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電着塗装の膜厚管理における電圧・電流比の調整基準

目次
はじめに:電着塗装の膜厚管理と現場の課題
電着塗装(電気泳動塗装)は、自動車部品や家電製品、金属製品全般に広く用いられている塗装手法です。
膜厚の均一性や高い防錆力が求められる局面では、コスト・品質ともに要求水準が年々高まっています。
一方で、昭和の時代から受け継がれたアナログ管理手法が根強く残っており、現場では感覚頼りの膜厚調整や、「昔の経験則」による電圧・電流設定が常態化していることも事実です。
本記事では、20年以上にわたる現場経験を踏まえ、電着塗装の膜厚管理における“電圧・電流比”の実践的な調整基準について深く掘り下げます。
サプライヤー、バイヤーのいずれの立場でも、これからの業界で競争力を維持するための考え方を共有します。
電着塗装の基本メカニズムと膜厚管理の重要性
電着塗装のプロセス概要
電着塗装は、水性の塗装液のなかで被塗物を電極につなぎ、外部電源から電流を流して塗料粒子を搬送、被塗物表面に均一に析出させる方式です。
アノード式(陽極電着)、カソード式(陰極電着)など方式による違いはありますが、基本構造は大きく変わりません。
初期の段階では“ダブつき”“垂れ”などの膜厚ムラに悩まされてきましたが、近年は自動制御や分析機器の進化によって高精度な管理が可能になりました。
膜厚管理と品質の相関関係
膜厚が厚すぎると、塗料コストや仮焼き時の不良率が上がり、生産性が大きく損なわれます。
逆に薄すぎると、防錆力や塗膜強度が著しく低下し、最終製品の信頼性が危ぶまれます。
また二次加工(塗装以降のトップコート工程等)でも、最適膜厚でない場合は“密着不良”“色ムラ”が発生しやすく、全体歩留まりが悪化します。
したがって、用途や要求グレードに応じた的確な膜厚設定が、コスト・品質両面での大きな競争力となるのです。
電圧・電流比とは何か:定義と本質的な意味合い
電圧・電流比の基礎知識
電着塗装における“電圧・電流比”とは、積算電力量の指標であり、「所定の膜厚を得るために、どの程度の電圧と電流(=パワー)をどの時間、どのバランスで投入するか」を表します。
公式的にはオームの法則I=V/Rがベースとなりますが、現場では被塗物の材質、形状、バス液の経時変化、温度や濃度のバラつきなど複雑な因子が絡み合います。
ここを「標準値データ」だけで一律対応していた企業が、時代の変化に適応できず苦戦している一因でもあります。
現場目線での“理想的な電圧・電流比”とは
膜厚の均一性や表面品質を担保しつつ、塗料コスト・エネルギー効率も最適化するためには、電圧と電流の投入バランスを、実際のバスコンディションやワーク品種ごとに絶えず微調整する必要があります。
例えば、
・立ち上がり最初は電圧を押さえ、表面を染み込ませるような制御
・後半一気に電圧を上げて膜厚を稼ぐ“追い込み工程”
といった多段階プログラミングも有効です。
また、同じ膜厚到達でもピーク電流値や総投入電力量が大きく異なる場合、被塗物表面の発泡やピンホール発生率も変わります。
現場の“肌感覚”+データ主導を組み合わせることで、日々の生産条件に合った正しい基準が作られます。
電着塗装の現場で起こりがちな失敗例
失敗例1:膜厚が安定しないまま出荷される
脱脂や前処理のばらつきがあると、電着の初期ランダム性が高まりやすくなります。
均一な電圧・電流制御をしているつもりでも、部分的な被膜ムラとなって後工程(焼き付け、トップコート)で発覚することも多いです。
「ここは標準値で大丈夫だろう」「30年前からこうやってる」という思い込みに陥らないことが肝心です。
失敗例2:電力量を上げ過ぎて発泡やピンホールが多発
どうしてもうまく膜厚が付かない場合、電圧設定ばかり上げてしまうことが多々あります。
しかし、電力量が過剰になると、溶剤がガス化して“発泡”や“ピンホール”現象を引き起こし、リワーク・廃棄ロスが激増します。
根本は「ワーク形状の死角部」や「液循環の不均一」などの設備側因子であることも忘れてはいけません。
失敗例3:型品・新規品でベンチマークデータが取れていない
多品種少量生産や新規立ち上げ案件では、標準データが通用しません。
「とりあえず通電してみて、様子を見ながら…」の連続となり、最適条件が見えないまま苦しみます。
こうした場合こそ、“最初の数ロット”の定量的な電圧・電流ログ収集→条件決め→ノウハウ蓄積が大切です。
“電圧・電流比”調整の実践的アプローチ
アナログ現場にこそ生きる、五感+データドリブンの組み合わせ
現場では、「規格通りにやっているのにおかしい」と感じた時こそ、記録×観察×現物主義の組み合わせが生きます。
たとえば、
・なぜか凹部だけ膜厚が薄くなる
・ロットごとに膜厚分布のバラつきが激しい
という場合、過去数日の電圧・電流波形や、ワークの着荷位置、液温など相関要因を徹底的に洗い直します。
そこで初めて「型部品の形状による回折現象」「ツリーイング(焦げ付き現象)の初期兆候」など隠れた問題が発掘されるケースも多いです。
調整ポイントと基準値の導き方
実務でのフローは以下が基本となります。
1. 原材料やワーク形状ごとに、“初期の膜厚試験”(たとえばV=200V×I=4A×2分など)を実施
2. 得られた膜厚分布(平均値・最大-最小幅)と被膜品質(光沢、ピンホール発生状況等)を確認
3. 検証用サンプルが基準膜厚付近に達していない場合、電圧上昇→電流値・時間調整を段階的に実験
4. ベストな条件が見つかれば、その時点のバス液コンディション(pH、濃度、温度等)も必ず記録しておく
現場では“毎日手探り”が当たり前ですが、同じ失敗を繰り返さないためにも、すべての経過データを現場ノートやPCに残し、次の展開へ活かします。
最新事例:AI・IoTによる膜厚管理の自動最適化
近年は、電着塗装バスそのものにIoTセンサーを設置し、電圧・電流パラメータをリアルタイムで自動最適化するプロジェクトも始まっています。
・AI制御が各ロットや材料ごとの“最適比率”を自ら学習
・膜厚測定機器と自動連携し、不良品の発生パターンを逆算→リアルタイムフィードバック
といった事例が自動車業界を中心に急増しています。
アナログとデジタルの融合は未熟であっても、両者の“良いとこ取り”を目指す姿勢が、今後の現場力を支えていくでしょう。
サプライヤー・バイヤー双方が押さえるべき交渉のポイント
バイヤー視点:QCDの源泉としての膜厚データ管理
調達側としては、サプライヤーの膜厚管理能力=供給安定性・トータルコスト競争力の“見えない武器”となります。
たとえば、「膜厚の標準偏差が小さい」「最適電力条件を自社で出せる」サプライヤーは、原単位コスト低減や納期遵守の観点で大きなレバレッジとなります。
目先の単価だけでなく、「工程能力(Cp、Cpk)」「再現性データ」の提出を“見積もり条件”として具体的に求めることも、有力な交渉ポイントです。
サプライヤー視点:電着品質の可視化と差別化戦略
一方で、サプライヤー側も「電着工程の数値管理」や「条件のノウハウ化」を進めておくことで、差別化と信頼獲得ができます。
自社の強みをアピールする際は、
・独自のプロセス最適化事例
・膜厚データおよび品質検査のトレーサビリティ
・不良率削減や電力コスト低減の事例
などを積極的に開示しましょう。
調達購買部門との“協働によるプロセス改善”が、今後の取引継続や新規ビジネス獲得の鍵となります。
まとめ:昭和的管理から脱却し、未来型の膜厚制御へ
電着塗装の膜厚管理(特に電圧・電流比の調整)は、設備・材料・ワークごとの“現場固有ノウハウ”が色濃く残る分野です。
昭和のアナログ精神=勘や経験も決して軽視できませんが、それにデータやAI技術を掛け合わせることで、属人性からの脱却・真の競争力強化が可能となります。
製造業のこれからを担う皆さんには、
・失敗から学ぶ“現場データ”をしっかり残す
・バイヤー⇔サプライヤーが一緒に膜厚制御を追求する
・ラテラルシンキングで新しい制御法(IoT/AI活用など)を試す
――という柔軟かつ戦略的な取り組みを強くおすすめします。
膜厚を極めることは、顧客満足と事業収益のどちらにも直結する“究極の現場力”です。
今後も皆さまと知恵を重ねながら、未来型の膜厚管理をともに切り拓いていきたいと考えています。
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