投稿日:2025年6月21日

摩耗センシング技術と故障予知への応用

はじめに:昭和から令和へ、現場が求める“摩耗センシング”の意義

日本の製造業は長きにわたり「経験と勘」に頼った現場運用が根強く、特に昭和時代に築かれた価値観や作業スタイルが今も色濃く残っています。

製品の品質を守るため、熟練者が音・振動・臭いから設備の変調を”肌感覚”で感じ取り、事前にメンテナンスを行う。

確かにこうした技術・ノウハウは大きな強みですが、主力作業員の高齢化や人手不足、技能継承の壁など、変化への対応が不可欠な時代が到来しています。

こうした課題に真正面から向き合うのが「摩耗センシング技術」です。

摩耗の自動検知と故障予知により、トラブルやダウンタイムを最小限に抑え、現場力の底上げを支援する新たなスタンダードとして注目されています。

本稿では現場目線で、摩耗センシング実装の実態や適用効果、バイヤーが押さえておくべき技術動向、そしてサプライヤーの戦略まで、実践的に解説します。

摩耗センシング技術とは何か

摩耗とは:摩耗検知が難しい理由と現場の悩み

「摩耗」とは、金属や樹脂などの部品同士が接触し、長期間稼働することで表面が削れたり厚みが薄くなったりする現象を指します。

工場設備の場合、例えばベアリング、ギア、油圧シリンダー、工具、ベルトやチェーンなど消耗部品が摩耗にさらされやすい部位です。

従来、摩耗の兆候は目視検査や定期点検を行うことで発見してきました。

しかし、実際の現場では次のような問題がつきまといます。

– 摩耗の進行が見えづらく定量管理が難しい
– 部品交換のタイミングを“勘”に頼らざるを得ず、トラブル予防が困難
– 検査頻度が増え、人的コストや属人化リスクが高まる
– 万一異常検出が遅れると、予定外のライン停止・大事故につながる

特にグローバル競争が厳しい現場では、“予知保全”や”自動化によるスマートファクトリー化”の実現が不可欠となりつつあります。

この流れの中、摩耗センシングはDXの「現場直結ソリューション」として、高度なデータ分析技術とIoT機器による自動監視の仕組みが実装されはじめています。

摩耗センシング技術の代表例

摩耗を検知する代表的なテクノロジーは次の通りです。

振動センサ:軸受けやモーター、ギアの摩耗に伴う異常振動をリアルタイムでモニタリング
音響センサ:摩耗進行による異音の発生や変化を自動で検出
画像処理・AI:定期撮像した部品の画像から、摩耗・劣化の進行度合いを数値化
温度センサ:摩擦増大や潤滑不良による発熱異常を監視
応力・ひずみゲージ:材料や構造物の応力・変形をセンシングし摩耗進行を推定

これらのセンサをネットワーク化し、取得データを時系列で分析することにより、「摩耗予兆→アラート→計画保全」という流れが現場で可能となっています。

摩耗センシングの故障予知への応用

なぜ“故障予知”が求められるのか

製造現場におけるダウンタイム(不稼働時間)は、生産計画の乱れや納期遅延、手待ちやコスト増など、巨大な損失をもたらします。

従来から「事後保全(壊れてから対応)」→「予防保全(定期交換)」という進化を続けてきましたが、いずれもリソースの無駄や予期せぬトラブル発生のリスクがつきまといます。

そこで近年注目されているのが「予知保全(Predictive Maintenance)」です。

摩耗などの劣化状態をリアルタイムでセンシングし、AIや統計モデルによる診断で「あとどのくらい稼働できるか」「どこがいつ壊れそうか」を予測・アラート。

突発故障を事前に察知し、ダウンタイム削減やメンテナンス最適化を目指すことができます。

IoT・AIを活用した摩耗×故障予知の実例

現場への導入事例も増えつつあります。

モーター、ポンプのベアリング摩耗
– IoT振動センサを取り付け、異常兆候のパターンをAI/機械学習で分析
– “急激な振動の増大”や「回転数に対する振動変化率」などから、残寿命予測を実施
切削工具・金型の摩耗
– CNCマシンに工具摩耗センサや温度センサを実装
– 加工面の画像データ判定・工具寿命の推定により、チッピング・破損前に異常検知
コンベヤ・ベルト摩耗
– 定期撮像×AIによるベルト表面ダメージ検知
– “異常摩耗エリア”の自動抽出で、計画停止や劣化部のみの交換を実現

これにより、不必要な定期交換を減らし、最適なタイミングで効率的な保全作業が実現できます。

昭和型現場からの脱却と、製造業現場における摩耗センシングの課題

現場ではどのような障壁があるのか

初期投資やROIへの抵抗
– センサ設置・システム導入コストの回収に疑念
– “従来の点検手法で間に合っている”という心理的ハードル
データ解析・AI人材不足
– センサから得られる生データを適切に解釈・運用できる技能者が現場に少ない
– 「現場で使える/現場が判る」AIベンダーの不足
設備の多様性・レガシー問題
– 数十年間稼働してきたアナログ機器や特殊設備への後付け導入ハードル
– 現場事情を無視したテンプレ導入が失敗に繋がるケースも

ハード/ソフト双方の壁に悩む現場が多く、「摩耗センシング=夢の技術ではない」という現実を直視する必要があります。

昭和の現場感と令和のテクノロジーを融合させる着眼点

– 機器の「弱点部位」、ベテラン作業者の“五感知判定”をデータ化
– 部品・設備の特徴ごとに、最低限の簡易センサから始める(POCで効果検証)
– 「現場×ITベンダー」が協働し、現場の”困りごと起点”でモデルを設計
– 既存点検業務との“すり合わせ”で、現場作業や品質要求のバランスを考慮

摩耗センシングが根付くためには、必ずしも“完全自動化”や“すべてAI化”を目指す必要はありません。

むしろ現場担当者が「これなら役に立つ」と感じるレベルから段階的に深めていくことが、昭和的現場から令和のスマートファクトリーへの架け橋となります。

バイヤー、サプライヤーの立場で知っておくべき摩耗センシングの業界動向

今なぜ摩耗センシング商材がバイヤーに選ばれるのか

– ESG経営・SDGs対応の一環として、設備の長寿命化・廃棄物削減が求められている
– 労働人口減少(とくに技能者)対応として自動化や効率化要求が高い
– 予知保全導入による、工場ラインダウンのリスク低減(サプライチェーン全体の安定化)
– モノ売りからサービス(SaaS/保全サービス)へのトランスフォーメーション

バイヤーの視点では「導入コストとリスク低減効果のバランス評価」が最重要です。

サプライヤーとしては「現場稼働率向上・材料ロス削減・生産平準化」を定量的にPRすることが勝負どころです。

サプライヤーが持つべき摩耗センシング提案のポイント

– “どこにどんな摩耗トラブルが、どの頻度で起きているか”をヒアリングしカスタマイズ提案
– ベテラン作業者が困っている“見えない摩耗”をデータで裏付ける事例共有
– センサ・AIモデルの差別化だけでなく、「導入後の現場サポート体制」や「運用・定着までの支援」を重視
– 他社導入実績やコスト回収モデルを詳細に提示し、経営層の意思決定を後押し

技術提案の場は、単なる装置・サービスの”スペック”ではなく、「現場の困りごと起点で、生産性を高めるためにどうDXするか」という問いかけ型で臨むのが勝負所となります。

今後の展望:摩耗センシングが拓く製造業の未来

摩耗センシング技術は「今すぐ全社一斉導入」で大きく事業転換を図るものではありません。

しかし、工場現場の悩みを一つずつ着実に潰していく性質のソリューションであり、DX推進の「最初の一歩」として非常に有力なメニューです。

– 設備停止の予防・生産安定・品質トラブル予防
– 人的ミス・属人化の解消と、将来の現場力維持
– 現場の“経験”とデジタル“データ”の融合による、技能継承の新しい形

今後は“摩耗センシング×AI診断”の精度向上に加え、自動補修・自律制御などの高度なスマートファクトリーへの発展も期待されます。

技術・現場双方から、摩耗や劣化トラブルに悩む日本のものづくり現場の「地道な底上げ」を進めていきましょう。

まとめ

摩耗センシング技術と故障予知は、日本の製造現場の根強い課題を解決する“現場改革”のキーデバイスです。

現場感覚と先端技術を融合し、一歩一歩実運用に適した形で実装してこそ真価を発揮します。

バイヤー、サプライヤーの両者が現場で直面するリアルな課題に寄り添い「摩耗トラブル撲滅・生産性最大化」を共通目標とする。

これが、昭和の熟練技術を令和の技術革新に昇華させる道筋です。

製造業に携わる皆さまが、摩耗センシング技術を活用し一歩踏み出すことが、日本ものづくりの未来を切り拓く力になると信じています。

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