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予兆保全モデルを誰が直すのか決まっていない問題

目次
はじめに:予兆保全の現場で今起きていること
製造現場は今、大きな変革期にあります。IoTやAI、センサー技術の進歩により「予兆保全」という新たな保全アプローチが現実味を帯びてきました。
「壊れてから直す」から「壊れる前に気づく」へ。
しかし、多くの現場で予兆保全の成果を実感できていないという声をよく耳にします。その理由の一つが「予兆を検知した後、誰が対応するのか決まっていない」という構造的な問題です。
この課題は、単なるヒューマンエラーでもDXの失敗でもなく、底流に業界特有のアナログ性や分業体制、組織間の壁など、複雑な要素が絡み合っています。本記事では、製造現場20年以上の経験から、その本質と現場目線での解決のヒントを提示します。
予兆保全とはなにか?いまさら聞けない基礎知識
従来型保全と予兆保全の違い
これまでの設備保全は「定期保全(時間やサイクルで点検・交換)」「事後保全(故障してから対応)」が主流でした。
一方、予兆保全はセンサーやデータ解析を活用し、「異常の兆候(予兆)」をリアルタイムに捉えて、計画的に対応するのが特徴です。保全コスト削減や生産ロスの最小化、現場スタッフの負担軽減など大きな期待が寄せられています。
導入事例と理想のイメージ
たとえば、振動センサーでモーターの微小な振動異常をとらえて早期発見し、稼働停止を防ぐといった事例がよく紹介されます。AIが「あと◯日で故障リスク」といった通知を発し、現場はその情報に依拠しながら「止まる前」に計画保全を行う、これが理想的な予兆保全部門の姿です。
現場はなぜ「予兆」を活かしきれないのか?
1. 予兆発見後の「責任の空白地帯」
IT部門、現場班、メンテナンス部門、外部サプライヤー――。それぞれが点では動いているものの、「予兆を発した後に誰が実際に手を動かすのか」という合意形成が出来ていない現場が数多くあります。
「AIが警告を出しました!」「で、誰が現物を見て判断するんだ?」
「現場は忙しい、IT部門は現場を知らない、メンテ担当は別業務中…」
結果、予兆が放置され、従来通り壊れてから慌てて対応…という”昭和なパターン”に逆戻りするのです。
2. サイロ化した組織風土と職域意識
長年の縦割り組織と分業体制は製造業の効率化に寄与してきました。しかし、デジタルツールやAIの警告を活かすには、複数部門がシームレスに連携する必要があります。ところが「これは現場じゃない」「ITの責任」「外注すべき」など職域の壁が予兆対応を阻む大きな要因になっています。
3. デジタル・アナログ“融合の壁”
昭和時代から続く紙ベースの作業日報、口頭連絡、現場の「経験と勘」。これらがいまだに根強く残っており、いくら先進的なセンサーで予兆を上げても、現場での「なるほど、これは対応要だ」といった合意が取れない。つまり、デジタルの「予兆」とアナログな「現場判断」の間に大きなミスマッチが横たわっています。
予兆後の「誰が直すのか」を決める重要性
責任明確化とリアクションスピードの両立
予兆保全の本質は、単なる警告の仕組み作りではなく、「警告をトリガーにして、現場を実際に動かすこと」にあります。つまり、予兆システムを本当の意味で“仕組み”として成立させるためには、「予兆発生時の一次対応、二次対応、最終判断」を、実名で業務フロー化するステップが不可欠です。
現場目線で見る「理想の対応フロー」
– センサーやAIが「異常」を検知。
– 異常を通知するダッシュボードやアプリで「誰が一次確認担当か」自動割当。
– 担当者は現物を確認し、必要ならメンテ部門や上長へ即連絡。
– その後、修理・交換などを計画し、記録として管理。
このように、「誰がどの段階で何をするか」を事前にロール(役割設計)しておくことが、予兆保全定着の鍵となります。
サプライヤーやバイヤーの立ち位置から見る「予兆保全」の課題
バイヤー視点:現場課題のヒアリング力
予兆保全の新システム・サービスを導入したいと考えるバイヤーにとって、「誰が現場責任を持つか」をヒアリングすることは非常に重要です。現場を知らずに「お客様が運用していただければ…」と押しつけるだけでは、いくら高機能なサービスも“宝の持ち腐れ”になってしまいます。
「導入して終わり」ではなく、現場保全部門、製造部門、IT部門を巻き込んで、「誰が予兆対応フローに責任を持つのか?」という運用面のヒアリング設計がバイヤーの腕の見せどころです。
サプライヤー視点:現場ニーズへの寄り添い
サプライヤーとしも、「警報通知」「AI分析」などシステムの“機能訴求”に注力しがちですが、実際に現場で運用できる“組織横断の役割設計”や「現場での一次判断支援ツールの提案」など、運用定着までをサポートする姿勢が求められています。
「通知を誰が受け取るのか?」「現場に合った一次対応マニュアルを作れているか?」という点まで踏み込んだ提案が、選ばれる要素となっています。
ベテラン現場責任者が見る「昭和の壁」と未来への処方箋
なぜ「昭和的アナログ思考」は根強い?
製造業の多くの現場に今なお残るのは「経験と勘」の文化です。これは、過去の無数のトラブルを先輩が独自ノウハウで乗り越えてきたという強烈な成功体験の裏返しです。結果、AIやセンサーからの警告も「本当にそうなのか?」「うちの設備は昔から多少音が出ても大丈夫」と、現場で埋もれてしまうのです。
昭和と令和を“つなぐ”現場リーダーの役割
では、どうすれば予兆保全を真に機能させられるのでしょうか。
– アナログなノウハウを形式知化し、「センサー警告 × 現場の目」の両輪で判断する文化醸成
– システム通知と同時に「一次対応担当者」を明示する運用ルール化
– トライ&エラーを許容し、小さな成功体験を現場で積み重ねるリーダーシップ
このような“橋渡し役”となれる現場責任者、係長クラスの啓発こそ、昭和の現場を変えるカギとなります。
新たな地平線:予兆保全が現場に根付くためには?
現場から発信する「役割設定」と「納得の仕組み」
今後、現場発信のリーダーシップが問われるのは確実です。現場班、保全部門、IT担当、サプライヤーが「予兆が出たら誰が動くか」を自分たちで設計し、それを会社文化に根付かせることが予兆保全の未来です。
ベテランの知恵とAI分析の融合、責任の明示化と情報共有…これらを組み合わせて「予兆が見つかったけど、結局放置」という“責任の空白地帯”を埋めることが、企業と工場の競争力を大きく引き上げていきます。
まとめ:予兆保全の新しい運用を自社の強みに
予兆保全の真価は、現場の生産を止めないこと以上に、組織全体の危機感と対応力を高めることにあります。
– 「誰が直すか決まっていない」という課題の本質を理解する
– 現場、IT、経営、外部まで巻き込んだ役割設計と合意形成
– 現場リーダーによる“仕組みの浸透”と“昭和からの変革”
この記事が、製造業で働く皆様が「予兆保全の次なる一手」に踏み出すきっかけになれば幸いです。そして、バイヤーやサプライヤーの皆様も「ソリューションをどう根付かせるか?」という視点から、現場へ新しい価値提案を生み出していきましょう。
製造業は、今まさに新たな地平線に向かっています。現場で汗をかく皆様とともに、未来を切り拓いてまいりましょう。