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人事DXのデータ整備が目的化してしまう瞬間

目次
はじめに:人事DX推進の落とし穴
近年、製造業においても人事分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)が声高に叫ばれるようになりました。
働き方改革や少子高齢化、人手不足といった社会的背景から、従来の紙ベース・アナログ管理をIT化する必要性は広く認識されています。
しかし実際の現場では、「データを“整備すること”そのものが目的化してしまう」という本末転倒な事例が少なくありません。
本記事では、長年、製造業の現場で調達・購買、生産管理、品質管理などに携わった私の視点から、人事DX推進が“データ整備の罠”にはまる理由と、その解決策について掘り下げていきます。
データ整備が目的化する理由とは?
データ化=仕事、と勘違いしやすい業界風土
昭和から続く工場現場では、「モノ」と「紙」が全てでした。
日々の勤怠も評価も、紙やExcelで管理され、「記録=証拠=安心」という意識が染みついています。
そのため人事DXの話になると、「まずは今ある情報をデータベース化しよう」となりがちです。
しかし、何のためにデータ化するのかという“目的”を十分に議論しないまま、「キレイに揃ったデータベースが業績と直結する」という思い込みに陥る組織が多いのです。
結果、膨大な人事帳票をスキャンしてPDF化したり、社内システムに手入力で登録し直したりする作業が人事部や現場の負担を増やし、本来の「業務効率化」「戦略的人材活用」といった成果に結びつかないケースが少なくありません。
意思決定者と現場の認識ギャップ
経営層やDX推進リーダーが掲げるビジョンと、現場が求める成果が噛み合わないこともしばしば見られます。
「現場の困りごとを解決したい」から始めたはずのDXプロジェクトが、途中から「とにかく全部データで管理できるようにしよう」という目標に変質します。
現場の作業者からすると、「また新しいシステムが増えて、操作説明も不十分。入力だけ増えて逆に手間が増えた」といった疲弊を招くばかりです。
さらに悪いことに、「ちゃんとデータは揃ったか?」と“進捗”だけを成果指標に設定してしまうと、現場の負担とクオリティ低下が加速する悪循環となります。
外部ベンダー主導の“型”に縛られる
多くの場合、人事DXは外部ベンダーのパッケージシステムを導入する形で進みます。
「ベストプラクティスに倣う」とうたいますが、結局「このシステムに合わせて現場のやり方を変えてください」という論理がまかり通ります。
結果、現場で使われないデータ項目が増え、形式的に入力はしても利活用されなくなり、「形だけ整った人事マスター」が完成します。
製造業特有の技能・スキル評価や、人事異動の理由記録、新たな現場教育の効果測定といった“活きた”情報は従来どおり紙や口伝で補完、DXの壁は依然として残ったままです。
データ整備の目的を見失わないために大切なこと
現場と経営層が“共通認識”を持つ
最も重要なのは、「何のために人事データを整備したいのか?」という根本目的を明確にし、経営層から現場まで共通認識を持つことです。
たとえば、「この現場のどこにどんなスキルの人材がいるかを瞬時に把握して、多能工チーム編成の参考にする」「育成履歴や資格情報を可視化して、AIで最適配置をサポートする」など、現場課題に具体的に根付いた目標を設定します。
このプロセスこそ、製造業の現場で本当に意味のあるDXにつながります。
“要らないデータ”をあえて捨てる勇気
全てのデータを網羅的にデジタル化しようとすると、大量の「使われないデータ」「使い途の見えないデータ」を抱え込むことになります。
データ整備の段階で「本当に役立つ指標は何か?Excelでも十分ではないか?半自動化で足りる部分は?」と精査し、“捨てる基準”を設けることが大切です。
現場ニーズを汲み取って、本当に必要な情報だけをシンプルに残す姿勢。
この「引き算思考」が、結果的に“データが活きる”風土を作ります。
小さな成功体験を積み重ねる
いきなり「全社100%デジタル化」などと大勝負に出ると、多くの現場がついてこられず、挫折感や“やらされ感”が強くなります。
まずは特定の拠点や部門、たとえば「技能伝承チームの資格管理」など成功事例を作り、「データが現場業務にこう役立った」「配属計画が格段に楽になった」と具体的な利点を体験してもらいましょう。
この“スモールスタート”の考え方が、現場発のボトムアップ改革を呼び込みます。
業界視点からみる「昭和型」人事管理からの脱却
“評点文化”のデジタル化の落とし穴
昭和から長く続く日本の製造業では、目に見えない貢献を「評点化」する仕組みがあります。
これをそのままデジタル化すると、紙帳票がシステムになっただけで「どう評価するか」の曖昧さは解消されません。
データを集計しても、人事評価が現場の納得につながらないという“旧態依然”の問題が残ります。
人事DXの真価は、「評価の透明化→スキルアップ意欲の向上→適切な配置や育成」の好循環をつくることにこそあります。
エビデンスを重視し、現場が納得できる評価指標と、その運用プロセスまでアップデートできてはじめて、データ整備の意義が生まれるのです。
“人の勘”に頼ってきた現場長の知見を活かす
日本のものづくりを支えた工場長、ライン長は、経験と人柄で現場をまとめてきました。
人事DXに取り組む中で、彼らの“感覚”や“通念”こそ、データ化では補いきれない現場運営のヒントがあります。
DX推進では、「現場リーダーの勘や経験をどのようにデータに落とし込むか」という視点を持つと、人事データが生きた改善サイクルの一部になります。
たとえば“成長が早い人の特徴”や“トラブルが多いラインの共通傾向”など、暗黙知をデータとして言語化する営みが、現場力の底上げにつながります。
アナログから脱皮する「根本的な組織変革」へ
DX化にともない、従来のヒエラルキー型組織や属人的な業務フローの見直しも不可欠です。
現場管理者が、システム上のデータのみならず現場を歩き“人の反応”も見て、「今どの情報が誰にどのように役立っているか」を常に確認していく。
こうした“デジタルとアナログの融合”を志向することが、昭和型の人事管理から脱却し、真の人事DXを実現する近道になります。
サプライヤー・バイヤー双方の立場で考える人事DXのすすめ方
バイヤーに求められる情報感度と問題発見力
製造業の調達・購買担当(バイヤー)は、取引先サプライヤーの人材力や組織運営力を評価する際、単なる「人員数」ではなく、「どこまでデジタル化され、データ駆動型の運営が浸透しているか」を着眼点とすべきです。
サプライヤーの人事DXの進捗度合いが、品質管理や生産リスクの予見、納期遵守力にダイレクトに繋がる時代になっています。
「この人事システムで人材の流動化や育成データを迅速に共有できますか?」といった“質の高い質問力”を持つことが、優秀なバイヤーへの一歩となります。
サプライヤーが磨くべきデータ活用能力
サプライヤー側は、「バイヤーが知りたい情報」を的確・迅速に提示できるデータ基盤を構築することが競争力に直結します。
人事DXが進展していることで、短納期の人員配置シミュレーションや、生産性のボトルネック早期発見――といった“提案型営業”ができるようになります。
「当社のこのデータによると、御社の要望にこう応じられます」と数値で示せるサプライヤーは、信頼性が飛躍的に増します。
まとめ:人事DXの本質的な価値を現場と共有しよう
人事DXは、単なる「データ化」や「データの整備」を自己目的化して始めると、本来の意義を見失ってしまいます。
現場の困りごとや経営課題に直結した“必要最小限のデータ”を整然と整理し、活きた業務改善に結びつけてこそ、本当の意味で組織力を高める礎となります。
昭和時代から続くアナログな意思決定や“勘と経験”もデータ運用と掛けあわせて、現場×経営層×サプライヤー・バイヤーの三位一体で、DXを推進していきましょう。
「何のためのデータか?」を問い続ける姿勢が、製造業の未来を切り拓く最大のカギとなります。