投稿日:2025年12月21日

抄紙機用ポンプ部材の摩耗と性能低下

はじめに:抄紙機用ポンプ部材の摩耗と性能低下はなぜ起こるのか

製造業の現場において、抄紙機用ポンプは紙の生産を支える重要な心臓部です。

しかし、多くの工場で、ポンプ部材の摩耗や性能低下が“避けられない消耗品”として扱われているのが現状です。

現役バイヤーや生産現場の担当者、あるいはサプライヤー目線で「なぜ摩耗が起こるのか」「なぜ改善の動きが進まないのか」という疑問は常について回ります。

本記事では、現場目線の実践的な内容に加えて、昭和から抜け出せない日本独自のアナログ文化、保守的な業界体質を踏まえたリアルな業界動向まで含めて、抄紙機用ポンプ部材の摩耗・性能低下問題の核心に迫ります。

抄紙機用ポンプの基礎知識とその重要性

紙産業における抄紙機ポンプの役割

抄紙機用ポンプは、パルプを水と混ぜて抄紙機に供給するための要となる装置です。

均一な紙を作り出すには、流体の圧力・流量を一定に保ちつつ、短時間で大量のスラリー(繊維と水の混合物)を循環させる必要があります。

そのため、ポンプの性能と信頼性は製品品質に直結します。

ポンプ部材の摩耗は不可避か?

ポンプの部材、特にインペラやケーシング、シャフトシールなどは、高速回転と異物の噛み込み、そして研磨粒子を含んだスラリーの影響で、どうしても摩耗が進行します。

摩耗したまま運転を続けると、流量低下、圧力低下、振動・騒音の増大、果てはポンプ停止による工程ラインの停止など、甚大な影響が生じます。

摩耗と性能低下の主要因

スラリー液の性質

紙パルプのスラリーには、粒度や硬度が異なるさまざまな不純物が含まれています。

これにより、インペラやケーシングなどの内部に細かい擦過傷が生じ、交換周期が早まります。

運転方法の属人化

現場作業員の知見や経験により、ポンプの回転数や運転状況、定期メンテナンスの有無が大きく左右され、属人化しやすい傾向があります。

極端な運転や適切でない停止・起動操作は、摩耗促進の原因です。

材料・設計上の制約

従来から使い続けてきた鋳鉄やステンレスなどの標準材では、最新の高性能樹脂やセラミックスに比べて摩耗寿命が短い場合があります。

しかし、多くの現場では昔ながらの設計を変更することがリスクと捉えられ、従来品が盲目的に採用される傾向が強いです。

メンテナンス頻度と体制の問題

「壊れたら直す」「音が大きくなったら調べる」といった都度対応型が根強く残っています。

特に購買予算の厳しい時期や現場の人手不足が続く環境では、予防保全より事後保全が主流になり、結果的に想定よりも早期の性能低下・ダウンタイムリスクが高まります。

昭和体質からの脱却が進まない理由と購買現場の現実

変化を嫌う日本製造業の文化

日本の紙・パルプ業界は規模が大きくなるほど「このやり方でやり続けてきた」という保守的な気風があります。

特に抄紙機のような巨大インフラは、1日の稼働停止が億単位で損失につながるため、新しい方式や材料への挑戦を敬遠しがちです。

「ポンプ部材=摩耗するもの」として割り切り、予備在庫を多めに持ったり、実績あるサプライヤーから同じ型番を発注し続けることが“リスク回避”と認識されています。

購買目線で抱える課題

購買部門やバイヤーは、コストダウンやリードタイム短縮、安定供給の責任を負っています。

新規部材やサプライヤーの採用で予期せぬトラブルが発生すれば、その責任を問われるため、新規サプライヤーの選定や現場の意見との調整には慎重にならざるを得ません。

一方で、現場管理者やメンテナンス担当からは、「摩耗しにくい材料や構造に変えてほしい」といった改善要望も上がりますが、導入プロセスの手間や検証コストが壁になります。

摩耗・性能低下を防ぐための現場主導アプローチ

摩耗兆候の兆しを見逃さない仕組みづくり

摩耗や性能低下には必ず予兆があります。

例えば、「振動値の変化」「異音の発生」「流量や圧力の微減」「吐出温度の上昇」などです。

これらのデータをIoTセンサーで常時監視する仕組みを導入することで、異常兆候を早期発見し、事後対応から予防保全へ移行できます。

もちろん、厳しいコスト管理の現場でも、既設設備に後付けできる廉価なセンサー活用など“スマートアナログ”なアプローチも可能です。

現場スタッフのスキル底上げと体験共有

「誰が使っても同じように品質劣化を察知できる」現場体制づくりが重要です。

事例ベースのトラブル共有や、摩耗傾向や損傷写真を蓄積したデジタルデータベースの活用など、スタッフの知見を組織知化しましょう。

年次の若手層にも分かりやすく解説する勉強会など、現場目線の“見える化”が摩耗予防の第一歩となります。

新材料・新構造のトライアル導入を小さく始める

セラミックス、樹脂コーティング、耐摩耗合金など、部材のライフサイクルを延ばす新材料は日進月歩で進化しています。

「既存設備の一部(ベンチラインや小型ポンプ)で、ピンポイントかつ短期間トライアルを実施」することにより、新材料リスクも限定的に把握し、失敗コストを最小化できます。

購買・現場・サプライヤーが一体となり、「小さく始めて大きく育てる」姿勢がこれからの時代に求められます。

サプライヤーから見た“バイヤーの本音”と信頼される提案とは

バイヤーが本当に求めているもの

「ただ安い」「こんな新素材も出せます」といった単純提案は響きにくいのが製造現場のリアルです。

バイヤーは以下のような視点でサプライヤーを評価しています。

– 既存ラインへの適合性(カスタマイズへの柔軟性)
– 不測の際のフォロー体制(技術サポートや交換部材の即納体制)
– 価格とライフサイクルコスト(単価だけでなく運転・保全費用を含めた総合コスト)
– 他社・同業他社での実績や、現場スタッフからの評価
– 現場トラブル時に一緒になって知恵を出してくれる“現場理解度”

信頼されるサプライヤーになる条件

現場担当者とのフットワークある情報交換、導入後のアフターサポートの徹底、“駆けつけ対応”の文化などが、最終的にバイヤーからの継続受注を左右します。

サプライヤー自ら、自社製品の摩耗検証データや改善事例を積極的に発信し、現場課題とセットで提案することが、長い信頼関係につながります。

未来への道:昭和から抜け出し、摩耗・性能低下と賢く付き合うために

製造業はデジタル化・自動化が進む一方、紙・パルプ工場など昭和的現場は今も多く残ります。

摩耗や性能低下を、“致し方ないコスト”から“最小化すべき損失”と捉え直すことが、新時代の製造力強化の第一歩です。

購買・現場・サプライヤーが同じ目線で課題に取り組み、「摩耗する前提」での保守改善、「壊れる前提」での情報収集・提案強化、その両輪が業界の競争力を高める近道となります。

抄紙機用ポンプの摩耗問題――古いテーマのようでいて、現場と現実、業界の常識を俯瞰できれば、まだまだ深く、広く、革新的に解決できる余地はあります。

この記事が、より多くの製造業に携わる皆様の“気づき”と“アクション”につながることを願っています。

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