投稿日:2025年8月21日

設計と購買と生産の三者会議を週次で回す運営型コストダウンの定着術

はじめに:製造業が直面するコストダウンの壁

製造業にとって「コストダウン」は避けて通れない経営課題です。
特に日本の製造業は、長年にわたり現場のカイゼン活動や原価低減努力を積み重ねてきました。
しかし、グローバル化や材料高騰、人材不足などの環境変化が加速する中、昭和時代の“根性論”だけでは限界が見えています。

現場力・技能継承は堅持しつつも、コストダウン活動に「設計」「購買」「生産」の三部門が定期的かつ能動的に連携する“運営型コストダウン”を確立させることが、持続的成長のカギになります。

「三者会議を週次で回す仕掛け」を軸に、効率的かつ現場に根付くコストダウンの定着方法について、私自身の工場運営経験や業界動向を交えながら解説します。

なぜ「三者会議」が必要か――現実の“壁”を直視する

現場で起きている部門間バラバラ問題

コストダウンのネタ出しや実行施策が、各部門の“縦割り”で終わってしまう現象は製造業あるあるです。
例えば設計部門は「機能重視・品質重視」で進め、購買は「単価交渉やサプライヤー切替」に注力、生産部門は「ライン効率・歩留まり改善」に専念、というようにゴールがズレているのが現実です。

そのため、下記のようなミスコミュニケーションが起きやすくなっています。

– 設計が現場の量産性を十分考慮せず、複雑な加工を要求
– 購買が価格交渉だけで進め、納期や品質面でトラブルが頻発
– 生産が自部門のみでカイゼン、設計要件変更までは踏み込めない

これでは各部門の努力が点になり、「全体最適なコストダウン」に結びつきません。

アナログ産業構造こそ、定着までの運営がカギ

日本の製造業は、昭和から続く“分業慣行”や“長年のやり方”が根強く、デジタル時代になっても変革が進みづらい現状があります。
DXや自動化と叫ばれても、一夜で意識改革や根本的な現場連携はできません。

だからこそ、現場目線で日々運営し、「三部門が顔を揃えて、無理なくネジを巻く」継続的な仕組み化が欠かせないのです。

運営型コストダウン:週次「三者会議」の進め方

会議体の基本設計

まず重要なのは「会議体の型を徹底して決め、週次で必ず回す」ことです。

・参加部門:設計(設計/開発・仕様策定)、購買(原材料調達・外注担当)、生産(現場責任者・工程管理)
・頻度:週1回・定時開催を原則とする
・主催:原則、購買または原価管理責任者がファシリテーター役(部門横断に強い利害調整力が必要なため)

また、事前のアジェンダ・現状課題・進捗管理表(ダッシュボード)を必ず共有し、会議時間は30〜45分以内で集中的に議論します。

成功する三者会議の“型”と“落とし穴”

会議を成功させるためには、以下のポイントが重要です。

必ず「全体最適」をゴールに据える
「自部門の最適」ではなく、「全体コスト低減」「リードタイム短縮」「不良ゼロ」など事業部全体で共通の指標を持つことが必要です。

定量データを材料に、感覚論(どんぶり勘定)に流されない
歩留まり、原単価、工数、トラブル件数などを“見える化”することで、感覚的・属人的な議論を徹底排除します。

現場現物現実主義
会議室だけで決めない仕掛けを。必要に応じて現場立会いや、モノ・図面をその場で確認しながら決定します。

最大の落とし穴は「単なる報告会」に堕ちることです。
全員に“発言責任”を与え、必ずアクション(TODO、期限付け、担当者明確化)に叩き直し、翌週の進捗レビューを徹底することが継続のコツです。

実例に学ぶ!三者連携で成し遂げた運営型コストダウン

工程改善×設計変更で生まれる『一石二鳥』効果

例えばある機械製品の板金部品の例です。
従来、設計段階では美観・強度重視の仕様として多数の曲げ加工や溶接指示を組み込んでいました。
そのため、製造工程が多く、工程間移動や熟練工への依存が高まる傾向がありました。

週次三者会議で現場の問題点を炙り出した結果、

– 設計:「部品の一部をプレス加工に置換できれば、工程・工数大幅削減可」
– 生産:「溶接工程が詰まりやすい。手間を減らせば歩留まりと納期が改善できる」
– 購買:「プレス外注コストは現行より高いが、全体で原価減の試算が可能」

このように異なる視点を突き合わせ、最終的に仕様変更承認・外注新規選定・工程再編成の“同時実施”で10%以上の原価削減・納期短縮を実現しました。
まさに「全体最適」の実践例です。

量産部品のサプライヤー選定で重要になる現場知見

購買主導でサプライヤー選定を進める際、現場・設計メンバーを巻き込んだ評価軸が極めて重要です。
極端な価格重視だけだと、

– 設計:「微妙な仕様差で組立不良リスクがある」
– 生産:「新規サプライヤーへの切替時、現場教育やQA監査の負荷が大きい」

といった暗黙知が埋もれやすくなります。
私が担当工場長だった際は、見積・図面・現品サンプルを各部門で持ち寄り、全員納得の上で採用決定しました。
この「現場巻き込み型」は、スムーズな立上げや後々のQCDトラブル削減にも大きな効果を発揮します。

「三者会議」定着のために現場でやるべきこと

現場に染み込ませる“運営ルール”と社内啓発

週次会議体を形骸化させないためには、「ルールの徹底」と「動機付け」が両輪です。

– 必ず“進捗報告書”を回覧し、ネクストアクションを明示化
– 各部門の評価指標・評価制度に「三者会議でのアクション」「全体価値創出」を織り込む
– 現場や年長層も説得できる“成功事例”を小さなものでも共有し、浸透させる

また、定期的なメンバー入替や、ローテーションで若手・中堅も参画できるよう人選にも留意すると、組織力強化にもつながります。

自動化・ITとのハイブリッド化でデジタル時代に最適化

昭和型のアナログ仕組みから一歩踏み出し、会議体の記録管理や効果測定はデジタルツールを活用するのが現代の鉄則です。

– 会議進捗やTODOは“クラウド管理”し、部門横断で可視化
– 原価・工数データはBIツール等でリアルタイム表示
– ネタ/課題リストは“デジタル掲示板”で全関係者が見れるようにする

こうした小さなデジタル化を会議運営から始めていくと、無理なくアナログ現場でも変革を根付かせることができます。

バイヤー・サプライヤー目線での三者会議の活用法

バイヤーを目指す方へ:現場感覚と交渉力の両立を

単純な価格交渉の時代は終わりました。
設計・生産担当者と密に連携し、「なぜこの仕様・価格なのか」「現場でどんな価値を生むか」を自ら納得・説明できるバイヤーになることが、信頼される“現場型バイヤー”としての第一歩です。

また、三者会議に積極的に参加して現場目線を体感することで、サプライヤーへの説明説得力や調整力も大きく向上します。

サプライヤーとのWin-Win構築:会議情報の戦略的活用

サプライヤー側にとっても、三者会議で語られる「現場課題」や「設計意図」「調達方針」を事前に知っておくことは大きな武器です。

バイヤーの交渉ロジック・コスト解析思考を把握し、自社側のカイゼン提案やQCD訴求につなげられるので、永続的なパートナー関係の土台作りにも役立ちます。

まとめ:製造業の未来は「現場三者連携」にあり

昭和、平成、令和と変遷しながらも、製造業の本質は「現場の知恵」と「継続的な運営力」に支えられています。

カイゼンは一過性で終わらせず、“三者会議”のような定例仕組みとして根付かせることが、今後の運営型コストダウンには不可欠です。

本記事で紹介した“週次三者会議”の運営型コストダウンは、工場や部門を問わずすぐに着手でき、さらにDX・自動化・サプライチェーン全体最適へと発展していく強力な足場となります。

製造の現場で働く全ての方、バイヤーやサプライヤーの皆さんが、変革時代のステージで一層活躍されることを心から願っています。

You cannot copy content of this page