投稿日:2025年8月17日

工程別エネルギー費の見える化で原価の省エネ余地を炙り出す

はじめに:工程別エネルギー費の見える化が求められる背景

製造業におけるエネルギーコストの最適化は、かつてないほど重視されています。

電力料金の高騰、サプライチェーンのグローバル化、そして脱炭素社会への要請など、さまざまな要因が複雑に絡み合い、企業経営・現場運営に大きな影響を及ぼしています。

特に昭和時代から続く日本の製造業の現場では、「長年の勘と経験」に頼る原価管理からなかなか脱却できず、エネルギー費も原価明細の一つとして一括りに処理されがちでした。

しかし、実際には「どの工程」で「どれだけのエネルギー」が消費され「どこに無駄」が潜んでいるかを掘り下げて把握しなければ、本当の意味でのコストダウンも省エネも実現はしません。

本記事では、20年以上の現場経験と管理職目線も踏まえ、工程別エネルギー費の見える化がいかに原価低減や現場改革、省エネに寄与するのか、最新動向や現場発の「生きた知恵」を交えて解説します。

バイヤーを志す方、サプライヤー視点でバイヤーの戦略を見極めたい方にも必ず役立てていただける内容を目指します。

なぜ「工程別」でエネルギー費を分解するのか

全体把握の意義と限界

従来の多くの工場では、エネルギーコストは「工場全体」として一括把握されていました。

会計上も「動力費」や「光熱費」としてまとめられ、細部に目が届くことは稀だったのです。

これでは、「このラインで消費が著しく増えている」「特定工程で停止ロスが多い」といった原価の“隠れた膨張”要因を察知できません。

全体感はつかめても、現場の打ち手まで結びつけにくいのが現実問題でした。

工程別分解がもたらすもの

工程ごとでエネルギー消費を分解して管理することで、
– どの工程が無駄にエネルギーを使いすぎているか
– 設備の老朽化や不適切な運転で生じるロス
– 省エネ投資効果の具体的算定
– 仕事量・稼働状況に応じたエネルギー効率の平準化
などが実現できます。

また、原価低減だけでなく、カーボンニュートラルへの対応や、顧客への開示・アピール材料にもなり、営業的にもメリットが大きいのです。

バイヤー・サプライヤー関係における重要性

原材料・部品調達やサプライヤー選定の場面でも、「エネルギー効率の良い工場」「工程別原価の明確な管理」をアピールできると、先進的な顧客からの信頼を勝ち取れます。

逆にバイヤーの立場に立てば、工程別エネルギー原価を追及することで、サプライヤーの“強みと弱み”を見抜き、交渉戦略にも活かせるのです。

工程別見える化のための具体的なアプローチ

データ収集基盤の構築

工程別エネルギー見える化の第一歩は、詳細なデータ収集にあります。

– 設備ごと・工程ごとに電力計・ガスメーター・蒸気メーターを設置する
– IoTセンサーを活用し、稼働データと連動させて自動収集
– 各ラインや設備の運転ログ、製品生産量とのひも付け

昭和型の「目視点検」から、リアルタイムなデジタルデータ収集にシフトする必要があります。

老朽ラインでも最低限の分電盤メーター取り付けや一時的なスマートメーター設置でまずは“大ざっぱ”な傾向把握から始めるべきです。

データの分析・可視化

データが集まったら、工程別、日別、月別、製品別に消費量と原価を見える化します。

– グラフやヒートマップによる異常値の発見
– 仕掛品・設備停止時間に着目した「非稼働時ロス」の抽出
– 同一設備の時間帯・生産品種別の効率変化

この分析作業は「現場オペレーター×エンジニア×管理職」が一体となり、「なぜここだけ消費が多いのか?」を深掘りするラテラルシンキングが重要です。

時に現場の“当たり前”に隠れた長年の無駄が炙り出されます。

省エネ改善の打ち手の具体例

工程別エネルギー費の見える化で判明する無駄には、次のような打ち手が有効です。

– 各工程での不要なアイドリング停止(待機時のコンプレッサー稼働など)
– 設備のオーバースペック・無駄な補助機器の稼働見直し
– 熱回収・排熱利用などのリサイクル策
– 工程順序変更による加熱・冷却効率の最適化
– エネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入

現場独自の運用改善、そして省エネ投資(設備更新やインバーター化など)の投資対効果も工程単位で具体算定できるようになります。

昭和型アナログ業界の「壁」を乗り越えるポイント

なぜ現場に見える化は根付かなかったのか

長年、現場にエネルギーコストの見える化・分解管理が広がらなかった理由として、
– 分解管理用の人材・ノウハウが不足
– 「我々の現場は特殊/昔からこれでやってきた」といった心理的抵抗
– 取引先や経営からも厳しく問われることが少なかった
– 部門横断・現場横断の連携が難しい
などが挙げられます。

また、昭和以来の「日常点検」「台帳記入」が型通り行われるものの、実際の省エネ提案や原価改善へと十分に活用しきれていない状況もみられます。

現場を巻き込むための処方箋

こうした“昭和的壁”を越えるには、
– 「自分たちの仕事が、原価や環境にどう貢献するのか」成功事例の共有
– 単なる数値報告を超えた「現場主体の深掘りミーティング」の定着
– 業務分担線を超えた横串連携(現場作業者×生産技術×購買担当)
– バイヤー、サプライヤーとの開かれたコミュニケーション

現場を責めるのではなく、現場発で「ここは省エネ余地がある」と主張できる風土づくりが決定的に重要です。

また、「工程別・見える化」によって、昭和的“神の一手”だったベテランの知恵すら、全体最適を考えた改善に繋がる道が開かれます。

工程別エネルギー費見える化の最新動向と効果測定

デジタル化(DX)によるブレークスルー

近年は、クラウド型エネルギーマネジメントシステムや低コストIoTセンサーの普及により、古い工場でも工程単位・設備単位の見える化が格段に容易になっています。

また、AIを使った異常傾向の検出や停止中消費電力の自動アラート、需要予測に基づく自律的な省エネ制御も現実味を帯びてきました。

これらDXの取り組みは、たとえば
– 「○号ラインの停止30分間で○円のエネルギーロス」
– 「老朽機械と新設備の省エネ効果の比較」
– 「属人的な調節作業の自動制御化による原価削減額」
といった定量的な効果データを経営層と共有でき、「今どこを、どれだけ直すべきか」の意思決定が加速します。

カーボンクレジットや取引先評価への波及

CO2排出量管理の大原則も「活動≒工程ごと」の管理に基づきます。

工程別エネルギー原価見える化を進めることで、顧客企業のESG評価やサプライチェーンのカーボンフットプリント開示の要求に応えやすくなります。

ひいては、CO2排出権取引やグリーンサプライヤー認証といった新たな事業機会にもつながります。

まとめ:ラテラルシンキングで新たな原価最適化を目指そう

工程別エネルギー費の見える化は、単なる省エネ活動に留まりません。

原価管理・現場改善の「本当の勘所」をあぶり出し、現場主導で持続的な競争力強化を実現する鍵です。

– 「全体のどこに隠れた無駄があるのか?」
– 「バイヤーもサプライヤーも、双方の立場で何を勝ち取りたいのか?」
– 「デジタルやアナログの壁を現場がどう乗り越えるのか?」

こうした疑問をラテラルシンキングで深堀りし、自社現場だけでなく取引先やお客様の目線で原価改善=事業価値創造を実現するのが、令和時代の製造業マインドセットです。

昭和の勘や経験、そして新しいDXの力を結集させ、原価「見える化」による真の省エネ・高収益化に皆さんもぜひチャレンジしてください。

You cannot copy content of this page