投稿日:2025年10月22日

アイスクリームの空気含有率を調整するホイップと急速冷凍制御

はじめに:アイスクリーム製造における空気含有率の重要性

アイスクリームは、私たちの日常に溶け込んだ身近なスイーツですが、そのおいしさの秘密は製造プロセスにしっかりと隠されています。
中でも大きなポイントを占めるのが、「空気含有率(オーバーラン)」です。
この空気含有率を最適に保つことで、なめらかな舌触り、適度な口どけ感、そしてコスト効率の高い製造が実現します。
今回は、ホイップ工程と急速冷凍制御にフォーカスし、現場目線で実践的なノウハウや、アナログから抜け出せていない製造現場でも使える工夫を交えながら、最新動向を解説します。

アイスクリームの空気含有率(オーバーラン)とは何か

空気含有率とは、アイスクリームの原料となるミックスにどれくらいの空気が含まれているかを示す指標です。
一般的に「オーバーラン=加えた空気量÷原料の体積×100(%)」で表され、例えばオーバーランが100%であれば、ミックス1リットルが最終的に2リットルのアイスクリームになります。
高すぎればスカスカで安っぽい食感に、低すぎれば重く硬い食感になり、適正ゾーンをキープすることが高品質製品には不可欠です。

この空気含有率のコントロールには、ホイップ工程と冷凍工程が密接に関わっています。
製造現場では「混ぜ方ひとつで全てが決まる」とさえ言われているほど、繊細なプロセスなのです。

ホイップ工程のメカニズムと現場での工夫

ホイップ装置の基本構造と働き

ホイップ(エアレーション)工程は、アイスクリームの命とも言えるプロセスです。
ここでは専用のホイップマシンやコンティニュアスフリーザーが用いられ、原材料のミックスに均一なサイズの気泡を大量に含ませていきます。
ホイップ装置内部は回転羽根や攪拌軸を持ち、高速回転でミックス中に細かな気泡を作り込む構造になっています。

このときのポイントは、空気を「どのタイミングで、どれくらいの圧力で、どれだけ微細に」入れるかという三点です。
これにより最終的なオーバーランが精密に調整できるのです。

現場目線のノウハウ:温度管理・回転数・原材料の違い

現場で私たちがよくおこなう基本的な調整事項は、以下の三つです。

1. ミックス温度
冷たいと気泡がうまく出来ません。
逆に温度が高過ぎると脂肪分が分離しやすくなります。
目安としては3~5℃に維持することが重要です。

2. 羽根(アジテーター)の回転数・時間
回転数が速いほど気泡は細かくなり、安定した食感になります。
ただし、あまりに速すぎると部分的にミックスの温度が上がり、「過攪拌」でテクスチャーが崩れます。

3. 原材料バランス
乳脂肪分や安定剤の組み合わせ次第で気泡の付き方は大きく変わります。
特に脱脂粉乳や卵黄などの乳化剤の調合は、現場の経験がモノを言う部分です。

昭和から続くアナログ現場では、オーバーラン調整の勘や経験値が重宝される一方、近年はセンサリングやデータロギングで「勘と数値化」の融合が進んでおり、より安定した品質管理が求められています。

急速冷凍制御による品質コントロール

なぜ急速冷凍が必要なのか

オーバーランを狙った通りに実現した後、それを崩さずに商品として完成させるには「急速冷凍」が不可欠です。
急速に凍結することで、ミックス中の気泡構造が壊れず、氷結晶が細かく均質に保たれます。
これがなめらかな口溶けと、さっぱりした後味を生むのです。

逆に言えば、製造ラインで冷凍に時間がかかると、気泡が消失したり、氷結晶が成長しザラついた食感に繋がるため、ライン設計段階で「急速冷凍スペックの機械」を選ぶことは、品質保証の根幹になります。

冷凍機の選定と現場カイゼンのポイント

冷凍機の種類は大きく分けて「バッチ式」と「コンティニュアス式」に大別されます。
大量生産現場ではコンティニュアス式が主流ですが、少量多品種やプレミアム路線ではバッチ式の活用も増えています。

現場でのカイゼン事例としてよくみられるのは、

– 冷凍槽温度の微調整(-35℃から-45℃程度まで幅を持たせる)
– 冷凍ラインにサーモグラフや赤外線センサーを配置、製品中心温度のリアルタイム監視
– 長時間運転時の熱ダレ・冷凍効率低下を防ぐため、冷却水ラインの流量管理やフィルター清掃のルーティン徹底

などです。

IoTやAIの導入によって、「ラインごとの冷却効率」「バッチごとのセンターコア温度」などを数値化可能になった工場では、製造履歴による不良解析や、突発的な温度上昇時のトレーサビリティも飛躍的に高まりました。

生産量・コストと品質管理のバランス

現場だから分かる、バイヤーとサプライヤーのせめぎ合い

製造業現場の面白いところは「コストと品質」の微妙な駆け引きです。
バイヤー(購買担当)は「製品グレードは維持したまま、できる限りコストダウン」を求めます。
サプライヤー(製造現場)は「無理なオーバーラン増加や冷凍の短縮で品質が崩れる」ことのリスクを懸念します。

現場でバイヤー視点を理解するには、
– なぜこのスペックでコストダウンしたいのか
– 量産化に向いている技術なのか
– 安全性・安定性に支障はないか

などの背景をしっかりヒアリングするべきです。

一方サプライヤー目線では、「どうすれば現場に負担をかけず品質とコストの両立が図れるか」を日々模索し、材料メーカーや装置メーカーとも連携した「工程全体の見直し」や「標準作業書の見直し」など、地味なカイゼン活動が何より重要です。

AI・DXが変えるアイスクリーム製造の未来

DX(デジタルトランスフォーメーション)が進みつつある現代では、空気含有率や温度・粘度などのパラメータがリアルタイムで一括管理できる時代が到来しています。
従来は「ベテラン職人のカンとコツ」で頼っていたホイップ調整・冷却管理も、今後はAIによる自動制御、異常時の即時フィードバック、予防保守などで一段上の安定生産が可能になるでしょう。

現場力とデジタル技術の融合こそが、品質・コスト面での新たな競争力につながります。

まとめ:空気含有率は製造現場の知恵の結晶

アイスクリームの空気含有率は、見た目やコストだけでなく、品質や食感などあらゆる側面を左右する極めて重要な指標です。

アナログ中心の製造現場であっても、美味しさを守りつつ効率化するためには、ホイップ工程の微細な管理や、急速冷凍による気泡保持といった日々の現場力が求められます。
加えて、最新技術やAIの活用で、従来の人頼みからデータ・数値管理への移行が進んでいます。

バイヤーを目指す方は現場感覚や工程全体への理解を、サプライヤーの立場であればバイヤーの真意や市場動向へのアンテナを高く持つことが大切です。

昭和から令和へ、デジタルとアナログの知恵を融合させて、より美味しい・高品質なアイスクリームを生み出す現場の挑戦はこれからも続いていきます。

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