投稿日:2025年10月1日

Yesマンでいることがサステナビリティを阻む理由

はじめに:製造業のサステナビリティと「Yesマン」問題

サステナビリティという言葉が日本の製造業でも広く浸透しつつあります。

脱炭素、DX(デジタルトランスフォーメーション)、スマートファクトリーなど、かつては遠い話と思われていた動きが、いまや現場の必須テーマとなりました。

その一方で、現場には依然として「Yesマン」が重宝される文化が色濃く残っています。

上司や発注先、得意先の意見にただ従い、自らの意見や疑問、疑念を押し殺すことが、なぜ今もなお評価されるのでしょうか。

本記事では、長年の現場経験をもとに、この「Yesマン」的態度がいかにサステナビリティを阻害し、ひいては組織の未来を危うくするかを掘り下げます。

変化の激しい時代において、製造業として持続可能な成長を図るために必要な「断る力」や「問いかけの視点」も併せて考えます。

なぜ未だに日本の製造現場では「Yesマン」が評価されるのか

昭和から残る商習慣と年功序列

製造業の多くは、戦後の急成長期から続く「とにかくスピード重視」の現場精神や、分業・指示通りに動くことを是とする価値観に根ざしています。

年功序列や終身雇用といった昭和型の労務慣行が、現代にも強く残っていることが、その源泉です。

特に品質管理、生産管理、調達購買といった部署は、上流部門からの指示通りに「計画を遅延なく消化する」ことが美徳とされがちです。

そのため「提案型」の社員よりも、「閲覧」「承認」「合意」ばかりの事なかれ主義や、未だに「長いものに巻かれろ」的な文化がはびこりやすい土壌が存在します。

失敗を極度に恐れる文化

もう一つ、「Yesマン」が生まれる背景には、製造業特有の失敗排除の思想があります。

たとえば一度の不良品発生や納期遅延が、サプライチェーン全体に大きな損害を与えることにも繋がるため、「問題提起」や「異議申し立て」は過度にリスクとして捉えられがちです。

結果として、リスク回避のために発言を控え、黙って従うことが無難とされるのです。

これは短期的には不良や炎上のリスク回避に役立ちますが、長期的に見ると、変化への対応力を著しく低下させます。

「Yesマン」がサステナビリティを阻む具体的理由

課題の本質解決が遅れる

本来、サステナビリティとは「現状維持」ではなく「持続可能な変革」そのものです。

システム更新、省エネ設備、再生可能エネルギー導入、購買先の最適化など、全ては「今までのやり方に疑問をつけ、もっと良い方法を模索し続ける」マインドの上に成り立ちます。

ところが、組織に「Yesマン」が蔓延していると、表面的な問題しか表出せず、本質的な改革案が現場から出てきません。

「前例がないから」「上司が言うから」で済ませてしまう。

これでは、現場でしか気付けない細かな無駄や非効率、環境負荷の削減アイデアなど、真の改善が進みづらくなります。

バイヤー・サプライヤー間の閉塞感

とりわけ調達購買部門の現場では、「安く、早く、確実に」といった数値目標に圧倒されがちです。

サプライヤーとの交渉においても、相手の提案や現場の声に耳を貸さず、「本部の指示だから」で全てを推し進めることで、信頼関係の構築や、Win-Winな関係を築くチャンスを逃してしまいます。

一方でサプライヤー側も、「お客様に逆らわない」の一点張りでは、時代の変化に応じた提案型営業や共同開発への道が遠のきます。

閉塞的なバイヤー-サプライヤー関係は、新技術の導入やパートナーシップによるサステナビリティ推進を大きく阻害します。

現場知のブラックボックス化

工場や現場には、その現場だけが知っている「暗黙知」が数多く蓄積されています。

この知見が組織全体で活かされるには、現場の声がストレートに経営層や設計部門へ届く土壌が不可欠です。

しかし、Yesマン化した現場では、優れた改善アイデアや本質的課題が埋もれ、そのままブラックボックス化します。

これが、サステナブルな変革を進めるうえでの最大のボトルネックです。

海外事例に学ぶ「No」を言う勇気

ドイツ式現場風土:議論と合意形成

ドイツのものづくり現場では、年齢や職位に関係なく「納得できない点は対等に議論し、共に考える」文化が根付いています。

現場作業者の意見が設計部門や購買部門と直結し、忖度なく「これではサステナビリティ目標に反する」と声を上げます。

こうした合意形成型のプロセスが、コスト最優先から脱却し、62%以上の製造業でサステナビリティ投資(エネルギー効率化、リサイクル推進など)が進んでいます。

アメリカ式現場風土:Fail Fast, Learn Fast

アメリカの先進工場では「失敗は次の成功のための材料」という考え方が徹底しています。

たとえば調達部門がサプライヤーに「この工程はムリ」と率直に課題を持ちかけたり、従業員一人ひとりが「現場で感じた矛盾」について責任者に改善提案を求めることが奨励されています。

そこには、従順であることがリスクとみなされる価値観があります。

「No」を言う文化の作り方—具体策

心理的安全性の仕組み化

サステナビリティを実現するには、「間違いや異議を自由に出し合える」環境作りが第一歩です。

例えば、定期的な現場ボトムアップ会議や、製造・購買・品質・企画が横断的に集まるワークショップを設け、リーダー自らが「反対意見・異なる視点」を歓迎します。

匿名改善提案制度や、現場発表会なども心理的安全性を高めるのに有効です。

「否定」ではなく「問いかけ」から始める

真のイノベーションは、「No!」と言い切る姿勢からではなく、「もっと良くするためにはどうする?」というポジティブな問いかけから生まれます。

例えば、「この工程は今のままであるべきか?」「この資材が最適か?」「このプロセスの環境負荷をより下げられないか?」という視点をみんなが持つこと。

こうした思考法は、「バイヤーになりたい」「サプライヤーと良い関係を築きたい」と考える若手にも求められています。

適切な反論・異議のノウハウ教育

日本人は諸外国に比べて「反論する=失礼」「波風立てる=避けるべき」と感じがちです。

ですが、現場会議や取引先との会話で具体的かつ論理的に自分の意見を述べる練習は不可欠です。

感情論・否定だけで終わらせず、「なぜ」「どのデータで」「どうすべきだと思うか」を組織的に訓練しましょう。

「逆境をチャンスに変える」マインドセット

すべての変化を「悪いこと」と捉えず、「自分たちの現場をより良くし、お客様や社会に貢献するための機会」として捉え直す力が必要です。

サプライヤーの立場でも、「無理難題」や「仕様変更」をただ受け入れるのではなく、「代替案・改善案」という形で積極的に提案できます。

バイヤーにとっても、現場の本音や発注先の困りごとに寄り添って交渉することで、相互信頼とイノベーションの種が生まれます。

「昭和的Yesマン」からの脱却が日本製造業の未来を開く

日本の製造業は、現場での経験と知恵の蓄積において、世界トップクラスです。

しかし、これまでの「前例踏襲型」「Yesマン文化」が、サステナビリティという新たな地平線を切り拓くうえで、ボトルネックとなりつつあります。

今こそ、現場一丸となった「問いかけ」「対話」「試行錯誤」の風土を作り、サステナブルな成長につなげていく時代に入りました。

あなたの現場に、ちいさな「No」や「なぜ?」を持ち込むところから、未来の製造業DX・サステナビリティが始まります。

「Yesマン」にならず、現場の知と情熱を解き放つ勇気を、一緒に持ちましょう。

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