投稿日:2025年10月12日

アイスクリームの空気含有率を保つホイップ回転数と粘度調整

はじめに:アイスクリーム品質を左右する「空気含有率」の正体

アイスクリームは、ただ冷やして固めるだけの食品ではありません。

なめらかな食感や口溶けの良さ、見た目のボリューム感など、消費者に「おいしい」と感じてもらうためには、さまざまな工夫がなされています。

その中でも製造現場のキーパーソンが特に重視するのが「空気含有率(オーバーラン)」です。

この数値次第で、アイスクリームの品質、コスト、さらにはブランドイメージまでもが左右されます。

特に昭和の高度成長期から続く日本のアイスクリーム産業では、未だにアナログな製造工程や熟練者の勘が幅を利かせる現場が少なくありません。

しかし、生産性や安定品質を求める現代の市場では「データに基づいた工程管理」が不可欠です。

本記事では、アイスクリームの空気含有率を適切に管理するホイップ回転数の決定方法や粘度調整の実践ノウハウを、実際の現場目線も織り交ぜて詳しく解説します。

アイスクリームの「空気含有率(オーバーラン)」とは何か

空気含有率の定義と品質への影響

アイスクリーム製造における「空気含有率(オーバーラン)」とは、混合したミックス(ベース液体)にどれくらいの空気が物理的に取り込まれたかを示す比率を指します。

例えば、1Lのミックスに1Lの空気が取り込まれると、出来上がりのアイスは合計2Lとなり、空気含有率は100%です。

この数値が高すぎれば食感がスカスカで満足感が落ち、低すぎると硬く重たい仕上がりになってしまいます。

つまり、目指す商品コンセプトや市場価格帯に応じて最適な含有率が存在します。

高級アイスなら20%前後、一般のファミリー向けや業務用なら60~100%が目安です。

アイス製造ラインにおける「ホイップ工程」の役割

空気の込み具合をコントロールするカギとなるのが「ホイップ工程」です。

この工程では回転するウィスク(羽根)でベース液に空気を緻密に練り込みます。

この回転数や条件次第で最終製品の品質が大きく左右されるため、購入設備のスペック確認や現場作業員のスキル、日々の細かな調整が非常に重要になります。

現場が直面する課題:アナログからの転換と品質変動リスク

昭和の「熟練工の勘」では通用しない時代背景

これまで多くの製造現場では、熟練工の経験値や目視による「仕込み具合の見極め」が重視されてきました。

しかし原材料価格やサプライチェーン事情が激変する現代では、属人的な作業だけでは安定した品質維持が難しくなっています。

実際に、アナログ運用が色濃く残る製造現場では「日によってアイスが硬すぎる」「ロットごとに食感が違う」といったクレームにつながりやすい傾向があります。

調達原料のバラつきと粘度変動

また、現場でよくある課題が「原料ロットによる粘度のバラつき」です。

同じ牛乳やクリーム、乳化剤を使っても気温やロットによってベース液の粘度は一定しません。

粘度が低すぎれば空気が多く入りすぎてしまい、高すぎれば逆に練り込みが不十分になるため、毎日の調整とモニタリングが求められます。

ここを怠ると、日々製品の仕上がりが異なり市場での信頼喪失を招きかねません。

最適なホイップ回転数の見つけ方

ホイップ回転数と空気含有率のロジック

空気を練り込むホイップ回転数は「速すぎると泡が粗く崩れやすくなり、遅すぎると空気が十分に入らない」というジレンマを持ちます。

そのため、食品工場では下記の多角的アプローチで最適値を探ります。

  • 試験的に回転数を10~20回/分刻みで変え、出来上がりの空気含有率(目標60%なら1.6倍の増加)を計測
  • 同じ条件での複数ロット仕込みによるバラつき検証
  • 現場作業員の動線や設備の損耗進行度も加味(古い設備では摩耗により攪拌効果が低下している場合あり)

また大量生産ラインでは温度や流量、機械圧力などのパラメータを自動制御とすることで、ヒューマンエラーのリスクも低減できます。

一括生産と小ロット生産での違い

生産ロットごとにホイップの回転条件が変わる理由の一つに、「一括生産か小ロット生産か」という製造形態の違いがあります。

一括大量生産では、回転数や流量などを初期設定してラインを安定稼働させ、データロガーで実績値を管理。

一方で小ロット多品種生産が求められる場合は、都度の微調整と緻密な記録管理が欠かせません。

この運用力こそ、現代の競争優位となり得るのです。

粘度調整の実践テクニック

粘度管理の重要性と測定方法

ベース液の粘度は、ホイップ工程における空気の練り込みやすさを大きく左右します。

適切な粘度管理なしにホイップ条件だけを調整しても、狙った空気含有率は得られません。

現場の多くでは「粘度カップ」や「スプレッドテスター」など簡易検査機を用いつつ、目標粘度(水の場合は1mPa・s、アイスクリームミックスなら200~600mPa・s前後)を常にモニタリングします。

粘度調整のポイントと失敗事例

たとえば、粘度が安定しない要因としては、

  • 原乳やクリームの温度が適正でない(工程内冷温管理の不備)
  • 加熱殺菌時の温度ムラ、時間管理の不足
  • 乳化剤や安定剤の配合・溶解不足

などがあります。

実際の失敗事例として「加熱殺菌後のシャットダウン時に原材料が沈殿し、再スタート時に粘度不足となり、アイスがベトついた仕上がりになった」といったものが挙げられます。

このような事態を防ぐには、「加熱・冷却・攪拌」の各段階でのチェックリスト化、記録保存、作業オペレーター間の情報連携が欠かせません。

サプライヤー・バイヤーから見たホイップ回転・粘度管理の意味

バイヤー視点:品質要求・コスト圧縮の狭間

アイスクリームの購買部門(バイヤー)は、消費者に受け入れられる品質基準をいかに安定再現できるかを重視します。

特にPB(プライベートブランド)商品や大手チェーン納入品では、機械的な空気含有率・粘度データの提出が求められることも増えています。

調達先を選ぶ際は「現場での工程データの見える化」を強く意識し、トレーサビリティ管理や要望対応力を評価材料にする流れがあります。

サプライヤー視点:歩留率と付加価値のバランス

サプライヤーから見れば、空気含有率を高めてアイスを「かさ増し」できれば一定の歩留率向上=コストダウンに繋がります。

しかし、やり過ぎれば品質低下から取引停止もあり得るため、「顧客毎に求められる空気含有率・粘度レベルを正確に再現できること」が取引維持の大前提です。

ここに自社での工程データ管理や自動制御技術、日々の微調整スキルが生きてくるのです。

アナログ現場から脱却するための変革アプローチ

IoT/AI技術を使ったオーバーラン自動管理の最新動向

近年ではIoTセンターやAI制御によって、攪拌回転数や投入空気量、ミックス粘度をリアルタイムで監視・最適制御するシステム導入も進んでいます。

たとえば、「ホイップ工程の出口流量と粘度をセンサー管理し、目標空気含有率に近づけるよう自動で回転数をフィードバック制御」といった仕組みです。

これにより、長年の「勘と経験」から脱却し、パート作業者でも安定作業が可能になりました。

現場変革の第一歩として、デジタル機器と目視検査の併用による「データ蓄積→改善」のPDCA(計画・実行・評価・改善)運用を推奨します。

教育・マニュアル整備の徹底で人依存リスクを下げる

IoT化だけが万能解ではありません。

現場の作業者が「なぜ回転数や粘度を管理するのか」「どうすればバラつきが抑えられるのか」という理論と実践を学び、誰でも安定再現ができる仕組みづくりも極めて重要です。

このために

  • 分かりやすいマニュアル化と定期教育(動画マニュアルも有効)
  • 工程ごとのチェックリスト活用
  • 異常発生時のヒヤリハット事例共有

が求められます。

まとめ:製造現場こそ、新たな付加価値創造の主戦場

アイスクリームに限らず、食品分野の現場工程は「アナログな勘」から「デジタル&理論的管理」への大転換期を迎えています。

特にホイップ回転数や粘度管理は、品質・生産性・納入信頼の三本柱となる重要テーマです。

購買バイヤーもサプライヤーも、現場での迅速なデータ把握・調整能力が今後の競争のカギになります。

これからの製造業は、「工程を見せられる現場」こそが最高の武器となるでしょう。

今ここから、昭和のアナログから一歩前進し、アイスクリームの価値を「見える化」で高める現場づくりにぜひチャレンジしてみてください。

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