IOSS OSSの制度理解で欧州B2Cの税務負担を可視化する販売スキーム

IOSS・OSSの制度理解で欧州B2Cの税務負担を可視化する販売スキーム

現在、グローバルEC市場の拡大とともに、日本国内のメーカーやサプライヤー、バイヤーの間で「IOSS」や「OSS」といった欧州向けの税務スキームへの関心が高まっています。
透明性の高い税務処理とコンプライアンス遵守が、これからの海外展開における生命線となっているためです。
しかし、実際の現場では「制度が複雑でよく分からない」「どこに負担が発生するのか不明確」といった声も根強くあります。

この記事では、製造業現場で培った実務目線を交えつつ、IOSS・OSS制度とは何か、そしてこれらを上手に活用しつつ欧州B2Cの販売スキームにおける税務負担を可視化・最適化する方法について解説します。
また、“昭和の常識”から抜けきれないアナログな取引慣習にも踏み込み、デジタル時代において競争力を失わないためのヒントをお届けいたします。

IOSS・OSSとは何か？欧州市場の最新動向を解説

IOSS（Import One-Stop Shop）の概要

IOSSは、2021年7月よりEU圏内で導入された新しい税務スキームで、「インポート・ワンストップ・ショップ」の略称です。
主にB2C（対消費者）取引で、EU域外から発送される150ユーロ以下の商品に適用される仕組みとなります。

IOSS番号を取得し、通関時にVAT（付加価値税）の申告・支払いを一括管理できるため、発送元企業やEC事業者のEU向けB2C業務が効率化されます。
結果として、欧州の消費者側では受け取り時の追加支払いトラブルが減り、スムーズな購買体験が提供できます。

OSS（One-Stop Shop）の概要

一方で、OSS（ワンストップ・ショップ）は、EU域内販売、特にB2C越境ECの売上に対するVAT申告を一元管理できる制度です。
従来であれば、商品を発送した各EU加盟国内で個別にVAT登録・納付する必要がありました。
ですが、OSSの利用によって発送元の国でまとめてVATの申告・納付が可能となるため、管理工数の大幅削減が実現しています。

この両制度は連携が可能で、日系メーカーや商社にとっては「煩雑なVAT管理からの解放」とともに、「欧州市場における競争力向上」の切札になっています。

実務目線で考えるIOSS・OSS導入のメリットと注意点

輸出現場・生産現場での具体的な変化

昭和から現代に至るまで、「送りっぱなし」「売りっぱなし」が常態化していた日本の製造業界。
しかしIOSS・OSS導入により、次のような実務的変化が求められます。

・通関書類の電子化・正確なVAT申告コードの付与
・現地代理店やバイヤーとの仕切り価格・VAT分担ルールの明確化
・ECシステムの改修・ERPとの連携強化

これまで“Excel管理”や“納品書ベース”でごまかしていたような現場感覚は通用しづらくなり、
本質的な業務プロセスのデジタル化が避けて通れなくなっているのです。

税務負担の透明化がもたらすバイヤー・サプライヤー双方の安心感

バイヤー側から見れば、「この商品をEU消費者に販売した場合、VATコストは誰が負担しているのか？」がブラックボックスでは困ります。
逆にサプライヤーがIOSS番号を取得している場合、取引先であるバイヤーへ「当社はIOSS申告済、追加の税負担なし」と説明できれば、信頼感が格段に上がります。

また、いままでは“現地到着後、配送会社からVAT請求がくる”といった不透明なプロセスでトラブルが起きやすかったのですが、IOSS・OSSスキームの活用により、会計・契約書類上も費用負担が明確化されます。

アナログな管理職・偉い人ほど見落としがちなリスク

「EU向けだけ特殊」ではない

よくありがちなのが、輸出や海外通販に疎い“上層部”が「うちは日本のやり方で通せばいい」と考えてしまうパターンです。
ですが、IOSS・OSS未導入の場合、現地で多額の追加コストが発生し、市場価格競争で不利になるばかりか、税務上のトラブルによって“見せしめ的なペナルティ”を科されるケースすらあります。

結果、現地の代理店や顧客から「日本メーカーは信用できない」と見られてしまう恐れもあるため、海外事業を担うバイヤーや販社は説得力のある導入説明ができる知見を身につける必要があります。

現場の声を拾い、現場主導で進めるのが成功の鍵

IOSS・OSSの運用開始には、関係部門（生産現場、品質管理、調達購買など）の連携が不可欠です。
たとえば製造現場の出荷伝票やロットトレース、購買部門との原価管理、品質保証での証跡保存など、それぞれの専門性が求められます。

誰か一人（または少数の担当者）に負担をかけ続けず、現場主導で疑問や改善案を出し合い、実効的な業務フローに落とし込むことが成功の核心です。

ラテラルシンキングで考える「税務負担の可視化」が拓く新たな製造業像

ただの“コスト管理”はもう古い

IOSS・OSSというと、「通関コストを下げる」「現地トラブルを減らす」といった“守り”のイメージが先行しがちです。
しかし、現場・購買・品質部門が一体となって“税務負担の可視化”を追求することで、バイヤー交渉力強化、現地顧客対応の即時性アップ、サプライヤーとの相互信頼の醸成など、“攻め”の競争力につながる側面も見逃せません。