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クルマを継続開発する前提が組織評価を歪める瞬間

目次
はじめに:製造業に根付く継続開発前提の組織評価
日本の製造業、特に自動車業界は、長年「継続開発」を大前提として事業を回してきました。
この文化は成功体験と切り離せず、日本車の品質の高さや、継続的な改良による完成度向上を生み出してきた背景には間違いなくこの姿勢がある、と現場で肌で感じてきました。
しかし、この「継続開発前提」の考え方が組織や評価システム、購買・調達現場にどんな影響を与え、場合によっては組織運営を歪める瞬間を生み出しているのか。
ここでは、現場の視点と管理職としての経験をもとに、今の業界構造や慣習が抱える問題点と、未来へのヒントを実践的に考察していきます。
継続開発が生んだ成功と固定観念
継続開発=日本の強みと信じて疑わなかった背景
多くの工場では前年度の成果をベースにほんの少しずつ改良(KAIZEN)し、失敗を最小限にして「より良く」することを是とします。
これは品質上の安定、生産性の向上に寄与した側面が大きく、評価の物差しも「昨年よりどれだけ良くなったか」という定量評価が基本です。
自動車であれば、〇〇型から〇〇型へどのくらい不良流出率を削減したか、この新部品で何パーセントコストダウンできたか…数字による進歩こそが正という価値観です。
生産も評価も「前年ベース」が根幹に
この「前例ベース主義」は生産現場や購買現場だけでなく、バイヤーの評価やサプライヤー選定にも色濃く残りがちです。
たとえば、新規メーカーや新部品の導入時も「この会社は以前どんな実績があるのか」「うちの基準で前年と同等以上の信頼が置けるか」という既存枠組みでの評価が根強いのです。
このような評価制度は大きな失敗を防ぐブレーキとして機能する一方で、新しくリスクを取る決断や、根本からの変革への意欲を削ぐ側面も否定できません。
継続開発前提による組織評価の「歪み」
常に既存を守る、イノベーションを阻害する壁になる
例年通り、前年通りを守る評価指標は、特に調達購買や品質管理など守備範囲が広く責任も重いポジションでは、安定運用が何より評価されるようになりがちです。
その結果、革新的な新技術や新規サプライヤー導入へのチャレンジ精神が「失敗リスク」とみなされやすく、「冒険しない・現状維持」が無難な意思決定となります。
たとえば、AIやDX、工場自動化の新システム導入を提案しても「前の設備でうまくいっているんだから今はまだ早い」「前年並みの予実管理で十分」という空気に押し切られる現場は非常に多いです。
マイナス評価が先に立つ「失敗への恐怖文化」
1年間のパフォーマンス評価も「昨年より売上が下がった」「不良流出が前年より増加した」場合にはすぐにネガティブな評価につながりやすく、反対に大きく成長したときの加点幅は小さくなりがちです。
このため特に管理職ポジションでは、「前年踏襲型」の意思決定こそが、減点を避けて組織で生き残る最適解となってしまい、結果として部署全体が新しいことへの挑戦に抑制的になる傾向が強いです。
現場では「『新しい事』を言い出すのが一番損」という“昭和の空気”が未だに根付いているケースが往々にしてあるのです。
調達・購買分野でのもっと根深い「歪み」
バイヤーの成績評価にも前年基準が常に付きまとう
バイヤーの多くは「前年よりいかにコストを下げたか」「どれだけ協力会社とトラブルなく数を納められたか」で細かく評価され続けています。
このため、調達現場では実績重視で新規参入を敬遠したり、リスクの高いチャレンジ(例:未経験サプライヤーへの切替やグローバル調達の拡大)を敬遠する現場心理がどうしても根付いてしまいます。
サプライヤー側も読むべき「バイヤーの本音」
サプライヤー視点では「なぜこんな保守的な要求ばかり?」「どうして冒険してくれないのか?」と疑問を持つかもしれませんが、その背景は「バイヤーの減点評価恐怖症」である場合が多いです。
たとえ技術的に優れた新しい提案でも、「実績」「前例」「既存枠組み」で安心材料を揃えないと提案採用されにくい、という現実があります。
だからこそ、サプライヤーはバイヤーが持つ『前年踏襲型の評価軸』『チャレンジした際のリスクヘッジ材料』まで配慮したうえで提案や交渉を組み立てることが、採用への近道になるのです。
なぜ今、この「歪み」が顕在化するのか?
安定志向が「衰退」や「世界競争力低下」の原因に
世界の自動車・モノづくり業界がEVや自動運転、サプライチェーンの抜本変革など大転換時代に突入する中で、日本製造業の「強かった安定路線」は却って変革を阻害し始めています。
市場からの要求も「コスト削減だけ」では対応できず、「スピード」「サステナビリティ」「強烈な独自性」など新しい価値提供が必須になりつつあります。
そうした変化についていけない組織ほど「継続開発前提」「前年基準評価」が組織を弱体化・硬直化させる“歪み”として明確化しています。
現場はもう限界を感じている
多くのベテラン管理職も心の中では「さすがに今のやり方じゃ世界に通用しない」という危機意識を持ち始めています。
現場レベルでも、AIやIoTを駆使したスマート工場化や、海外新興メーカーの台頭など、日々従来にはなかった課題や挑戦が突きつけられているのです。
それでも「減点主義」「前年踏襲型評価」から脱せず、新しい変革の一歩を踏み出せないもどかしさが蔓延している、これが今の現実です。
ラテラルシンキングで打破するためのヒント
組織評価の物差しを根本から見直す
過去の延長線上ではなく、「どんな新しいアプローチを試したか」「リスクを取って挑戦したか」そのプロセス自体も評価軸に組み込むことが大きな第一歩です。
たとえば、失敗事例もアクションとして積極的にピックアップし、「チャレンジした人」に光を当てる体制へと移行する必要があります。
バイヤーも「リスク最小」から「価値最大」への転換を
バイヤーの購買活動も、単純な前年コスト対比や納期厳守ばかりでなく、新技術や新サプライヤー導入による「全体最適」や「全社ベースでの価値向上」を評価のベースにできる仕組みづくりが必要です。
サプライヤーは「理解」「伴走」という提案姿勢に
サプライヤー側も、バイヤーが抱える評価課題や組織風土をよく理解しつつ、単純な価格提案だけでなく「リスクを最小化しつつ、一緒に新しい付加価値に踏み出そう」という伴走型の提案が今後は支持されやすくなります。
おわりに:アナログ業界に新しい風を――現場から変わる未来へ
昭和の成功体験から生まれた「継続開発前提」の評価は、日本のモノづくりを長く支えてきました。
しかし、環境激変の今こそ、その“成功の型”が組織運営の歪みとなり、足かせとなり始めています。
現場・バイヤー・サプライヤーのいずれの立場でも、「新しいことに挑戦した人を評価する」「失敗も価値としてプロセス目線で評価する」という新しい思想へのシフトが不可欠です。
製造業に携わるすべての方が、いまこそ現場から変革の兆しを起こし、『自分たちで新しい地平線を切り拓いていく』。
そのための一歩を、ぜひあなた自身の現場から踏み出してみてはいかがでしょうか。