投稿日:2025年11月8日

生産設備の保全とは何か?現場で求められる日常点検の考え方

はじめに:生産設備保全の重要性と現場力強化の背景

ものづくりの根幹を支える生産設備。
その稼働率を維持し、安定した生産活動を支えるために欠かせないのが、効果的な「保全活動」です。

近年、製造業界ではIoTやAI活用によるスマートファクトリー化が進み、自動化・省人化が大きなテーマとなっています。
しかし、現場で日々起きる“リアルな問題”の多くは、今なお人の目と手による点検や保守活動が支えています。
とくに昭和から続く製造業の現場には、熟練作業者の経験と勘が色濃く根付き、アナログとデジタルが交錯する独特の現場文化があります。

本記事では、「生産設備の保全とは何か?」という基本に立ち返り、現場力を高めるために避けて通れない“日常点検”の考え方と実践ポイントについて、現場目線で深掘りします。
また、購買・調達やサプライヤーとの関わりの観点も交え、バイヤーを目指す方やサプライヤーの立場でバイヤーの思考に迫りたい方にも参考になる現場知見を共有します。

生産設備保全とは―定義と目的

生産設備保全の定義

生産設備保全とは、設備トラブルによる生産停止や品質不良など、損失リスクを最小化するための全般的な活動を指します。
故障を未然に防ぐための「予防保全」、トラブル発生時の迅速な「事後保全」、老朽化・法規対応への「改良保全」など、複数のアプローチから成り立っています。
重要なのは、“設備を正常に稼働し続ける”ことそのものが、製造業務の競争力や信頼性に直結している点です。

なぜ今、日常点検が改めて注目されるのか

デジタル化やIoT技術の導入が進む一方で、実際には「ちょっとした異音」や「振動」、「油漏れ」や「温度上昇」など、微妙な異常を設備や周囲の雰囲気から察知できる“現場の観察力”が不可欠です。

これは、製造ラインごとに使い方や状況が異なり、センサーでは捉えきれない“兆候”を現場作業者が独自の感覚で発見しやすいためです。
生産性向上やトラブル削減を追求する上で、改めて“日常点検の徹底”が強く求められているのです。

現場で求められる日常点検の視点

なぜ日常点検が“現場力”を左右するのか

「いつもの道具をいつものように使う」。
長年現場にいると当たり前になりがちな行動ですが、ほんの些細な変化に気付けるかどうかが、ベテランと初級者の大きな差となります。

日常点検は、日々の清掃やチェックを単に“作業”としてこなすのではなく、「いつもと違う」現象を自分ごととして意識し、違和感や異変をいち早く捉える心構えが重要です。

現場の小さな“気付き”が、深刻なトラブルやロス、品質問題を未然に防止し、生産現場の安定運用につながります。

現場での点検5つの切り口

1. 異音・異振動の確認
ベアリングや駆動部、ポンプやファンなど、「普段と違う音がしないか」「振動が増していないか」を五感で捉える。
例えば“ガラガラ”や“カラカラ”といった普段聞き慣れない音や、不規則な振動は、重大トラブルの前兆であることが多々あります。

2. 油脂類・冷却水の漏れや量点検
グリス・オイルの補給口やパイプ、ジョイント部の“湿り気”や“染み出し”は、油漏れやシール部劣化のサインです。
冷却水の場合、チョークや錆、配管の継ぎ目からの“にじみ”を確認してください。

3. 温度上昇・発熱箇所のチェック
電気制御盤やモーター、変圧器などが普段以上に熱を帯びていないか、“手でさわる・温度計測する”ことが大切です。

4. 締結部・可動部の緩み、がたの確認
ボルト、ナットの緩み、カバーやガイドの固定不足、チェーンやベルトの張り調整ミスなど、今すぐ事故や停止につながる“ゆるみ”があります。

5. センサー・安全装置の正常動作確認
各種インターロックや有無検知センサー、押しボタンスイッチや非常停止装置が正しく機能しているか、テストを怠らないことが肝心です。

これらの5つの観点を、毎日の巡回・清掃に組み込み、「気になることは必ずリーダーや保全担当に申告する」という習慣づけが、現場力の底上げに直結します。

昭和から続く“アナログ文化”の強みと落とし穴

設備管理は「ヒューマン・センス」が命取りになる場合も

昭和から続く現場の多くは、設備の個性やクセまで知り尽くしたベテラン作業者が点検を担ってきました。
手帳や日報にこまめに記録し、自身の経験値のみで判断するアナログ文化にも一定の合理性があります。

しかし、慢性的な人材不足や多能工化、若手作業者の増加により、「経験と勘だけに頼る」点検スタイルは通用しづらくなっています。
彼らにとって、“異常の基準”が曖昧なままだと、「大丈夫だろう」という思い込みが温床となり、改善どころか隠れたトラブル予備軍も見落としがちです。

アナログ文化を活かしつつ、デジタル管理と併用する発想

1人ひとりの観察力とチェックシートやタブレット点検記録を組み合わせ、“属人性”を排しつつ「正確な情報共有」と「判断の標準化」を行うのが効果的です。
点検履歴や傾向データから“異常の早期兆候”が分かると、予防保全がしやすくなります。

また、現場の“暗黙知”を若手にどう引き継ぐかも課題です。
ベテラン作業者と一緒に現物を見せて、音・振動・臭いなどの“感覚”を言語化・可視化することで、OJT効果が高まります。

バイヤーも知るべき「設備安定化」とコストメリット

サプライヤー選定・購買評価において見逃せない視点

バイヤー視点で重要なのは、単に“安く仕入れる”ことではなく、「設備の安定稼働を支えてくれるサプライヤーか」を評価することです。
部品や消耗材、油脂類など微細な部品一つを疎かにすると、コスト削減以上の損失(QCDS:品質、コスト、納期、サービス)リスクにつながります。

たとえば、納入部品の追跡性や品質管理体制、アフターサービスの可否までヒアリングすることで、自社工場の“設備保全力”が根本から強化されます。
現場で「いつもトラブルが少ないサプライヤー」や「現場作業者への現地ヒアリング対応できる企業」は、長期的パートナーとして大きな資産となるのです。

現場とともにつくる“予防保全型”ものづくり体制へ

工場内で起きた問題について、サプライヤー・購買・現場の三者で“情報開示と原因共有”を徹底できれば、部品選定やメンテナンス周期の最適化に活かせます。
先進のIoT点検システムや、現場FAQのナレッジシェアも要注目です。

まとめ:保全は全員参加。現場の一体感が安定生産への最大の近道

生産設備の保全は、設備担当だけの役割ではありません。
現場作業者、管理者、購買担当、サプライヤーが“ワンチーム”となり、日常点検と予防保全を徹底する文化づくりが不可欠です。

AIやIoT時代となっても、現場の「違和感」「変化への気付き」こそが最良の保全システム。
現場力を高め、根本の生産性と信頼性を守り続けるため、改めて「日常点検」のあり方を自身と現場全体で見直してみてはいかがでしょうか。

現場の一人ひとりが“小さな気付き”を持ち寄り、全員で「安定生産」を守るための礎づくりを、今から始めましょう。

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