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レザー靴の防水性を高める撥水加工と染料固定工程

目次
はじめに
レザー靴は、耐久性や高級感、そして独自の風合いから、多くの人々に長く愛されています。
しかし、天然素材ゆえに水分には弱く、日常的な雨や湿気への対応は大きな課題です。
製造現場でも、靴の品質を左右するポイントの一つが「防水性の確保」と「色落ち防止=染料の固定」です。
今回は、現場目線での実践的なノウハウと業界動向を交えながら、レザー靴の水への強さを実現するための撥水加工と染料固定工程について、ご紹介します。
昭和から抜け出せないアナログ加工現場の現状
未だ根強い手作業中心の撥水・染色工程
日本の多くの革靴工場では、染色工程や仕上げの撥水加工が、いまだに手作業による部分が多いのが現実です。
これは、革という素材の個体差や、「人の手が最終品質を決める」という職人文化が根強く残っているからです。
そのため、十分な防水性を担保できないケースも珍しくありません。
撥水剤や染料の量、塗布のタイミング、乾燥方法、機械設備のスペック、現場スタッフの経験値など、様々な要素がパフォーマンスに影響します。
デジタル化・自動化の遅れと課題
昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれるなかでも、地場の革靴工場の多くは、いまだ昭和のアナログ体制を維持しています。
例えば、染料配合や撥水剤の選定も、長年の勘と経験則に依存しているのです。
この状況は、再現性や生産性の向上という観点では大きなハンディになっています。
また、多品種少量生産やカスタムオーダーの増加による工程複雑化が、現場スタッフのスキルにさらに依存しやすい状況を作りだしています。
レザー靴の防水性を高める撥水加工のメカニズム
撥水と防水の違い
レザー靴においてよく使われるのは「撥水」と「防水」の2つの言葉ですが、これは似て非なるものです。
防水とは水を一切通さないこと、撥水は水を弾きやすくすることであり、ほとんどのレザー靴は通気性を残すために撥水加工が選ばれます。
撥水加工の主な手法
撥水剤とは、革の表面に分子レベルで薄い膜を作り、水を弾く力を持たせるものです。
主に以下の方法が現場で採用されています。
- フッ素系撥水剤:優れた撥水性を持ちますが、環境規制やコスト高の課題も
- シリコン系撥水剤:通気性を保ちつつ撥水性アップ、コストや安全性も比較的高い
- 天然ワックス・オイル系:職人の手仕事文化が残る分野
工場によっては、素材や価格帯、客層にあわせてこれらを使い分けます。
また、塗布方法としてはスプレー、噴霧、浸漬などがあり、靴の形状やロットによって最適な手法が異なります。
撥水加工の管理ポイント
現場目線で重要なのは、「どこまで撥水性能を高めるのか」「どこまで通気性を残すのか」のバランスです。
過度な撥水加工は、革のしなやかさや通気性を損ねるリスクも。
一方、撥水が不十分だと、クレームにつながります。
さらに、加工後の乾燥温度や時間、塗布回数、各種添加剤との相性など、工程管理が品質に直結します。
安定した品質のためには、仕上げ前後の含水率管理や、耐水テストの実施、市場の声のフィードバックなど、複合的なアプローチが欠かせません。
染料固定工程の現場ノウハウ
染料が流れる問題とその背景
レザー靴の染色では、経年や濡れた際、染料が流れたり色落ちしてしまうという声もよく聞かれます。
これは染色直後の染料分子が、革の繊維内部に十分に定着していないことに起因します。
原因としては、染料と革との“結合度”の低さ、乾燥工程の不徹底、撥水加工や仕上げ剤との“相性不良”などがあります。
とくに近年、自然に優しい水性染料へのシフトや、カスタムカラー・多色染めの需要増により、染料の固定がますます難しくなっています。
染料固定工程の工夫
安定した染料固定のためには、いくつかの工程ポイントがあります。
- pHや温度管理による繊維の膨潤・開口調整
- 染色直後の中和処理
- バインダー(接着剤)入り仕上げ剤の選定
- 十分な乾燥(急速乾燥は×、徐々に水分を飛ばす)
- 後加工(アイロン、ロールでの圧密化など)
また、染料メーカーや薬剤サプライヤーと密な連携を図ることで、「自社革材料・色・仕上げ剤とのベストな組合せ」を数値レベルで設計することが重要です。
最近は「事前にミニテストを複数回回し、最適条件を統計的に決める」アプローチも増えています。
現場の声とユーザー志向へのシフト
染料固定の失敗例として、製品出荷後に靴下への色移りクレームが発生することもしばしば。
現場では「完成直後は良かったのに…」というケースが多いため、必ず実着テストや耐摩耗試験まで工程に組み込むことが推奨されます。
また、ネット通販や海外ECの普及により、多様な気候・環境条件で使用されることを前提にした品質設計が強く求められるようになりました。
「現場目線+ユーザー目線」、この両立が業界全体のカギです。
バイヤーとサプライヤーの視点からみる撥水・染料固定工程の現状と課題
バイヤーが重視するポイント
購買担当・バイヤーは「コスト削減」「安定供給」「品質保証」が三大ミッションです。
撥水加工や染色工程においては、コストダウンを目的に低グレード薬剤や省工程をサプライヤーに要求する傾向も強くあります。
一方で、最終顧客からのクレーム防止やブランド信用維持を背景に、「失敗のない加工技術」「品質トレーサビリティ」も同時に求めています。
つまり、「安くて、安定していて、仕上がりがぶれない」ことを求めているのです。
サプライヤー(製造現場)が知りたいバイヤーの本音
現場としては、コストや納期要請を満たしつつ、「どこまでの性能がどんな根拠で求められているのか?」という背景を知りたいものです。
たとえば耐水試験の規格、摩耗試験方法、特定地域の気候条件、流通経路ごとのリスクなどです。
また、「工程のどこまでを見せればバイヤーが納得するのか」「逆にどこは門外不出=ブラックボックスで守るべきか」という情報開示も一つの駆け引きポイントとなります。
アナログ業界に根強い「勘と経験」からの脱却がカギ
サプライヤーが「うちの職人がやれば大丈夫」という安心感は時とともに通用しなくなっています。
DXや標準化、データ活用など“見える化”と評価基準を共有する動きが、今後のサプライヤー評価の大きな基準となります。
バイヤー志望の方には、現場との円滑なコミュニケーション手法や、「なぜこの工程をこの薬剤でやる必要があるのか」という現場目線の根拠をしっかりヒアリングし、理解できる人材価値が求められます。
今後の業界動向と現場がとるべきアクション
規制強化と環境対応
フッ素樹脂などの撥水剤は、今後さらなる環境規制強化が世界的に見込まれます。
グローバル展開を視野に入れるなら、環境負荷低減にも目を向け、植物由来やエコ認証薬剤への転換が必須です。
これにより工程設計や品質安定に新たな課題が生まれるため、現場力の底上げが急務となります。
デジタル化・自動化の推進
AIやIoTを活用した撥水剤の塗布量自動管理、染色工程のデータ取得・分析装置の導入など、生産現場のデジタル化は急速に進展しています。
バイヤーやサプライヤー双方が「工程ごとの数値的許容値」を言語化し、双方向で擦り合わせる時代です。
人材の多様化とスキル継承
現場の高齢化、技能者の減少リスクに備え、従来の“背中を見て覚える”から“標準作業化・ドキュメント化”へと現場は脱皮が必要です。
多国籍スタッフや女性技術者の活用も進み、教育研修や多能工化の工夫が大きな差別化要素となります。
まとめ
レザー靴の魅力を最大限に引き出し、ユーザーの期待を超えるためには、防水性を担保する撥水加工と、鮮やかな色味と耐久性を両立させる染料固定工程が欠かせません。
昭和の名残を引きずるアナログ現場だからこそ、技能伝承や現場改善、データ活用・DXの推進がこれからの競争力のカギとなります。
バイヤー、サプライヤー、ものづくりに関わる全ての方々が「お互いの工程・価値観」を知り合い、共創してこそ、日本の製造業の品質は新たな地平を拓くはずです。
現場目線とユーザー目線を持った次世代の“ものづくり”リーダーをぜひ目指してください。
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