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デマレージとディテンションの発生要因を可視化して保管費用を抑える港湾対策

目次
はじめに:デマレージとディテンションが及ぼす現場へのリアルな影響
デマレージ(Demurrage)とディテンション(Detention)は、グローバルなサプライチェーンに関わる全てのプレーヤーが避けて通れない基本用語です。
にもかかわらず、国内の製造業や物流現場では「あたりまえのコスト」「どうしようもない遅延」として放置されがちです。
しかし、デマレージ・ディテンションが日常化した現場ほど、年間数百万円から数千万円規模のムダな保管コストや物流コストを生み出している事例は少なくありません。
昭和から続く保管第一・現場至上主義の文化が、港湾コスト管理の改革を妨げているのが現状です。
この記事では、デマレージとディテンションがどこでなぜ発生するのかを可視化し、どのような対策を打てば費用削減と現場負担軽減に繋げられるのか、現場経験者ならではの視点から実践策をひも解きます。
デマレージとディテンションの本質とは
デマレージ:コンテナヤードで発生する保管超過料
デマレージとは、輸入貨物が港のコンテナヤード(CY)に契約期間を超えて留置された場合、荷主やサプライヤーに発生する超過保管料です。
この契約期間(フリータイム)は、通常5〜7日です。
しかしこの期間を超えて引き取りをしない場合、1日ごとの超過料金が指数関数的に上昇します。
デマレージは港湾会社や船会社(キャリア)に対して発生します。
ディテンション:コンテナ返却遅延で発生する超過料金
一方、ディテンションは、ヤードから搬出したコンテナを所定期間内に返却できなかった場合に発生するコンテナ使用料です。
たとえば、輸入されたコンテナを自社工場へ搬送後、空コンテナを定められた日数(フリータイム)内にCYまたは指定デポに返さないと、これも1日ごとに費用が加算されます。
ディテンションは、コンテナという”資産”の効率運用を図るためのグローバル標準ルールであり、サプライチェーンのスピード維持のために絶対不可欠な仕組みです。
なぜ発生する?昭和型現場の落とし穴
多くの製造業現場で「加工・生産の優先」「現場都合」が根強いため、港湾保管コストは後送りにされがちです。
事務担当や購買部門が現場指示待ちで対応すると、「今日ヤードに着いたけど何台分引き取る?」「生産設備の都合で今日は引き取りストップ」などの理由で数日間放置されます。
これがデマレージ・ディテンションの温床です。
発生要因を構造的に可視化する方法
1. 受渡しプロセスのフロー図を描く
まず着目すべきは、ヤード搬入からデリバリー、コンテナ返却までの全プロセスマッピングです。
どこで情報の伝達ミスやタイムロスが生じているのか。
たとえば、船会社→フォワーダ→自社物流→現場部門→物流会社→デポ といった流れを紙1枚に見える化します。
このフロー図に実際の平均リードタイム、最大・最小日数を記入していきます。
2. データの定量管理:担当者・工程ごとのボトルネック抽出
エクセルでも紙の現場帳でもよいですが、各コンテナごとの
・着岸日
・通関完了日
・ピックアップ申請日
・コンテナ搬出日
・空コン返却日
を日付単位で時系列記録します。
これを1か月ごとに集計し、どこの工程で最大の滞留が発生しているかを把握します。
たいてい現場都合では「調達側が遅い」「船が遅延した」と見なされがちですが、実際には港湾事務・フォワーダへの伝達不備や、現場担当者の不在、車両手配の遅れが根本原因となっていることが多いのです。
3. KPIを設定しアクションプランを作成する
ボトルネックが明らかになったら、「フリータイム厳守率」「1件ごとの追加コスト推移」「超過案件の工程別原因」などのKPIを定めます。
そのうえで、「事前申請フローの確立」「異常発生時の即時報告ルール策定」「現場担当のBチーム体制」など、現場ごとに短期間で導入できる対策案を企画・トライアルします。
ペーパードリブン管理からの脱却—デジタル活用のリアル
紙帳票主義が招く”先送り文化”
日本の製造業、特に昭和から続く現場では、いまだに「コンテナ入庫日・搬出日」を担当者手書きで記し、後日事務員がエクセル転記という非効率なオペレーションが強く残っています。
この文化が「誰もがスピーディに異常を把握・対応できる仕組み」を阻害しています。
現場優先・生産第一は重要ですが、デマレージやディテンションの発生で損失を被るのは結局自社です。
今すぐ使えるデジタルツールの活用方法
高額な工場自動化やIoT導入の前に、社内ネットワークの共有フォルダやGoogleスプレッドシートですぐに実践できることは多々あります。
具体的には
・通関完了日、ピックアップ申請日、返却予定日を全員で即時入力できる台帳作成
・チャットツール(SlackやLINE WORKS)で搬入搬出連絡のテンプレ化
・「デマレージアラート」などのメール自動送信システム
をすぐに導入できます。
このような小さなデジタル化の積み重ねで、港湾コストのリアルタイム管理体制を構築することができます。
業界動向:脱アナログが進むサプライチェーンの今
大手メーカー・サプライヤー間で進むEDI連携
近年、主要な自動車部品メーカーや電機メーカーでは、港湾ヤード・フォワーダ・自社物流間の電子データ交換(EDI)が普及しつつあります。
これにより、コンテナステータスや超過発生時の警告情報が自動モニターされ、現場の判断遅延を大幅に防止できるようになりました。
海外との競争力維持のための保管コスト意識改革
グローバル競争が激化する中、デマレージやディテンションは”当たり前のコスト”ではなく、「いかに削減するか」の指標へと変化しています。
海外のバイヤーやサプライヤーはこの意識が非常に高く、「使わないコンテナは1日でも早く返し保管費用をゼロに近づける」ことがサプライヤー選定基準になっています。
日本の現場も、この保管コスト=現場効率の指標と捉え直し、見直しを急ぐべき時代に突入しています。
現場から見た実践的な保管費用削減策
1. デマレージ・ディテンションの予備費”見える化”
まず、自社が年間でいくら”予備費”として支払い、どれほど損失に繋がっているかを算出して全員で共有します。
部署を超えた共通KPIとし、経営層〜現場作業者までが「自分たちのコスト」として実感できる仕組みを作ることが有効です。
2. 担当者現場教育とバイヤーとの連携強化
担当者や新任管理職への「港湾コスト研修」「デマレージ・ディテンション実費計算演習」などのプログラムを導入し、自社の決済フロー・コスト責任を全員が理解することも有効です。
また、発注元=バイヤーとサプライヤー側の双方が、港湾コストを協議テーマに盛り込み、「どの工程での遅延を削減すれば双方でメリットが得られるか」を率直に対話する文化を根付かせることも重要です。
3. 協力会社・ドライバーとの連携体制づくり
コンテナトラックを手配する協力運送会社やドライバーとも、「フリータイム意識」の共有や、突発事象時の即時連絡体制を構築します。
例えば、ドライバーが搬出・搬入時にモバイル端末で着時間を入力するだけでも、リアルタイムで進捗の見える化が実現できます。
4. 物流会社や港湾管理会社と協働した業務効率化
複雑な手続きやヤード内混雑状況なども意外なボトルネックです。
近年では一部の港湾会社で、搬入搬出の事前予約受付や、ピックアップスケジュール管理のシステム導入が進んでいます。
これらの仕組みを積極的に利用し、従来の「行ってみないと状況がわからない」体質から脱却しましょう。
まとめ:デマレージ・ディテンション対策は、現場力アップとサプライチェーン競争力強化のカギ
デマレージとディテンションは、単なる「港湾コスト」ではなく、サプライチェーン全体の効率や競争力に直結する重要な指標です。
現場に根付くアナログ文化と向き合い、現状把握・可視化・データ駆動の仕組み化を実践し続ける。
こうした地道な改善の積み重ねが、最終的には大きなコスト削減と現場力強化、そしてバイヤー・サプライヤー間の信頼醸成に繋がります。
デマレージ・ディテンションの見直しは、現場担当者・調達購買担当・管理職、そして経営層まで全員でモチベーションを揃えて取り組むべきテーマです。
製造業の現場力、日本のものづくり力をさらに進化させるために、日々の改善アクションから始めてみましょう。
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