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CRMを入れても顧客理解が深まらない理由

目次
はじめに:なぜCRMを導入しても顧客理解が深まらないのか
製造業でも多くの企業がCRM(顧客関係管理)システムを導入しています。
「導入すれば顧客理解が深まる」「顧客満足度と売上が伸びる」と期待されてERP連携などのプロジェクトが動きますが、現場レベルでは「結局、現場の実感とズレている」「むしろ余計な手間が増えた」といった声が出ることも少なくありません。
なぜ、せっかくのCRM活用が現実の顧客理解につながらないのでしょうか。
デジタル化が遅れがちなアナログ文化の製造業に20年以上いる経験から、表面的なシステム活用の壁と、その奥にひそむ本質的な課題を解きほぐしていきます。
現場の声:CRMが現実離れしてしまう背景
現場と売上重視のズレ
多くのCRMの導入プロジェクトは経営企画や営業主導で推進されます。
たしかに顧客情報を一元管理しやすくなりますが、現場で実際に「誰が」「どう使うか」という目線が薄いまま、「入力数=顧客理解度」と見なされて運用されがちです。
現場は常に急なトラブルや納期対応、価格交渉で多忙です。
「実務のため」ではなく「評価指標のためのツール」となり、「面倒な入力作業」としか感じられないことが少なくありません。
顧客データの“正確さ”と“文脈”が抜け落ちる理由
CRMには大量の顧客データが保管されます。
しかし、そのデータは「いつ、誰が、どんな経緯で」、どこに注意して獲得したのかという“現場の文脈”が省略されがちです。
とくに、調達購買や工場現場の担当者が直接聞き取った細かな情報や、現場独自の判断基準(例:「このスペックなら絶対NG」「表面上OKでも裏ルートではNG」など)は、マニュアルや入力フォームには載りにくいものです。
組織内で「知っている人だけが知っている」タコツボ型情報が、CRMでは再現しきれていない現状が多く見られます。
昭和的な“感覚知”と現場意思決定の壁
日本の製造業はタイムチャートや納期管理といったデータ化は進んでも、最終的な融通や意思決定を「現場の感覚」でさばく傾向が強く残っています。
与信やサプライヤー評価もそうです。
たとえば「新規サプライヤーとの長年の付き合い」「上司世代の人脈」「良い・悪いの肌感」といった非デジタルな“匂い”で受発注や優先度が決まることが珍しくありません。
CRMは「見える化」を謳いますが、実際の現場判断を支えている「見えない知」を吸い上げる仕組みが弱いのです。
CRMが顧客理解に直結しない3つの理由
1.CRMに入力できるデータの限界
多くのCRMが用意する「属性管理」「商談進捗」「対応履歴」は、表面的な“記録”です。
バイヤーやサプライヤー間のリアルなやり取り、調達現場の緊張感や関係性の機微、新旧担当者の引き継ぎの温度感までは把握できません。
結果として、「登録情報=顧客の全容」と過信し、「これだけ見ても、結局“活きた情報”がわからない」というジレンマが生まれています。
2.現場の暗黙知をデジタル化できていない
たとえば、ある設備メーカーで「この顧客は過去にクレームが多かった」「◯◯工場の担当Mさんは、仕様には厳しいが納期には寛容」など、現場担当者しか知らない情報があります。
こうした要素は、現場で交わされる雑談やサプライヤー間の信頼関係などのなかで培われていて、CRMにきれいに記入されていません。
これが「顧客をわかっている気になる」一方で、定期人事異動などで蓄積した“匠のノウハウ”が途切れ、いざ問題が起こると「引き出しがない」という事態につながります。
3.CRM導入の“目的”と“現場プロセス”が分断されている
経営層やマネジメントがCRMの導入を決定する際、どうしても「データを一元化して効率化、見える化」という短絡的な視点に流れがちです。
しかし、現場の調達購買や生産、品質、営業、保全の各部門が本当に求めている顧客理解は、日々の観察や対話、困難な調整の積み重ねで体得されるものです。
そのプロセスに寄り添わない入力作業や画一的な運用指示だけが先走れば、現場の納得感が薄れ、「CRMに書いてたのと話が違う」となります。
現場主義的なアプローチで顧客理解を深めるためのヒント
現場の“ナレッジ”を見える形にする工夫
デジタルツールに頼るだけでなく、「現場の暗黙知」を言語化して共有する仕組みが求められます。
たとえば、週1回の営業・調達・エンジニアチームの情報交換会で、「最近あった困った事例」や「取引先担当の気質」をざっくばらんに話し合います。
その内容をCRMのテキストフィールドやコメントとして蓄積する運用を根付かせる。
「営業日報」や「調達の反省ノート」など既存の仕組みに手書きでメモを残すこと、その写真画像をデジタルアーカイブに保存してナレッジベース化するアイデアも現実的です。
『顔の見える関係』を可視化する
単なる名簿や進捗管理とは別に、「この人がバイヤーなら、こんな対応が有効」「このサプライヤーは○○業界経験者が多い」など、個々の特性データも「人間関係のマップ」として図示する。
あるいはCRMに「属性」タブを拡張し、「趣味・関心分野」「世代」「性別」「地元のしがらみ」など特性情報を載せる。
バイヤー視点、サプライヤー視点で「人」そのものを把握することで、商談の幅がひろがります。
ルールの運用と現場裁量のバランスを見直す
システム導入の際、ルールでガチガチに縛るのではなく、現場担当者の“裁量”を明文化します。
「必須入力はここまで」「あとは自由記載、備考に書いてよい」など、現場の声を吸い上げながら運用方法を段階的に進化させることが、有効な運用定着の鍵です。
変革のヒント:ラテラルに考える顧客理解の新たな地平
見えない“顧客体験”を測る新しい指標を持つ
CRMの数値だけに頼るのではなく、定性的な“現場体験”を評価するKPIを設けるのも有効です。
たとえば、営業・調達メンバーの「現場同席回数」や「クレーム時どれだけ現場と動けたか」といったプロセス指標。
もしくは、バイヤー・サプライヤー側が自己評価する「顧客と対話した満足度」アンケートを運用し、全社で共有する。
現場ならではの“空気感”に注目し、データとナラティブ(語り)の両面構成を目指しましょう。
AIやチャット活用で“蓄積されるナレッジの見える化”
最近ではAIやチャットボットをCRMに組み込み、入力内容の自動解析や顧客ごとの傾向レポート作成も可能です。
そこに加えて、現場担当者が「顧客と話して気づいたポイント」「困ったときに役立った過去のノウハウ」をチャット的にインプットできる仕組みを用意すると、情報共有の壁が下がります。
現場の知識の損失を防ぎながら、人から人への伝承文化もデジタルと組み合わせて育てるのがポイントです。
昭和世代×令和世代の知恵を融合する
長年現場を歩いてきた昭和世代の「勘と経験」も、若手の「デジタル感覚」も共に重要です。
例えば、OJTやリレーション構築ワークショップを定期的に開くことで、世代間ギャップを乗り越えて“新たな顧客理解の方法”を共創できます。
成功体験・失敗談・裏話も織り交ぜ、「現場ナレッジ全集」としてまとめていく文化を定着化しましょう。
まとめ:CRMを活かすカギは“現場の知恵”と“人間的なつながり”
CRMを導入すれば自動的に顧客理解が深まる、という幻想を打ち破る時代です。
見える化と効率化の追求も大切ですが、それ以上に現場から湧き上がる“生の知識・経験”を大切にし、可視化して流通させる工夫が求められています。
バイヤー、調達担当、サプライヤー、それぞれの立場を尊重しながら、知恵を掛け合わせることで“本当の顧客理解”に一歩踏み出すことができます。
アナログな現場感をデジタルで補完し、昭和から令和、そして未来へと続く製造業の発展に、皆さんの現場主義的なアイデアが貢献できることを願っています。