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BCP対策が単年度施策で終わる理由

目次
はじめに:BCP対策はなぜ「形骸化」してしまうのか
企業の存続と成長を支えるために必要不可欠なBCP(事業継続計画、Business Continuity Plan)は、国内外問わず、あらゆる業種で取り組みが求められています。
特に製造業では、自然災害やサプライチェーン寸断、ITトラブル、品質問題など、さまざまなリスクが日々潜んでいます。
しかし現実には、多くの現場担当者や管理職が「今年もBCPチェックリストを書類で提出して終わり」「やったことにするのが目的」となり、本質的な対策や継続的な改善活動に結びつかないまま単年度施策で終わっているケースが少なくありません。
この記事では、なぜBCP対策が形だけの活動で終わってしまうのか。その背景と製造業特有の事情、さらにこれからの時代に求められる実質的なBCP運用について、長年の現場経験と業界の動向を交えながら深く掘り下げて解説します。
BCP対策とは――製造業の「命綱」だが……
BCPがもたらす「本来の意義」
BCPの目的は、有事(地震・台風・火災・感染症…)においても企業活動を最小限の損失で継続し、取引先や顧客、従業員の生命・安全を守ることにあります。
稼働停止や供給停止が多額の損失を生む製造業にとって、BCP対策は経営持続の根幹であり、社会的責任を果たすための「命綱」でもあります。
「BCP対策してますか?」の問いに耳慣れた現場
しかし、現場や本社の調達・購買、工場長クラスの方と話をしてみると、「BCP対応しています」と答えるところが多い半面、「実際どういう点を強化しましたか?」と聞くと、「年に一度、社内でマニュアルを再配布しています」「全サプライヤーからBCPに関するアンケートをとっています」など、書類上の運用がメインとなっていることが目立ちます。
なぜ単年度施策で終わるのか?業界特有の「昭和型」体質
「書類提出=実施したこと」になるアナログ文化の根深さ
昭和から続く製造業の多くは、品質記録や生産工程、さらにはサプライヤー対応まで、「記録を残すこと」自体が手段化しやすい土壌があります。
「とりあえず年度末までに必要なチェックリストと計画書を提出する」というルールに乗っ取った”やった感”だけが残るのです。
実際、BCPに関する外部審査や監査も、提出書類をチェックすることで「はい◯」と判断されることも多く、実効性までは問われづらい現状があります。
現場の多忙と「コストだけが増える」構造的課題
生産現場は、日々変動する顧客要望・納期・品質トラブル対応などに追われ、BCPのように“非常時対策”はどうしても後回しになりがちです。
「今月の生産をどうするか」「今期予算でコスト削減しないと」と目の前の数字を優先せざるを得ず、「BCPにリソースを割け」と言われても、実際は人も時間も捻出が難しいという本音も。
さらに、BCPを本格的にやろうとすると「対策コストだけが増える」「成果が見えづらい」ため、上層部も現場も「やらなくて問題にならなければ今年はこのままで」となってしまう。単年度で形式的ログだけ取っておしまいになる温床です。
サプライヤーにも浸透しない“片側からのBCP”
バイヤー(発注側)が「BCPアンケートに〇をつけて」「マニュアル類を作成して」と要請しても、サプライヤー側は「言われたから作って提出だけ…」となり、本質的な活動や協働体制の構築には至りません。
「どうしてそんな無駄な紙をまた書くんだろう」「実際災害や事故が起きたら何もできない」そんな現場の声は、ことさらに昭和・平成のアナログ業界ほど強く残っています。
「単年度BCP」のままで生じるリスクと限界
実際の有事シナリオでは「絵に描いた餅」
BCPマニュアルやBCPチェックリストを用意しても、訓練や定期的な見直し、現場との意識共有がなければ、いざ有事に機能しません。
停電やサプライチェーン寸断、原材料供給停止など、リアルなトラブルシナリオで「実際どう人や設備、物資を動かすのか」、現場に落とし込んだ仕組みがなければ、せっかくのBCP策定も物置きの肥やしになってしまいます。
顧客や取引先からの信頼低下、サプライチェーン全体への影響
製造ラインの止まりや供給遅延は、取引先全体を巻き込む重大な信用問題に直結します。
「BCP対策できてます」と言いながら、いざという時に復旧できなかった、顧客から「BCPの実行体制が甘い」と評価されると、取引停止・案件喪失・サプライヤー切り替えのリスクも高まります。
特にグローバル案件や自動車・精密機器などの産業では、サプライチェーンの一員として、BCPの実効性が評価そのものになる時代が到来しています。
「形骸化BCP」から脱却するための現場DX・新しい一歩
1. リアルなリスクシナリオに基づく「現場主導」のワークショップ
まず大切なのは、現場・調達・管理部門など部門を横断したメンバーによるリスクシナリオの洗い出しです。
「もし、主要仕入先が被災して2か月材料納入不可になったら」「地域一帯で停電して工場が稼働停止したら」など、リアルケースを討議。
実際の動線や連絡手段の確認、作業レベルでの役割分担までを現場で考え、「自分ごと」として捉えるワークショップスタイルが有効です。
2. サプライヤーとの「共創」と情報連携強化
バイヤー(発注側)だけが一方的にBCPマニュアル作成やアンケート提出を求めるのではなく、サプライヤーを巻き込み、相互にリスク感度を高め合うミーティングや情報共有会の実施を推奨します。
「どのタイミングでどんな情報を共有し合うのが有効か」「有事の際の救援や再開体制の応援体制はどう組むか」まで具体策を協議。
本質的なBCPは「個社の努力」で実現するものではなく、サプライチェーン全体の横断的な協力があってこそ現実的に効果を発揮します。
3. DX活用で「アナログ業界」にリアルタイムな可視化を
老舗メーカーや下請け町工場など、デジタル化が遅れがちな業界だからこそ、DXツールによる在庫・生産・納入状況のリアルタイム見える化が今後の差別化ポイントになります。
クラウド型のサプライチェーン管理システムや、チャットツールによる異常時即時連絡、業務継続マニュアルの動画化・スマホ共有など、アナログ世代でも使いこなせるICT活用を進めましょう。
現場での導入・運用までを伴走する仕組みを設計することで、「紙だけBCP」から脱却できます。
4. 評価制度やKPIにBCP活動を“見える化”して定着を
予算や人事評価の指標に、「BCP体制の現場定着」「年間訓練やBCP改善活動の実施率」など活動量を明確に紐付けましょう。
「やったか・やらなかったか」だけでなく、「どれだけ現場力を高め、訓練結果を活かしてアップデートできたか」までを、客観的な指標で評価することが、継続的な改善サイクルと人材育成につながります。
まとめ:BCP対策は「毎年バージョンアップ」してこそ意味がある
BCPは「作って満足」「書類で終わり」の単年度施策で形骸化しがちですが、そこに潜むリスクは看過できません。
従来のアナログ体質、業務多忙による優先順位の低下、見栄え重視の書類仕事から脱却し、現場目線で「リアルな危機発生時に動ける組織力」へとアップデートしていく必要があります。
製造業に携わる全ての方、バイヤー、サプライヤーにとって「このBCP対策は自分たちの企業価値を未来につなぐ投資だ」と再認識し、「毎年バージョンアップ」する柔軟さと現場発の推進力こそ、これからの時代に求められています。
形式だけで終わるBCPから、次のステージへ。
一歩ずつ、現場の知恵と工夫で、真の事業継続力を創り上げましょう。