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低コスト国調達の総コストを可視化して隠れ費用を排除

目次
はじめに:低コスト国調達の幻想と現実
バイヤーとしてグローバル競争の最前線に立つと、「より安い部品や製品を、低コスト国から調達する」ことが絶対命題のように考えられる風潮があります。
確かに工場経営や調達購買の現場では、部品コストの低減は最重要課題です。
中国、ASEAN、インドなど、生産コストの安さが魅力的な国々からのサプライヤー開拓は、2000年代以降多くの企業で盛んに行われてきました。
ところが、低コスト国調達(LCC調達)には見えない「隠れ費用」やリスクが数多く潜みます。
調達の「現場」を熟知した立場から、低コスト国調達の“総コスト”を可視化し、なぜ隠れ費用が発生するのか、またどう排除すべきかを実例交えて解説します。
特に「コストダウン万歳」だけの単純な調達ではなく、真に利益を守るためのバイヤー思考や、昭和的なアナログ調達文化が依然として多くの現場に根付く現実にも着目したいと思います。
表面価格だけでは語れない「総コスト」の正体
部品価格だけで判断すると失敗する理由
低コスト国調達を進める際、多くの企業では“当初見積もり価格”が採用の最大基準になります。
例えば、想定している部品コストが日本国内のサプライヤーでは100円、中国サプライヤーでは60円だった場合、当然60円を選びたくなります。
しかし、現実にはその40円差がほとんど消えてしまったり、逆に赤字に転じるケースも珍しくありません。
「価格以外の隠れ費用」が総コストに加算されるからです。
隠れコストを構成する主な要素
では、何が「隠れ費用」として発生するのでしょうか。
長年の調達現場で見てきた主な費用は下記の通りです。
1. コミュニケーション・管理コスト
海外サプライヤーは時差・言語・文化の障壁があり、意思疎通ひとつとっても余計な手間や工数がかかります。
複雑なQRQC(即時対応)や、仕様書不備、誤解に基づくやり直しなどは人件費として跳ね返ります。
2. 輸送・在庫コスト
遠隔地との取引はリードタイム長期化が避けられず、輸送費用、輸送中の破損・遅延、追加在庫の持ち方までトータルで費用が発生します。
3. 品質リスク・検査費用
品質文化や規格の違いから、受け入れ後の全数またはサンプル検査が不可欠になります。
万一不良品が大量に混入した場合、現地リカバリーや追加検査・再生産・再輸送の費用が爆発的に増大します。
4. サプライチェーンリスク費用
為替変動、政情不安、関税変更、パンデミック等で「調達不能」になるリスクも大きな総コスト要素です。
こうした「見えないコスト」が積もり積もることで、初めは圧倒的に安く見えた低コスト国調達が、「実は国内サプライヤーより高くついた」「調達トラブルで納期遅延、会社の信用が傷ついた」などの悲劇を生むケースが現場では数多く存在します。
古い体質のままでは「コストの把握」ができない
実はこの「総コスト把握」自体が、多くの昭和的アナログメーカー現場ではできていません。
コスト表は品目別・サプライヤー別に会計上は存在しているものの、隠れコスト項目(外部検査、特急輸送手配、追加指導コスト、リカバリー出張等)は細かく記録されていません。
「なんとなくLCC調達をやっていたら経費がよけい膨らんだが、原因の切り分けができない」
「増えた間接部門(品質・物流・生産管理)が人件費を食っている」ということに現場管理者は薄々気付きながら、明確に数値化できないまま、“調達の現代化”が中途半端な形で止まっているのです。
この壁を突破することが、利益体質への第一歩です。
現場目線で「可視化」する方法
プロセスごとにコスト要素を書き出す
まずやるべきは、低コスト国調達の全工程を洗い出し、その各フェーズで発生する「目に見える費用」「目に見えない手間賃や工数」を棚卸することです。
1.仕様書作成・伝達・見積取得プロセス(海外との調整に要した追加工数、人件費)
2.契約書・品質基準合意プロセス(契約書のリーガルチェック、品質協定のやりとりに費やす工数)
3.初回現地監査・立会い出張(往復航空券、宿泊費、現地での移動費等)
4.量産立ち上げ時の現地フォロー、初回量産品の全数検査や出荷前確認
5.通常発注の際のフロー(発注書類作成、現地連絡、進捗管理)
6.品質トラブル発生時の調査、再発防止策検討にかかる追加工数や現地再訪出張
7.輸送手配・通関作業、ロジスティクス管理費用
8.納品後の検品・受け入れ検査、在庫追加管理費用
各項目ごとに、実際に発生する(推定でもよいので)人件費・年間稼働件数をできるだけ数値化します。
ベテランバイヤーは、こうした各プロセスを「サプライヤー一社あたりあたり年間xx万円」「不良対応一件で約xx万円消える」と経験的に知っています。
こうした数値化とリストアップが「見えないコスト」を“見える化”する第一歩です。
可視化ツールの活用
最近ではエクセルベースの集計表や、調達コストシミュレーター、プロジェクト管理ツール(Asana、Backlog、Jiraなど)で各工程管理項目を分解し、各業務にかかる工数とコストを可視化する事例も増えています。
「業務日報」「稟議書」「発生対応報告書」「旅費精算」といった既存の紙帳票も、分析によって“隠れコスト”を発見する手がかりになります。
「隠れ費用」を排除できるバイヤーになるには
“安さ”だけに飛びつかない、現場起点の調達戦略
現場目線で低コスト国調達の総コストが見えてきたら、いよいよ「隠れ費用」を最小限化する戦略的バイヤーになることができます。
1. 輸送コスト/在庫コストの低減
– バッチサイズの最適化、定期船や航空便の複数選択肢活用
– サプライヤーとの「安全在庫」持ち方の協議
2. コミュニケーション問題のミニマム化
– 仕様書・図面の多言語化
– 現地調達担当やエージェント配置による時差短縮
3. 品質リスクの低減
– QC工程表の標準化・教育
– 初回立会いまたは現地品質エンジニア駐在
4. サプライチェーン多元化によるリスク分散・閉塞対策
– 複数サプライヤー確保、BCP(事業継続計画)構築
表面価格の「安い」だけに飛びつくのではなく、“手間やトラブルが少ない”業者を選ぶ、もしくは事前にトラブルを防ぐ手を打つことで、最終的な利益体質を守ることができます。
昭和的アナログ管理からの脱却方法
日本の多くの製造業では、製造現場や調達部門の仕事の進め方が「前任者から暗黙知で引き継がれる」、あるいは「帳票が紙で残っており情報集約が困難」という問題が依然として残っています。
そこで必要なのは業務手順の「デジタル化」「分解」「標準化」です。
1. 紙帳票のデジタル化(スキャン、OCR、エクセル転記)
2. 業務プロセスごとに必要な工数・費用のグラフ化
3. 実際の調達実績と、予定コスト乖離の社内レビューの実施
「見える化」で隠れていたコスト脅威を明らかにすることで、真の課題に向き合う第一歩となります。
低コスト国調達の“新時代”に向けた視点改革
新興国サプライヤーの能力も年々上がっています。
しかし彼らも「日本の品質基準」「納期」「きめ細かい対応」を甘く見ている業者も多く、適切な指導やモチベーションコントロールが不可欠です。
バイヤーは単に価格交渉をする役割から、“調達の総合コーディネーター”へと変化しています。
現場の改善点や、品質・物流・開発・会計部門など社内関連部門とも密に連携しながら、「総コスト最適化」を常に意識していく知恵と仕組みが求められるのです。
まとめ:これからのバイヤー・サプライヤーが目指すべき姿
・表面価格だけで安易に意思決定せず、その裏に潜む「隠れ総コスト」を見抜く眼力
・現場工数・工順レベルで積算し、コストテーブルを自ら可視化・説明できる力
・業務プロセスの標準化・デジタル化による「隠れコスト」の低減努力
・サプライヤーとWin-Winの関係を築くための現場“支援型”バイヤーへの転換
こうしたバイヤーシップが、低コスト国調達の“新・黄金バランス”を実現していきます。
これまでの「安かろう悪かろう」の罠にはまらず、きちんとした利益・品質・納期を守り抜くために。
今こそ、昭和的調達スタイルから脱却した“未来志向の調達・サプライチェーン”にアップデートしていきましょう。
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