投稿日:2025年10月1日

独断で決める上司を陰で「サイコロ経営」と呼ぶ笑い話

はじめに:現場で語り継がれる「サイコロ経営」の真実

長年、製造業の現場で仕事をしていると、ときおり耳にする不思議な言葉があります。
「うちの部長はサイコロで意思決定してるんじゃないか」。
これは冗談交じりの笑い話ですが、現場の空気や、その上に立つ管理者の意思決定プロセスの“闇”を鋭く突いた表現でもあります。
本記事では、なぜ製造業界でこうした「独断的な経営」が未だに根強く存在するのか、そしてそれが調達購買や生産管理、ひいてはサプライヤー・バイヤーに与えている影響について、実体験を交えながら解説します。

なぜ「サイコロ経営」は生まれるのか?昭和の遺産と現場文化

現場を支配する「ワンマン経営」の正体

昭和の時代、多くの製造業は「上意下達」の色合いが非常に強い職場環境でした。
今でも「課長の一声」「部長の鶴の一声」で方針や重要な決断が覆ることは珍しくありません。

この背景には、「現場は分からずとも、とにかく数字を出せ」というトップダウン構造が深く根付いています。
現場レベルのリアリティを無視し、短絡的なKPI追求や過去の慣例だけで意思決定がなされる結果、「どうやって決めているのか分からない」「もはやサイコロで決めているのでは?」と皮肉られるのです。

なぜアナログから抜け出せないのか

近年はIT、IoT、AI導入、自動化などが急速に進みつつありますが、現場主導、紙管理、大量のハンコ文化が根強く残る工場もあります。
これほどITツールが普及しているにも関わらず、「ベテランの勘と経験」を重んじる雰囲気は健在です。

要因のひとつには、変革に対する抵抗感、すなわち「今までうまくやってきたのだから変える必要はない」という考えが根深くあります。
こうした保守的な経営風土が、意思決定プロセスから客観性や論理性、データドリブンな視点を排除し、結果的に「サイコロ経営」を温存する温床となっています。

「サイコロ経営」が及ぼす具体的な現場インパクト

購買・調達部門が抱える苦悩

現場で「どうしてこのサプライヤーに発注したんですか?」と聞いてみても、「上司がそう決めたから…」という答えしか返ってこない。
価格や品質、納期の考慮は当然ですが、最終判断が上司の一存で翻されることも多々あります。
特定サプライヤーとの“長年の付き合い”や、その場その場の感覚的な判断で決まってしまう現実は、バイヤー志望の方々にとっては大きなジレンマとなるでしょう。

また、責任の所在が曖昧なために、「本当は別の選択肢が良かったのに」との思いを持つバイヤーは少なくありません。

生産・品質管理現場への影響

独断的な意思決定は、生産管理や品質保証の現場にも影響を及ぼします。
「急に方針が変わった」「昨日まで正解だったことが今日からNGになった」など、現場が混乱するケースを多く見てきました。
生産ラインの切り替え、材料の在庫調整、顧客要求への対応など、すべての現場調整が後手に回る結果にもなりがちです。
品質管理の観点でも、現場からの意見やデータが正当に評価されないまま、「とにかくやれ」というトップダウンが下されることが信頼性の低下、クレームリスクの増大にもつながります。

陰で嘲笑されるリーダーの特徴と組織崩壊の芽

現場と上司の「感覚のズレ」

「現場の苦労を知らない上司ほど強権的な決断をしたがる」
長年現場に身を置くと、こうした上司の下では部下や若手が組織に不信感を持つようになります。
本質を捉えた提案・意見をしても「前例がない」「俺が若い頃は〜」と一蹴される。
現場は次第に“やる気”や“創意工夫”を失い、与えられた仕事だけをこなす「指示待ち集団」へと変貌していきます。

サプライヤーも敏感に察知している

実はサプライヤーサイドでも「この会社は現場じゃ何も決まらない。全て上司の顔色次第だ」と認識されてしまうものです。
すると、サプライヤーもどうしても条件を強気にせざるを得ません。
「最後は情実や感覚で決まるから、丁寧に説明しても無意味だ…」そんな声もよく聞きますが、これが価格交渉や品質改善提案などの足かせになります。

脱「サイコロ経営」への現場目線アプローチ

データドリブンと現場の直感、その融合

「昭和の勘と経験」も、確かに現場には大事な部分があります。
しかし、現代の課題に応えるにはデータに基づく意思決定が不可欠です。
生産実績や品質データ、サプライヤー評価基準、現場からのフィードバックなど、あらゆるファクトを“見える化”し、会議で必ず議論の俎上に載せましょう。
そのうえで「現場のリアルな声」を加味した柔軟な意思決定を心掛けることで、納得感のある合意形成が図れます。

現場発の小さな変革が大きなムーブメントに

現場のモノづくりに対する情熱や、自分たちの職場を良くしたいという思いは、現場の第一線にいる方が一番強い。
「私はいち担当だから…」と諦めず、事実を積み上げて上司に提案する習慣をつけましょう。
部署の壁を超えて小さな改善を提案し、データで成果を“見える化”して社内に共有することから、やがて職場全体の風土や、会社文化への変革のきっかけが生まれます。

サプライヤーとの共創によるバイヤー進化論

バイヤーやサプライヤーの皆さんに伝えたいことがあります。
今こそ「価格や納期だけでなく、現場で一緒に汗をかける“共創パートナー”」としての関係づくりが重要です。
上司決済に振り回されるだけではなく、「現場のデータ」「サプライヤー現場の実態」「改善に取り組む過程」を丁寧に説明しあえる信頼関係を醸成するべきです。
そのためにも、“サイコロ経営的”な曖昧さを排し、「なぜそう選択したのか」が説明できる業務フローを築いていきましょう。

まとめ:新しい製造業のビジネスカルチャーへ

「独断で決める上司」「サイコロ経営」と揶揄される現在の製造業の意思決定構造は、極めてアナログな“昭和の遺産”です。

しかし、ロジカルと現場力の両輪で進めば、「勘と経験」と「データと論理」の融合による新たなイノベーションの地平線が見えてきます。
製造業の本質は、日々の現場改善、顧客とサプライヤーの信頼構築、そして新たな価値づくりにあります。

長年現場で培った知恵や経験を後輩たちに惜しみなく伝えつつ、自分自身も枠に捉われず、新しい風を起こしましょう。

変化を恐れず、現場から新しいビジネス文化を根付かせることが、これからの日本の製造業を次のステージへと導く原動力になるのです。
バイヤー、サプライヤー問わず、すべてのものづくり関係者が、胸を張って誇れる工場・会社を、共に築いていきましょう。

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