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人材不足対策が若手とベテランを分断する瞬間

目次
はじめに:人材不足という慢性課題と現場の温度差
日本の製造業は、かつて世界を席巻した「ものづくり大国」としての誇りを持っています。
しかし、近年は人材不足という慢性的な課題に直面しています。
特に少子高齢化の影響はおおきく、現場を支えてきたベテランの引退と、若手の採用難が同時に押し寄せています。
この状況を打破するために様々な人材確保・維持の施策が取られていますが、その一方で「人材対策」が却って若手とベテランの間に目に見えない壁を作り、現場を分断する事例も増えています。
本記事では、実際の製造現場で起きている分断の瞬間、そしてその背景や問題点について、現場目線で詳しく解説します。
バイヤーやサプライヤーにも直結するこのテーマについて、深く掘り下げていきます。
人材不足対策の現実:なぜ現場は分断されるのか
若手採用の加速とベテランの疎外感
企業は若手人材の確保に苦心しています。
新卒採用の強化、中途採用市場への柔軟な対応、外国人労働者の受け入れ拡大など、過去には考えられなかったダイナミックな対策が次々に打たれています。
一方で、長年現場を支えてきたベテランたちの役割や意義は、デジタル技術や自動化の進展と共に、少しずつ変化しています。
「新しい発想を大切に」「古い体質から脱却」などのスローガンのもと、若手を主軸とした現場改善やプロジェクトが進む場面も増えてきました。
これにより、ベテランが「自分たちはもう必要とされていないのでは」と感じ、現場へのモチベーションや帰属意識を失いがちになる空気が生まれています。
例:DX推進プロジェクトでの若手登用
たとえば、生産現場の情報化・デジタル化(いわゆるDX)のプロジェクトを立ち上げる際、多くの企業ではデジタルネイティブな若手を中心にチーム編成を行いがちです。
デジタル技術を自在に操る若手と、紙や口伝えを基本としてきたベテランとの間に、仕事の進め方や価値観の“断絶”が見られるようになります。
現場で「新しいシステムを入れる=若手主導、古いやり方=ベテランの役割」と無意識にラベリングされ、対話不足から不満や誤解が拡大。
結果として、チームの一体感が損なわれる瞬間が生まれてしまいます。
なぜ分断が生じるのか:現場あるあるの根本要因
「労働力=消耗品」から「人材=資本」へのパラダイムシフトのギャップ
昭和の時代、日本の製造現場は「長時間働いてなんぼ」「手足を動かしてこそ一人前」という根強い価値観に支えられていました。
しかし現在は「働き方改革」が浸透し、過重労働の見直し、多様な働き方の尊重が求められています。
この急激なパラダイム転換において、現場には次のようなギャップが露呈します。
– ベテランは「昔はこれが当たり前だった」と語り、現実とのすり合わせがうまくできていない
– 若手は「無駄なやり方・管理は効率化すべき」と考え、伝統や暗黙知を軽視しがち
– 管理職や経営層が「効率と多様性の両立」を求めるが、どちらにも言い分があり双方の不満が解消しきれない
アナログ業界に根付く“昭和マインド”
製造業は最新のテクノロジーが導入されても、根本思想として「現場第一主義」が残っています。
表向きにはITツールや自動化システムが整備されているにもかかわらず、名人芸や経験則、属人的なノウハウが厚く壁となって現場に根付いているのです。
「マニュアルより顔を見て判断」「メールより電話」のような行動様式が、世代間での齟齬の根本原因となり、現場での断絶を深める結果へとつながります。
現場分断のリアル:よくある実例
コミュニケーションの溝
例えば、設備のメンテナンスを巡る現場では、次のような会話がよく起きます。
若手:「この作業工程、もっと自動化できるはずです。」
ベテラン:「いや、ここは手でやらないと感覚が分からない。“危ない前兆”は機械には出せないんだ。」
この「技術の正解」が一つではない問題において、両者が歩み寄らず、結果どうにもならないまま膠着しがちです。
OJTの限界
人手不足の中、若手の即戦力化を目指したOJT(On the Job Training)は至る所で活用されています。
ただ、現場の忙しさや担当者の個性によって、ティーチング内容にムラが出たり、ベテランから「教えてもどうせ辞めるだろう」という割り切りも見えてしまうのが現実です。
転職経験の多い若手側から見ると、「どうせ評価されない」「見て覚えろの指導は時代遅れ」という印象だけが残り、所属意識が醸成されません。
工場内カイゼン施策の温度差
TPS(トヨタ生産方式)を筆頭とするカイゼン文化も、現代には難易度が上がっています。
数値化・自動化できる部分は若手が強みを発揮できますが、現場発の改善(紙のボード/手書きメモ/口頭共有)は「不便でも現実的」とするオールドスタイルが支配し続けています。
こうした改善活動の進め方で、若手とベテランの間には根強い“やり方論争”が付きまとい、共同体意識が薄れてしまいます。
バイヤー/サプライヤーにとっての分断リスク
情報伝達・意思決定の停滞
バイヤーやサプライヤーの立場としても、現場での分断は大きなリスクです。
たとえば納期トラブルや品質上の課題が生じた場合、分断されたチームでは情報連携や打ち手の意思決定が劇的に遅くなります。
「ベテランにしか分からない裏事情」と「若手しか分からないシステム対応」の二重管理が生じ、バイヤー側は“誰に・どこまで聞けば本当のことが分かるのか”という不安にさらされます。
また、現場の分断により改善案の具現化が進みづらく、納入品質・コストパフォーマンスの向上にも多大な影響を与えることになります。
サプライヤーの立場で知るべき製造現場の実情
多くのサプライヤー企業はバイヤーとの連携で生産や購買を進めていますが、現場分断の影響で下記のような事態を経験しています。
– 仕様変更指示を受けても「現場ノウハウ」が全て伝わらず苦労する
– 現場実務者と管理者の意見が大きく食い違い、どちらに調整軸を置くべきか判断が難しい
– 長年取引してきたベテランが退職/異動し、信頼関係の構築が一からやり直し
こうした現場のリアルを知り、バイヤーやサプライヤーの立場から現場分断のリスクを意識し、コミュニケーションの工夫が求められます。
分断を乗り越える“現場力”の磨き方
“共創”による相乗効果を目指す
人材不足対策が分断の種になるのは、旧来の属人的ノウハウと、新しい仕組みや技術が対立軸で語られやすいからです。
これを避けるためには、下記のような“共創”の意識が必要です。
– ベテランの「経験知」をデジタル変換し、ナレッジベースに残す工夫を現場全員で進める
– 若手からは最新技術やツールの提案を促しつつ、失われがちな「なぜ・どうして」といった現場の言語化を積極的に求める
– 定期的に世代や役割を超えたワークショップ・勉強会を設け、意見交換の機会を増やす
“現場を知るバイヤー・サプライヤー”としての成長
バイヤーやサプライヤーが現場分断を埋めるパートナーになることも可能です。
– 現場でのちょっとした改善を提案できるよう、日ごろから現場観察・現場ヒアリングを欠かさない
– 設計・製造・工程管理まで全体を俯瞰する“流れの理解”を意識する
– 分断が表面化している現場には“中立的な第三者”として介在し、双方の意見調整をサポートする
このように“現場目線のコミュニケーション能力”を備えることで、現場の真の価値向上に貢献できる存在となれます。
まとめ:人材不足と分断をどう乗り越えるか
人材不足対策は製造業の大前提ですが、その副作用として現場の分断が進むリスクがあります。
特に、世代間や職種間の価値観・やり方・情報共有の壁は、現場の団結と柔軟な課題解決力を奪いかねません。
大切なのは、ベテランの経験と若手の発想を相互に高め合う“共創現場”づくりです。
バイヤーやサプライヤーにも現場分断のリアルを知ってもらい、業界全体で歩み寄りと対話を増やすことが製造業の発展に不可欠です。
「分断」は終わりではなく、新たな現場力を生み出す“本当の始まり”だと捉えて、一歩先を見据えた取り組みを重ねていきましょう。