現場から距離を置かれるようになったと感じる瞬間

はじめに ―「現場感覚の希薄化」に潜む危うさ

ものづくりの現場は、時代によって常に変化を求められてきました。

自動化、IT化、グローバル調達、品質保証の高度化。

一見すると効率が上がり、会社としても利益体質になっているように映ります。

しかし、私自身が培ってきた現場経験や管理職の立場から振り返ると、「現場から距離を置かれるようになったと感じる瞬間」が頻繁に現れています。

この記事では製造業に従事している方や、バイヤーやサプライヤーとして現場のリアルな感覚を知りたい方に向けて、現場との距離が開いたときに感じる課題や、今なお根強い昭和的なアナログ文化、そして業界全体が進むべき新たな地平線について、ラテラルシンキングで深掘りします。

現場から距離を置かれる瞬間とは？その具体的なケース

長年工場で現場管理や資材調達を経験してきた私が、現場との距離を感じた瞬間は決して一度や二度ではありません。

ここでは、いくつかの具体的なケースを紹介します。

1. 現場の声が経営層に届かない「情報断絶」

近年、企業規模が大きくなるにつれて、意思決定プロセスが階層化し、現場から出てくる「肌感覚」の声が上に届きにくくなっています。

たとえば、
– 生産現場で起きている小さなトラブル（工具の不具合、設備の微調整ができない等）
– サプライヤーから仕入れた部品の微妙な品質変化
– 作業員の士気や困りごと

こうした現場の”ささやき”は、ミドルマネジメント層を超えると無味乾燥な数字や報告書だけが先行してしまい、経営層の意思決定に活かされにくくなります。

この時、「自分の言葉や実感が空回りしていく」感覚を覚えます。

2. KPIやシステムに支配された「定量管理」の落とし穴

今や多くの工場でERPや生産管理システムが導入されています。

KPI管理が徹底され、数字で現場を管理する体制が一般的になっています。

ですが、現場が本当に目指すべき姿や改善の本質が「数字ありき」で捻じ曲げられることを感じます。

たとえば、納期遅れゼロ・在庫最少化などの目標に追われるうちに、現場からは
– 「本当にこの作業手順、このルールが最適なのか？」
– 「目先の数字と現実が噛み合っていない」
といった異議や疑問が湧いてきます。

しかし、これもまた上に届きづらく、「システムに従うがゆえの現場感の喪失」に繋がるのです。

3. 調達現場と生産現場の立場の分断

多くの企業で調達部門と生産現場は明確に役割が分かれています。

しかし、現場感覚を失った購買担当者が、現実とかみ合わない交渉・選定をしてしまうケースが後を絶ちません。

– 実際に使う側が何に苦慮しているかを体感しないまま条件だけでサプライヤーを選定
– コストダウン重視が生産性ダウンや納期遅延といった逆効果につながる

まさに、「距離を置いた調達」が現場のリアルなニーズとズレを生じさせる温床となるのです。

なぜ現場との距離が生まれるのか ― アナログ体質とデジタル改革の壁

なぜ現場と管理部門、あるいは調達・経営層の間に距離が生まれてしまうのでしょうか。

背景として、根強い昭和的なアナログ文化と、急速なデジタル化の波、そのギャップが挙げられます。

1. 昭和の現場「職人文化」の功罪

日本の製造業といえば、熟練者による手作業や、現場の阿吽の呼吸が大切にされてきました。

この「属人的な判断力」は大きな強みですが、暗黙知の共有にとどまり、組織全体には伝わりにくい構造です。

平成以降、職人が減り世代交代が進んでも、
– 「現場を歩けば分かる」
– 「見て覚えろ」
という文化が根強く、形式知化やシステム化が遅れました。

そのため、数字やITによる管理が一気に導入されても、現場感覚が追いつかずに距離が開くのです。

2. デジタル偏重による「現場軽視」

一方で、業界の効率化や働き方改革が叫ばれる中、現場が持つ肌感覚や経験値が軽視されがちです。

– IoTデータやAI解析に頼り切り、現場的な違和感を無視する
– データシステム導入で従来の業務が「ブラックボックス化」する

これらにより、誤った課題抽出や、現場の思いと上層部の認識が大きくズレるリスクが高まっています。

現場感覚を失わないために ― バイヤー・サプライヤーの視点で考える

このような現場感覚の希薄化に対し、メーカーの調達バイヤーやサプライヤーはどう対処し、何を意識すべきなのでしょうか。

1. バイヤーが持つべき「現場感のアップデート」

調達購買担当者は「最適コストを実現する」ためだけに存在していません。

良い現場感を身に着けたバイヤーは、現場作業者や品質管理者と積極的に意見交換し
– 費用対効果以外の現場ニーズ
– 実運用上の困りごとやボトルネック
– サプライヤー反応や支援体制
ヘ踏み込んだ対話を重ねます。

その結果として、数字だけでは見えない
– 信頼できるサプライヤーの確保
– 生産性向上や納期短縮の「仕組み化」
– 品質トラブルの未然防止
が達成されるのです。

2. サプライヤー側が理解すべきバイヤーの葛藤

一方でサプライヤーも「なぜこのバイヤーはここまで細かい点を気にするのか？」と疑問を持つことがあるかもしれません。

実際、調達バイヤーは
– 現場の困りごと（部品品質、納期調整）
– 経営層からのコストダウン要求
– 各部署からの納期や検査、規格遵守といった多重要求
に板挟みになりがちです。

サプライヤー側も、打ち合わせ時には「相手の立場」で物事を一歩踏み込んで想像し、単なる条件交渉でなく
– 一緒に現場に入り“共感”する
– 今後の工程改善提案をする
など、能動的な歩み寄りが必要です。

3. 「現場主導」のものづくりへ転換するには？

現場と管理部門に距離が生じる根源には、組織が「現場主導」から「管理主導」へ徐々に移行してしまったことがあります。

今後は、現場リーダーや熟練者の知見を積極的にデータ化・見える化し
– 現場情報を経営戦略に直結させる
– 部署横断で現場改善ワークショップを開催
– サプライヤーも巻き込み、三位一体で改善を行う

といった「現場主導型イノベーション」が鍵となります。

昭和からの脱却、ラテラルな発想で未来を切り開く

現場と管理の距離は、今に始まった話ではありません。

しかし、今こそ新たな視点で物事を捉え直すことが重要です。

1. アナログとデジタルの「いいとこ取り」を目指す

現場経験で培った直感やノウハウを大切にしつつ、それをITや最新技術で見える化・標準化する。

例えば、
– 作業者の「感覚的な違和感」をAI予知保全やBIツールの「教師データ」に活かす
– 現場トークをリアルタイムで共有し、経営層や他拠点と情報をつなげる
– 調達購買交渉をデジタルツールで効率化しながらも、現認現場で確認する「アナログ瞬時判断」を外さない

など、両者の強みを統合した新しい現場運営モデルが求められます。

2. 「異分野融合」で新たな付加価値を生む

購買やサプライヤーとの連携においても、他業界の視点や発想を取り入れることで
– 物流業界の効率化ノウハウ
– ITベンチャーのスピード感ある意思決定
– サービス業の顧客満足向上メソッド
など、“ものづくり外”の知恵と現場がコラボする時代です。

こうしたラテラルな発想で、従来の延長線では見えなかった「新しい現場価値」を創造していく視点が今、問われています。

まとめ ―「現場から距離を置くな」が、競争力の源泉となる

現場から距離を置かれるようになったと感じる背景には、業界全体の変化やIT化、働き方改革の副作用が少なからず影響しています。

しかし、ものづくりの現場力が日本を支えてきた事実を忘れてはいけません。

購買も、サプライヤーも、経営層も、「現場とともに現場から学ぶ姿勢」を失わない。

それこそが今後の製造業における競争力の核となります。

現場感覚を活かすための新しい働き方やIT導入、異分野融合の知恵を武器に、「現場から生まれる価値」を最大化していきましょう。

その積み重ねの先に、「昭和から脱却した新しい現場イノベーション」がきっと開けてくると、私は信じています。