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人手不足問題を可視化できない組織は何を誤っているのか

目次
はじめに
近年、製造業では深刻な人手不足が叫ばれています。
政府や業界団体もさまざまな対策を打ち出していますが、現場には慢性的な「人が足りない」「人が辞める」「採用できない」といった課題が山積しています。
多くの経営層や管理職は「人手不足こそ企業成長の最大のボトルネック」と考え、現場改善やデジタル化への投資を加速させています。
しかしその裏で、「実は自社でどこがどの程度人手不足なのか、数字で語れる組織」は意外と少ないのが現状です。
なぜ人手不足問題は可視化できないのでしょうか。
その誤りの本質、そして現場で役立つ具体的な可視化のアプローチについて、製造業現場で20年以上の経験をもつ私の視点から掘り下げていきます。
人手不足問題、その「肌感覚」が組織に招く落とし穴
なぜ人手不足の「可視化」が進まないのか
人手不足は、現場のリーダーや部課長が常に頭を抱える問題です。
しかし、多くの組織では「人手が足りない」という漠然とした主観で議論されがちです。
現場の声として「ここがしんどい」「この工程が遅れている」「人がいればもっとできる」という声が上がる一方、「具体的にどの業務で、どの工程で、何人足りなくて、どう苦しくなるのか」が数字や業務フローで示されることは少ないのが実態です。
その理由は主に以下の3点に集約できます。
1. 慣習的なマネジメント手法への依存
昭和型の工場運営では、ベテランの経験則や勘に頼った人員配置が根付いています。
2. 現場・管理層のコミュニケーションギャップ
現場の実態と経営判断を結ぶ「数字で可視化する文化」が未成熟のまま、上へ報告が挙がらない。
3. 可視化ツール・仕組みの未導入
工数管理や工程負荷、採用・離職状況などをまとめるシステムの導入が進んでいない。
このままでは、「人手不足はしょうがない」「人を増やしても利益が上がるか分からない」という堂々巡りに陥ります。
「数字で語れない組織」が抱える根本的誤り
最も大きな誤りは、「人手不足を構造的な経営課題として捉えきれていない」点です。
経営資源としての“人”を、情報や設備と同じように「現状把握」「ギャップ分析」「施策立案」というPDCAサイクルで回す感覚がないまま、年次事業計画や採用計画を立ててしまっています。
「どの工程に、どんなスキルの人が、何人必要か」という“定量的な人材マッピング”や、「どこがボトルネック作業になっているか」という“工程ごとの過負荷分析”が行われていない、まさに「見えないまま運営」されているのです。
また、「何人増やせば生産性がどう上がるのか」「自動化や外注でどれほど負荷が軽減するのか」といったROI視点も曖昧になります。
このため、現場の苦しみが「一時の声」として流され、根本解決に至りません。
人手不足の可視化で得られる3つのメリット
人手不足を定量的に可視化できれば、現場も経営層も、具体的なアクションを取れるようになります。
以下、主なメリットを3つにまとめました。
1. 投資判断の明確化
生産性や設備導入効果、アウトソーシングの妥当性など、数字に基づく論理的な投資判断が可能です。
結果、無駄な人員増や場当たり的な残業指示を減らし、経費の最適化にもつながります。
2. 現場負荷の平準化
人の配置や異動、教育計画などの精度が上がり、特定工程・特定人員の「属人化」「過重労働」を解消できます。
これにより、長期的な離職防止や、技能継承の障壁も下がります。
3. チームのモチベーション向上
現場で「なぜ人が足りないのか」を全員が理解し、自分の業務が組織のどこにどう影響しているかを実感できます。
経営層と現場の納得感が一致し、「この改善案は本当に効く」「成果が出れば次も挑戦できる」という好循環が生まれます。
人手不足を可視化するための具体的アプローチ
1. 業務棚卸し・工程マッピングの徹底
まずは「何の作業に誰がどれくらい時間を使っているのか」を徹底的に見える化します。
方法としては、下記が考えられます。
・作業日報や工数表、タイムスタディによるデータ収集
・現場ヒアリングやGEMBAウォーク(現場観察)による課題聴取
・各工程の人員シフトや稼働実績の定量記録
これにより、「何に時間がかかり、何がボトルネックか」が明らかになります。
現場リーダーだけでなく、改善推進担当や人事、経理も巻き込み、“全社横断的に”行うことが重要です。
2. 工程別負荷・スキルマップの作成
各作業工程ごとに「標準作業時間×オーダー数=必要工数」として必要人員を割り出します。
併せて、各人員の持つスキルや資格を一覧化し「どこが“代えのきかない人”に依存しているか」を把握します。
この「可視化されたスキルマップ」は、異動や教育計画はもちろん、急な人員退職・長期病欠の際も柔軟な対応を可能にします。
3. デジタルツール活用による業務管理
昭和的な手作業や紙帳票に頼るだけでなく、工数管理ソフトや勤怠管理アプリ、FAシステムと連携した生産進捗データの収集を進めます。
ツール導入は「経営層の一声」で決まる場合が多いので、数字的な根拠=投資対効果を提示できる可視化がますます求められます。
なお、「デジタル化する価値がある業務」の洗い出しも重要なポイントです。
アナログ業界こそ今、ラテラルシンキングが必要な理由
製造業は伝統産業であり、「変えること」自体に消極的な文化が根強く残っています。
しかし外部環境が大きく変わる現在、「新しい視点で本質的課題を見抜き、抜本的に改善策を打てる組織」こそが生き残ります。
ラテラルシンキング(水平思考)を活用し、たとえば以下のような新しいアプローチも有効です。
・繁忙工程を外部委託した場合のメリット・デメリットを“可視化”
・外国人労働力や多様な働き方の活用余地を“可視化”
・既存の生産設備やITツールを“人のリソース”として数値化
このように、「人手不足=人増やすしかない」と短絡的に考えるのではなく、多角的視点から「最適配置・最適工数・最適投資」のロジックを磨くことが、製造業進化のカギとなります。
サプライヤー・バイヤー目線で捉える人手不足の可視化
購買・調達やサプライチェーンマネジメントの現場でも、人手不足の可視化は極めて重要です。
サプライヤー側は「自社の生産キャパや人材配置の可視化」に努めないと、バイヤーからの納期短縮や増産要請に適切な回答ができません。
逆にバイヤー側も、サプライヤーの現場や人員状況をフェアに理解することで、無理な発注や不合理な依頼を減らし、持続的な取引関係を築けます。
今後のものづくりでは、バイヤーとサプライヤーが共に「現場リソースの見える化」を進め、「双方が納得し合えるパートナーシップ」を築くことがますます求められます。
まとめ 〜「人手不足可視化」は、現場主導で始める時代〜
人手不足を単に嘆くだけでなく、「現場を見て・数値化し・課題を炙り出す」ことが、これからの製造業には不可欠です。
管理職や現場リーダーが「数字で語れる現場」を目指し、経営も現場も本音で議論できる企業こそが、付加価値の高い業務改革と健全な人材投資を実現できます。
“根拠なき肌感覚”から、“ロジックで語れる可視化”へのシフト。
それが、昭和から令和へものづくりを進化させる第一歩となります。
今一度、自社の人手不足はどこで、どのくらい、なぜ発生しているのか。
この問いを徹底的に掘り下げ、数字で語り合いましょう。
その先にこそ、働く人も企業も幸せになる「製造業の新しい地平線」が広がっています。