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ウエブハンドリングの基礎とトラブルウェブ搬送巻取り技術ウェブの折れシワ巻きずれのシミュレーションと低減策への活用法とそのポイント

目次
ウエブハンドリングの基礎とは
ウエブハンドリングという言葉は、製造業において、フィルムや紙、金属箔、織物などのシート状(帯状)材料を連続的に加工したり搬送したりする技術を指します。
この「ウエブ」は英語の“web”からきており、工場の現場では「ウェブ」とも「ワブ」とも呼ばれています。
特に、印刷、ラミネート、コーティング、スリッター、製袋、巻取り、巻出しなど、多様な現場で日常的に関わる重要な基盤技術です。
ウエブハンドリング技術は一見シンプルに思われがちですが、その実、物理的な力学のみならず、素材特性や設備構成、制御技術の知識が複合的に必要です。
熟練の現場技術者でも、トラブルをゼロにするのは難しく、日々の試行錯誤が絶えません。
ウエブ搬送・巻取りのトラブル事例
ウエブハンドリングの工程では、多数のトラブルが発生します。
特に代表的なものには「ウェブの折れ」「シワ」「巻きずれ(テレスコやコニカル)」などがあり、歩留まり低下の大きな要因となっています。
ウェブの折れ
搬送途中で発生するウェブの折れは、材料の蛇行やローラーへの巻き付きなどが引き金になります。
ひとたび発生すると巻き取り工程全体がストップし、被害は大きなものになります。
シワ発生
ローラー間の張力ムラ、ローラ表面の傷やゴミ、設備の微妙な芯ずれ、さらには材料自体の厚みムラ等が原因となり、ウェブ面にシワが寄ります。
品質不良の原因として最も多いトラブルの一つです。
巻きずれ(テレスコ、コニカル現象)
巻取り軸の芯ブレ、コア(紙管)の変形、ウェブとコアとの摩擦不足、張力不均一などが絡み合い、巻きズレやテレスコ型巻取りが発生します。
これらは下流工程の巻き戻しやスリット時に深刻なライン停止、時間ロスを招きます。
アナログ業界に強く根付く“現場合わせ”の限界
昭和時代より、こうしたトラブルを“勘と経験”で回避する文化が製造業の現場では主流でした。
たしかにベテランの技能者の現場感覚は頼りになります。
しかし、熟練技術者が減りつつある今、属人化したノウハウの伝承と再現性に限界を迎えています。
実際、同じ設備でも作業者によってトラブル発生率が大きく異なるのが現実です。
また、加工速度や材料スペックの変化、新設備導入によるラインアップの複雑化により、現場対応だけではコスト競争力も維持できません。
そこで今、ますます重要性が増しているのが「シミュレーション技術」とそのトラブル低減策のデジタル活用です。
ウェブの折れ・シワ・巻きずれのシミュレーション
ウエブハンドリング領域のシミュレーションには、主に以下の3つのアプローチがあります。
力学モデルによる張力・蛇行シミュレーション
ウェブに作用する張力分布や蛇行挙動を、材料定数とラインレイアウト(ローラーの位置関係や回転特性)から物理モデルで数値化します。
現場では2次元モデルがよく使われ、蛇行の予知や最適張力設定の目安として活かされています。
有限要素解析(FEM)によるシワ予測
材料厚みムラやローラー形状誤差など微細な要素を加味し、シワ発生をFEMでシミュレートする方法です。
設備メーカーや大手ユーザーでは導入が進んでいます。
シワ取りローラー選定やライン設計初期の検証に有効です。
巻き仕上がりシミュレーション
“巻取り張力プロファイル”や“巻き径変化”をもとに、テレスコやコニカルなどの巻き形状変化をモデリングします。
巻取り条件(テーパー角度、コア摩擦、テープ導入法等)を変えながら、狙った巻き品質パターンの設計が可能です。
シミュレーションによるトラブル低減策とポイント
シミュレーションを活用することで期待できるのは、属人化・現場合わせからの脱却と“見える化”による再現性・標準化の推進です。
具体的な低減策は次の通りです。
1. ライン設計段階からトラブル要因を予見する
新設備導入や既設ラインの増速の際、事前にシミュレーションをかけることで、「ここでシワが出やすい」「このローラーは蛇行を誘発する」などの“見えない危険”をあぶり出せます。
これにより大幅なトライ&エラーやライン停止のリスクを減らすことができます。
2. 設備改造・設定値微調整への即応
従来は長年の勘や地道な調整で張力設定やローラー配列を調整していたものが、モデル化した数値で再現できるため、作業者の経験値差が小さくなります。
また、設備改造による効果を数値で比較・判断できるため、投資対効果も明確になります。
3. “ロス原因分析”~“再発防止”までの標準フロー構築
トラブルが発生した際に、事象のみでなく「どの張力分布/どの位置で/どの巻き条件で起こったのか」をシミュレーションで再現。
これを“標準トラブル事例”としてデータベース化し、新人教育やQC活動にも活用でき、現場ナレッジの水平展開・形式知化が進みます。
4. サプライヤーやエンドユーザーへの説得力ある説明材料
設備メーカーや資材サプライヤーに対し、根拠あるシミュレーションデータを基に原因を説明することで、建設的な原因究明や工程改善がすすめやすくなります。
バイヤー目線から見ても、外部委託先に同等のノウハウ展開を求めやすくなります。
ウェブハンドリング領域で成果を出すためのポイント
現場経験者として、次の点を特に強調します。
1. 「可視化」できる環境整備
実態把握のためのカメラ設置、高速カメラやIoTセンサー活用による張力・速度・温度・湿度などの時系列化データの蓄積が第一歩です。
これがあるだけで、勘と経験の“ブラックボックス”から「なぜ?」の言語化が進みます。
2. 少しずつ“トライ&エラー文化”から“シミュレーション+現場検証”へシフト
最初から完璧な結果を出そうとせず、小さな成功事例を積み重ね「シミュレーションって実際使えるんだ」という現場の安心感・成功体験を作ることが重要です。
3. 素材物性・設備特性の正しい理解
現場発のトラブル低減は、材料物性(弾性率、摩擦係数、厚みムラなど)や設備特性(ローラー径、軸精度、張力制御装置の特性)など、要素技術への眼差しが不可欠です。
“シミュレーションで何でも解決”は幻想で、「正しいデータインプット」と現場実証があってこそ効果が生まれます。
まとめ
ウエブハンドリング技術は、今も“アナログ業界”の典型例として熟練技能に依存する部分が大きい分野です。
ですが、現場とデジタル知見を融合したシミュレーション活用がますます重要になっています。
バイヤーを目指す方やサプライヤーの立場からも、「なぜトラブルが起きるのか」「なぜこの工程では投資が必要なのか」を理論的・定量的に説明できることが差別化要素となります。
現場で起きる現象を“物理の目”で捉えた上で、データと実機検証を組み合わせ、不断の改善で高品質・高効率のモノづくりを追求していきましょう。
この記事が皆さまの業務改善のヒントや新たな挑戦のきっかけとなれば幸いです。
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