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設計段階で“理想形状”を追求した結果、現場で全く作れないと言われる瞬間

目次
はじめに:設計者の「理想」と現場の「現実」のすれ違い
製造業において、設計者が追求する“理想形状”。
それは技術への挑戦であり、会社の未来を切り開く創造の第一歩です。
一方で、その理想が現場の生産設備や加工技術と大きく乖離したとき、量産段階で「これでは作れません」と現場から返される――。
これは製造業あるある、まさに設計と現場の“分断”の象徴です。
なぜこうしたすれ違いが生じるのか。
そして、設計と現場がどのように歩み寄るべきなのか。
調達・購買や生産管理、品質管理、そして自動化の現場で鍛えられた視点から、実践的な考え方を共有します。
設計が陥る“理想形状”のワナ
カタログスペック通りに作れるものはほとんどない
設計段階では、しばしばカタログスペックや理論値をもとに最適形状を描きがちです。
「このR(曲率半径)が最も応力を分散できる」「この薄肉化でコストが究極まで抑えられる」など、シミュレーションや理論計算が先行します。
しかし実際の金型や加工現場では、ほんの0.1mmのアンダーカットや曲げの位置ひとつで「これじゃ金型から取り出せません」「バリが取れません」などの問題が発生します。
その結果、理想的な3Dデータを前に現場から「これは無理ですね」と一刀両断されるのです。
設計者と現場担当者の認識ギャップ
なぜこうなるのか。
現場担当者は製造機械、その“限界値”やクセを知り尽くしています。
たとえば「この板厚でこの穴加工は工具が持ちません」「この曲げ形状は現状のブレーキプレスでは実現不能です」といった具体的なノウハウがあります。
ところが設計者には、図面や3Dデータ上の“理想”が強く優先されてしまう。
このギャップこそが昭和から続く“縦割り”の残滓であり、デジタル化が叫ばれる今もなお、根深く現場に残っています。
設計現場の“声なき声”が生産現場を苦しめる理由
なぜコミュニケーションエラーが生まれるのか
設計者の多くは「現場と話している」と思っています。
しかし実際は図面をメールで送るだけ、電話一本で済ませているケースが多いです。
現場側は受け取ったデータや図面を見て、社内ですぐに「これは押し返そう」と判断してしまいます。
本来は設計者が現場に出向き、設備の制約や苦労を数値・実感でつかまなければなりません。
しかし部品点数が多いほど、設計者の工数も増え、「現場確認を全部にはかけられない」ジレンマが生まれます。
この“現場の声なき声”を設計が拾えないままプロジェクトは進行し、手戻りとコストアップ、納期遅延が多発します。
“目の前の納期優先”が根本的な問題解決を妨げる
昭和から続く文化のなかで根強いのが「とりあえず納期に間に合わせろ」という空気です。
現場も設計も、図面や仕様に多少問題があっても“場当たり的な対策”で目先の納品をクリアしがちです。
たとえば、現場で「手加工を挟む」「人手による追加チェックを入れる」など、本来なら不要なコストとムダがすぐ発生します。
この応急処置が恒常化し、改善活動が進まないまま“アナログ的なしわ寄せ”が現場を苦しめ続けるのです。
バイヤー・調達購買の立場から見る設計ミスのリスク
供給不安とコスト急騰の要因になる
理想形状にこだわった設計図面は、サプライヤー選定の際に大きな壁となります。
調達担当者が図面を持って全国のサプライヤーに見積もり依頼をかけても、「これだとうちの設備だと加工できません」「歩留まりが極端に悪い」と言われ、見積もり自体が取れない場合すらあります。
結果的に“その形状に対応できるごく一部のベンダー”しか対応できず、供給リスクの高い部品となります。
また量産に入ってからも、頻繁な不具合発生で追加費用や納期遅延につながるのです。
バイヤー・サプライヤー間の真のパートナーシップ構築へのヒント
調達は単なる“価格交渉屋”ではもはや戦えません。
サプライヤーの現場を自分の目で見て、どんな加工が苦手で、何が現実解なのかを理解してこそ、設計段階へも「こうすれば調達先が増やせます」という具体的なフィードバックができます。
バイヤー視点・現場視点の両方を持ち、サプライチェーンリスクや歩留まりの観点で“本当の意味で作りやすい設計”を提案できる調達が、今後競争力を左右します。
アナログ現場から脱却し、設計と現場を繋ぐ「ラテラルシンキング」のすすめ
“現場発想”が真のコストダウン・品質向上を生む
現場と設計のすれ違いを解消し、新たな価値を生み出すには、まず“現場に入り込むこと”が最重要です。
現場の加工エンジニアや品質担当、購買担当者と一体となり、「どうすれば今の設備・材料・工程範囲内で理想に最も近づけるか」を具体的な数字と体感で掴むことが肝心です。
このとき単なる妥協で終わらせず、現場のアイデアを設計に逆輸入する“ラテラルシンキング(水平思考)”が不可欠です。
“別工程を組み合わせる”、”公差を緩めたが、全体性能は維持できる”、”簡易治具でバリやヒケを抑える”など、従来のタテ割りでは出せなかったソリューションが見えてきます。
デジタル化・自動化こそ現場と設計の融合ポイント
最近は3Dシミュレーションや、DX(デジタルトランスフォーメーション)ツールの進化で、設計と現場のやり取りも変わってきました。
現場で使っている加工機のパラメータを設計段階から取り込み、「この角度、このRだと工具摩耗が激しい」など現実的なフィードバックを早期に可能とする仕組みも増えています。
またAIやIoTを活用した設備稼働データを設計者が閲覧できるようにし、生産ラインや品質部門の知見を設計に“見える化”して取り込むことで、バーチャル工場で“作れる形状”を実現へと近づけます。
サプライヤー目線でバイヤー・設計部門に望む「対話」とは
本音を言い合える関係構築が最強の競争優位
サプライヤーの立場から、設計やバイヤーに対して最も求めるのは「本音を率直に言えて、きちんと聞いてくれる関係」です。
厳しい価格交渉や、無理な納期・仕様を押し付けられると「言われた通り作りますが…」と最低限の応答にとどまり、潜在的な生産リスクや知恵が表に出てきません。
逆に「ここをこの形に直してくれれば、歩留まりが2%上がる」「この溶接では、強度保証ができません」といった本当の現場目線を設計やバイヤーが受け止め、“一緒に生産性や品質を上げていく”カルチャーが築かれると、結果的に両者とも大きなメリットを享受します。
“ものづくりの幸せ三方良し”を目指して
設計が理想形状というチャレンジ精神を持ち続けることは大切です。
しかし、それを現場・調達・サプライヤーが「自分ごと」として感じるためには、日々の小さな“現場対話”の積み重ねしかありません。
サプライヤー目線では「その理想形状を一緒に成し遂げる」ための技術アイデアを惜しまず共有し、バイヤーや設計には「現場に根ざした声」を前向きに返し合うこと。
三者が三方良しの関係となることで、日本のものづくりが目指す“理想と現実の融合”が見えてくるはずです。
まとめ:設計現場×生産現場×バイヤーの三位一体の進化こそ、日本製造業の未来
理想形状を掲げる設計と、制約の中で現実を追う現場。
そしてその間を取り持つバイヤー。
それぞれの立場で“自分の仕事だけ”を全うする旧来のやり方から、“横断的な本音の対話と共創”が決定的な差を生む時代に変わりました。
設計と現場、バイヤーが本音でぶつかり、課題を現場レベルで掘り下げ、ラテラルシンキングで解決すること。
それは一度きりの事故対応ではなく、日々の“現場対話”と“改善サイクル”で進化する新時代のものづくりの礎です。
昭和のアナログ現場に根付く知恵と、令和のデジタル技術を掛け合わせてこそ、本当の理想形状が「できない」から「できる」に変わる瞬間――それが今、私たち製造業現場で最も求められています。
最後に、設計者の冒険心も、現場のプライドも、バイヤーの知恵も、サプライヤーの熱意も、“今この瞬間”にすべてを出し合える現場づくりを目指しましょう。
これからの工場は、「理想」と「現実」の垣根を超えて、世界最高のものづくりを生み出す舞台です。
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