み”が多発します。
不具合の再現が難しいだけに、「原因不明」や「人的ミス」で片づけられてきた背景もあります。
昭和時代より「この機械、この作業、このねじは緩みやすい」という職人勘で対応していた現場も少なくありません。
しかし、今やサプライチェーンはグローバル化し、責任ある品質管理・保全が要求される時代です。
より説得力のある説明と再発防止策が求められています。
従来の緩み対策とその限界
これまでのねじ緩み対策には、いくつかの「常套手段」が現場レベルで定着してきました。
スプリングワッシャー・ナイロンナットの使用
最もオーソドックスな方法です。
しかし、振動や繰返し荷重が大きい場面では「万能」ではなく、万全の対策と言い切れません。
ねじ止め剤(ロックタイトなど)の塗布
化学的手法として浸透していますが、塗布量・乾燥不良・再利用不可といった問題や、定期メンテナンスの難しさも指摘されています。
適正トルク管理・締付確認
現場でトルクレンチなどを使う基本動作ですが、「トルク管理さえ守っていれば大丈夫」という過信や、人的ミス・締付順序のバラツキなどヒューマンエラーの温床にもなっています。
現場の勘頼みからの脱却の必要性
現場力重視の日本企業では、「あの人がやっていれば問題ない」と職人技や経験則に依存しがちです。
しかし多様な技能実習生や外部委託先との協働が増える今、本質的な理論・客観性が不可欠となりました。
FEM解析による「ねじ緩み」の可視化とは
FEM解析とは、Computer-Aided Engineering(CAE)の代表的手法で、構造物を細かな要素(メッシュ)に分割し、各要素にかかる応力や変形量、摩擦係数などを数値シミュレーションする技術です。
近年のワークステーションやクラウドサービスの進化で、設計・開発現場でも手軽に活用できるようになってきました。
FEM解析で分かること
FEMによるねじ締結部の解析では、例えば以下の内容が“見える化”されます。
- 締付時の軸力分布(バラつき、適正値の確認)
- 部品や座面の変形挙動(局部的な応力集中の発見)
- 外部振動や繰返し荷重を与えた場合の、ねじ部の回転挙動や緩みまでの過程
- 使用する組合せ材質や表面処理の違いによる摩擦係数の影響
- 設計変更(ねじ長さの調整、嵌合部の補強など)の有効性検証
これまでは「現象再現が困難」「理由がよくわからない」とされていた、現場の“なんとなく緩む”という感覚部分も、具体的に数値化・動画化して説明できるようになりました。
解析例:自動車部品のエンジンマウントのねじ緩み
強い振動に晒される自動車のエンジンマウント。
FEMを用いて、エンジン稼働時の振動波形を再現し、ねじ部の応力集中箇所と締付力の低下過程をシミュレーション。
結果、「特定の荷重条件時に局部的な座面変形が先行し、それが摩擦係数の低下→緩みの開始」というメカニズムまで見抜くことができました。
この知見を基に、座面材質の変更や潤滑剤の選定変更を施し、再発防止と生産性向上を達成した事例は多々あります。
産業界に根付く「アナログ的常識」とFEMの融合
FEM解析は、「机上論」と受け取られがちなイメージも根強くあります。
特に昭和世代の現場では、「そんなもの、設計上では分かっても、実際の現場ではどうなの?」と慎重に見られがちです。
しかし、実際にはFEMを“現場の経験・カン”と合わせ技で使うことで、むしろトラブルへの感度があがり、「手戻りの激減」「原因特定の迅速化」など、圧倒的な効果を発揮しています。
FEM導入で広がる「見える化」の効用
- 現場の不具合現象に理論的根拠を付与し、再現性の高い対策が行える
- 若手や未経験者でも“目で見る納得感”が得られ、教育・水平展開に効果的
- 客観的な数値結果をもとに、サプライヤー間の交渉もスムーズに
- 設計変更におけるリスク評価やコスト対策も数値ベースで根拠をもたせられる
こういったメリットは、DXやスマートファクトリーが叫ばれる時代のものづくり現場で、「昭和流の勘と経験」と「現代のデジタル技術」を組み合わせた“ハイブリッドな現場改革”と位置づけられます。
FEM解析を活かした実践的ねじ緩み対策
では、実際のねじ緩み対策をどうアップデートすべきなのでしょうか。
現場目線で取り入れやすい、FEMの知見を活かした対策例を挙げます。
1. 設計段階での締結力・応力分布の最適化
・FEMで荷重/応力集中箇所を把握し、座面形状の最適化/補強
・締結順序やトルク分割パターンの再検証による軸力バランスの最適化
2. 緩みやすさ診断シミュレーションの活用
・想定される環境振動・温度変化パターンをデータ化し、ねじ部の緩み発生しやすいケースを事前抽出
・現場で実際に使われている「ねじ締結パターン(品番・手順)」毎の脆弱性診断
3. 定期保守・トラブル時の原因特定にFEMを活用
・不具合原因特定時、再現テスト困難な場合でもFEM解析で“仮想検証”し、現象や影響度を予測
・原因追求の「見える化」で、教育指導や再発防止ルール策定の根拠付けに
4. サプライヤー・バイヤー間での技術交渉力の向上
・サプライヤーから提案を受ける際、FEMレポートがあれば納得性や交渉力が向上
・仕様変更やコスト削減依頼時、「緩みリスクの具体的数値」として根拠ある折衝が可能
今後の製造業とFEMの進化
ねじ緩み解析に留まらず、FEMは今後益々、スマートファクトリー化やリモート保守、予知保全などにも不可欠な武器となります。
また生成AIやIoTデータ連携で、「設計~現場~保全部門」間の情報循環と、高速な“仮想検証~実証”サイクル形成が期待されています。
昭和流の職人技術とAI解析・FEMが両輪となる時代だからこそ、高度な現場知識をもったバイヤーやエンジニアが、サプライチェーン全体をリードしていくべきタイミングです。
まとめ
ねじ緩みは、製造現場を支える最重要の締結トラブルです。
従来は「アナログ的慣習」や「勘」に頼っていた現場ですが、FEM解析技術の導入により、ねじ緩みのメカニズムや再発リスクを数値で可視化し、納得感ある対策・技術展開が可能となりました。
現場担当者・設計者・バイヤーはもちろん、サプライヤーの立場でも「現場目線+FEMのハイブリッド知見」を武器に、これからの高度な品質管理・DX化時代の競争力強化を図っていきましょう。
「なぜ緩むのか」「本当に有効な対策は何か」を、データと経験の両面から深掘りする。
日本のものづくり復権、その最前線がFEM解析から始まっています。
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