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Tier2とTier3の価格を直接把握し中間マージンを可視化する方法

目次
Tier2とTier3の価格を直接把握し中間マージンを可視化する方法
はじめに:なぜサプライチェーンの下流価格を把握する必要があるのか
製造業においては、完成品メーカー(OEM)から一次部品メーカー、そしてその下流にあたる二次(Tier2)、三次(Tier3)サプライヤーへとサプライチェーンが広がっています。
従来、調達バイヤーは一次サプライヤーとの直接取引に集中し、それ以下の階層(Tier2やTier3)の価格やコスト構造までは踏み込んできませんでした。
しかし昨今のコスト削減圧力やサプライチェーン全体の最適化、リスク分散を目指す動きの中で、バイヤーが二次・三次サプライヤーの価格・マージン動向まで直接把握することの意義がますます高まっています。
また、昭和から続くアナログな取引慣行では、中間層で上乗せされてきたマージンの存在も無視できません。
本記事では製造現場と調達現場両方の経験値を活かして、「Tier2(2次)」「Tier3(3次)」の価格をどう把握し、中間マージンを可視化するのか、その実践的アプローチを解説します。
- バイヤーを目指す方
- 現場でコスト管理に悩む方
- サプライヤーとして顧客ニーズを知りたい方
こうした皆さまにお役に立つ内容をお届けします。
現状の取引構造と“価格の不透明性”が生まれる理由
階層的なサプライチェーン構造
多くの日本の製造業では、OEM(完成品メーカー)が一次サプライヤー(Tier1)と直接商談し、実際の部品やモジュールの一部はTier2、Tier3のサプライヤーで製造されています。
この時、各階層では以下のような商流が発生します。
- OEM → Tier1(一次サプライヤー)
- Tier1 → Tier2(二次サプライヤー)
- Tier2 → Tier3(三次サプライヤー)
それぞれの層で「利益確保」「コスト加算」があり、商流が深くなるほど中間マージンが積み上がっていきます。
価格情報が見えない仕組み
この多重構造のなか、バイヤーの視点で大きな課題になるのは「情報の断絶」です。
Tier1からは取引価格の提示があるものの、その下流のTier2やTier3の価格情報は隠されてしまう傾向が根強く残っています。
理由は主に以下の3つです。
- 取引ごとに“秘密保持”意識が強い
- 下流メーカーのノウハウや見積根拠を上流へ見せたくない意向
- 中間マージン(上乗せ)の存在を隠したい意図
この構造が「堂々たる中間マージン温床」となり、本来なら全体最適を考えた価格交渉やコストダウンが進まない大きな壁となっています。
DXの遅れや昭和的な“なあなあ”商慣習が、この価格の不透明性を助長しています。
Tier2・Tier3価格を把握するメリットとは
1. 中間マージンの明確化とコストダウン余地の顕在化
サプライヤーチェーンの下流価格構造を把握し、中間マージンを可視化することで、どこに「無駄な上乗せ」や「不合理な価格設定」が潜んでいるかを炙り出すことができます。
たとえば、原材料の価格は下がっているのにTier1の見積価格が変わらない場合、その下のTier2・Tier3にどれだけマージンが乗せられているかを確認することで「削れるコスト」の具体的ポイントが見えてきます。
2. サプライチェーンリスクの低減
下流メーカーにも視線を向ければ、特定サプライヤーへの過度な依存や、ボトルネックとなる工程の特定がしやすくなります。
BCP(事業継続計画)やサプライチェーンリスクの観点からも大きな意味があります。
3. 公正なパートナーシップの形成
中間マージンの透明化は、上流・下流双方のビジネス意図の「見える化」を促進します。
これによりメーカーとサプライヤーが対等なパートナーとして建設的な改善協議・コスト競争ができるため、競争力の高いサプライチェーンが実現します。
Tier2・Tier3の価格把握に向けた5つの実践アプローチ
アナログ現場にも通じる、現実的な手法とは何か
ここからは、筆者が実際に現場で使ってきた「Tier2・Tier3価格可視化」の最適アプローチを5つ挙げていきます。
1. 直接取引・直接商談の実行
最も正攻法かつインパクトが大きいのが「Tier2・Tier3サプライヤーとの直接コミュニケーション」です。
バイヤー自らが現場に足を運び、下流サプライヤーとも打ち合わせや相見積を行うことで、価格の実勢感や上流サプライヤー提示価格との差分をリアルタイムに把握可能です。
また、サプライヤー側も「部品がどのように使われているか」「どんな仕様変更が必要なのか」といった上流の情報が得られるため、コストダウン提案や工程改善にもつながりやすくなります。
ただし、「商流破壊」に神経質なTier1サプライヤーも多いため、事前に全体の目的を明示し、三者協議やフェアな進め方が肝要です。
2. VE(Value Engineering)、原価計算を徹底して起点価格を推算
図面や仕様書をもとに、原料価格、標準工数、ユーティリティコストなど、ボトムアップで「理論価格」を算出する手法も非常に効果的です。
特にTier2、Tier3がどのプロセス(圧造、プレス、樹脂射出成形、板金等)をどの規模で担っているかを現地ヒアリングも交えて分析することで、「この規模、この生産量なら妥当な実原価はいくらか」を推定できます。
派生して、「業界標準原価」や、同種・同業他社の相場データを参照するのも有効です。
3. 調達先の競争環境を生み出す(オープン見積、サプライヤー切替検討)
Tier1サプライヤーから依頼された現行サプライヤー以外にもセカンド・サードサプライヤーを選定し、サンプル調達や限定見積によって下流価格の相場観をつかむ手法です。
OEMやバイヤー側が明確な意思を持って「競争入札」の場をつくれば、現在の価格の適正度・マージンの上積み度合いを客観的に把握しやすくなります。
さらに見積根拠資料(材料費、加工費、諸経費明細など)の詳細提出を求めることで、中間マージン構造が可視化しやすくなります。
4. 関連市場の原材料動向/業界ニュースをウォッチし、「逆算」する
Tier2、Tier3が扱う主要原材料(鉄鋼、非鉄金属、樹脂、電子部品など)のスポット価格や為替動向を継続ウォッチし、「材料高騰時に最終価格がどこまで転嫁されているか」「材料値下げの恩恵が十分に反映されているか」を分析します。
経済産業省や業界団体のレポート、商社・問屋の流通価格データなどもメタ情報として活用し、「理論的な価格差(逆算)」を把握することがポイントです。
5. デジタルツール・業務DX化による情報可視化
近年では、サプライチェーン情報管理システム(SCM)、原価管理クラウド、EDI(電子データ交換)などの活用も有力です。
各工程のコスト集計や、サプライヤーから直接データを取得できる機能を活かすことで、前工程~後工程までのコスト構造を一元把握できるようになります。
導入には一定のハードルがありますが、アナログ脱却に向けた第一歩として段階的に進めることで、将来にわたり大きな情報資産となります。
可視化結果をどう活かすか?現場での使い方と注意点
可視化データの使い道
- 優先度の高いコストダウン対象部品やプロセスの特定
- 供給過多・依存度の高いサプライヤー見直し
- サプライチェーン全体最適化(物流も含めた再構築提案)
- リスク分散策(代替調達先・生産工場の検討材料)
- WIN-WINを前提とした長期パートナーシップ強化交渉
あくまで「共存共栄」を主眼に
可視化が「コストダウン一辺倒」の手段と化しすぎると、サプライヤー側の事業健全性(利益確保・成長投資)が損なわれ、結果としてサプライチェーン全体の競争力を低下させるリスクも孕んでいます。
“価格の透明性=追い込み”ではなく、「どうすれば一緒に利益を出し、強固な連携が組めるか」という知恵の出し合い・価値共創(Co-Creation)こそ最終ゴールであるべきです。
昭和アナログからの脱却:小さな一歩を始めよう
すべてを一気にDX化したり、全サプライヤーにオープン化を要求するのは現実的ではないでしょう。
まずは信頼関係が深い一部サプライヤーや、実際にコストダウン要求が高い部品から部分トライアルを始め、ノウハウを蓄積しながら徐々に現場にフィットするやり方を定着させていくのが現実的です。
まとめ:未来の製造業サプライチェーン経営へ
Tier2、Tier3までの価格体系・マージン構造を把握し可視化することは、調達部門のみならず現場の生産、品質、経営全体に波及効果をもたらします。
現場目線と経営目線、両方のバランスを意識しながら「価格の透明化」を進めていくことが、これからの真の製造業競争力の基盤となるでしょう。
ぜひ、本記事を読まれた皆さまが、それぞれの立場や現場で一歩を踏み出し、サプライチェーン全体の最適化・共存共栄に向けた新しいチャレンジにつなげていただければと思います。
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