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ケーシング部材の溶接構造が洗浄性を左右する理由

目次
はじめに:ケーシング部材の洗浄性が製造業で果たす役割
ケーシング部材とは、各種装置や設備、機械内部の構成部品を包み込む外枠部分のことを指します。
製造業において、特に食品・医薬・精密部品などの分野では、部材の洗浄性が安全性や生産性に大きく関わっています。
本記事では、なぜケーシング部材の溶接構造が洗浄性を大きく左右するのか、その構造的な特徴や業界動向、さらには現場で培った知見を交えて掘り下げていきます。
洗浄性が求められる背景
食品・医薬品分野の高まる衛生要求
食品や医薬品の製造工程では、衛生的な環境が絶対条件となります。
残留異物や細菌の繁殖を防ぐため、設備の隅々まで洗浄可能であることが要求されます。
この場合、わずかな隙間や段差、溶接部の凹凸が洗浄の死角となり、異物混入や製品ロスの原因につながります。
精密機器・半導体分野の微細な異物管理
一方で、精密機器や半導体産業においては、洗浄性の悪さが歩留りの悪化や歩留まり低下の主原因となります。
ミクロン単位の異物すら許されない製造現場では、ケーシング部材の溶接構造による洗浄しやすさが工程全体の品質管理の要となっています。
昭和型アナログ製造業の現場で根付く課題
見落とされがちな洗浄性の本質
長年、設備更新や設計思想が変わらずに継承されてきた昭和型の工場設備では、設計上の美観や強度ばかりが優先され、洗浄性が二の次となるケースも多く見られます。
現場のベテラン作業者からは「慣れでどうにかなる」「分解すれば掃除できる」といった意見も根強いです。
しかし、異物混入による企業ブランドの毀損リスクや、国際的な品質基準への対応が叫ばれる今、洗浄性軽視はもはや過去の話です。
目先のコスト重視と後回しにされる溶接構造設計
製造コストの抑制や納期短縮が叫ばれる中、ケーシング部材の溶接構造については“溶接すれば強度は確保できる”との発想にとどまりがちです。
しかし、安易な構造や汎用部品の組み合わせでは、後々の洗浄作業が難航し工程のロスやトラブルを招くリスクが高まります。
ケーシング部材の溶接構造と洗浄性の密接な関係
代表的な溶接構造と洗浄性の相関
ケーシング部材の溶接構造には大きく分けて以下のタイプがあります。
1. 角溶接(隅肉溶接)
2. 突合せ溶接
3. フィレット溶接
4. 部分溶接+シーリング
角溶接やフィレット溶接はコストや工法の簡便さから広く使われていますが、どうしても溶接ビード部(盛り上がりや段差)、隙間、クラックなどが発生します。
これに対し、突合せ溶接できれいな仕上げ(グラインダー仕上げやバフ研磨)を施すことで、凹凸を極限まで減らし洗浄性を飛躍的に高めることができます。
死角のリスク:溶接ビードとスラグの残存
図面上は問題なくとも、現場の溶接作業は人の手によって品質にばらつきが生じます。
溶接ビードの盛り上がりやピット、微細なスラグの残存が、汚れや異物、細菌の死角を作り出してしまいます。
特に高圧洗浄や自動CIP洗浄を採用していても、溶接ビード裏や凹部には洗浄水が届きにくく、結果として目視できない汚染エリアが蓄積していくのです。
洗浄性の高い溶接構造の設計ポイント
極力バット溶接で仕上げる工夫
突合せ(バット)溶接は、2つの板を付け合わせて面一に溶接するため、凹凸や段差が出にくい構造です。
溶接後にバフ研磨や仕上げ処理を行えば、ほぼフラットな内側面となり、異物の死角がほとんど生まれません。
バット溶接の採用はコストと手間が増えるものの、長い目で見れば清掃作業・品質維持・異物混入防止面で明確なアドバンテージとなります。
全周溶接(全面溶接)のすすめ
部分的な止め溶接や点溶接は応力分散やコスト面で有利ですが、隙間やピンホールが残存すると水分や洗浄剤が浸入し、最悪腐食やカビの温床となる可能性があります。
原則として衛生的な生産設備のケーシング部材については「全周溶接+シール」によって隙間を排し、洗浄性を高めることが業界トレンドとなっています。
溶接内面の後加工:バフ研磨の重要性
溶接部位そのものだけでなく、内面全体の研磨仕上げ(バフ研磨)を徹底することで、付着物や細菌の温床となる微細な傷やピットを極限まで排除できます。
特にSUS(ステンレス)部材の採用が進む現代では、2B仕上げや#400以上の仕上げが標準化しつつあります。
現場で“洗浄性重視”の設計を徹底するために
設計段階でのバイヤー・サプライヤー連携の現実
現場目線で感じるのは、設計者(もしくはバイヤー)が洗浄性を重視した図面や構造を明示せず、サプライヤー任せで詳細が詰めきれないパターンが少なくないことです。
現場の生産・品質部門、調達部隊、サプライヤーの加工現場が一体となり、「なぜ洗浄性が重要なのか」「どこに潜むリスクがあるのか」を具体的な課題として共有することが不可欠です。
見積もり精度の向上と“品質コスト”の正しい理解
どうしても部材の見積もりでは“単純な製造コスト”だけで見てしまいがちですが、実際には洗浄性の高い溶接構造を選ぶことで、将来的な設備保守や品質トラブル時のコストダウン効果が見込めます。
購買担当者やバイヤーは、トータルコスト(TCO)という観点から洗浄性による生産性の差異も織り込んで判断するべきです。
現場作業者の意見の吸い上げ−“洗浄しづらい構造”の実例から学ぶ
日々ケーシング部材を分解・洗浄・再組立している熟練工の意見は非常に貴重です。
「このミゾの深さが絶妙に掃除しにくい」「ビード部裏にどうしてもカスが残る」といった具体的課題を率直に設計部門にフィードバックさせ、課題抽出から次期設計や追加工の判断材料として活用する取り組みが重要です。
これからの溶接構造設計のトレンドと展望
自動化・デジタル設計が拓く“均質な溶接品質”
AIやロボティクスの進展により、溶接作業は人の手から自動機へとシフトしつつあります。
これにより従来バラツキの出やすかった溶接ビードが均質化され、洗浄性についても設計通りの高水準を維持できる時代が到来しています。
加工・溶接+組立一体型サプライヤーの台頭
従来は別工程だった加工・溶接・仕上げを一気通貫で担い、事前研磨・最終仕上げ・綿密な検査まで行う“トータルソリューション”サプライヤーが増加しています。
こうしたパートナーとの協業によって、「設計意図通りの洗浄性」を実現することがますます容易になっています。
将来を見据えた“洗浄性設計”の社内ガイドライン化
企業競争力の維持向上や海外市場進出を見据えて、洗浄性設計の社内標準やガイドラインを策定する動きも活発です。
設計段階での明確な方針と現場への徹底的なフィードバックループ構築が、次世代製造業にとって不可欠といえるでしょう。
まとめ:現場目線×バイヤー視点で洗浄性に優れた溶接構造を追求しよう
ケーシング部材の溶接構造は、たとえ直接目に見えなくても、製品の安全性や生産性に直結する極めて重要なポイントです。
昭和型の慣習やコスト重視の発想から一歩抜け出し、設計・調達・現場・サプライヤーが一体となって「なぜ洗浄性が重要なのか」を深く理解しあえる現場文化の育成が肝要です。
特にバイヤーや調達部門に所属する読者の方は、“目先のコスト表示”だけでなく、トータルコストや品質面でのパフォーマンスを是非とも加味して、サプライヤーへ正しい要件を伝えていただければと思います。
最後に、溶接構造による洗浄性向上は、決して単なる設備や図面上の話ではなく、「現場の命・ブランドの信用・未来の競争力」につながる重要テーマです。
業界の持続的発展、競争力強化のためにも、本記事が皆さまの現場改善や調達活動の一助となれば幸いです。
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