投稿日:2025年12月11日

工程ばらつきが常に設計の想定を超える理由

はじめに:工程ばらつきの本質とは何か

製造業の現場に身を置く方なら「工程のばらつき」という言葉を何度も耳にしたことがあるでしょう。

設計段階では緻密な計算とシミュレーションを重ね、「この工程ならこの精度に収まる」と想定しますが、いざラインが立ち上がると、設計の想定を常に超えるばらつきが発生するのが実態です。

なぜ、これほどまでに工程ばらつきが起こるのでしょうか。

本記事では、工程ばらつきが設計の想定を超えてしまう根本原因を、現場ならではの目線と、時代背景・業界の慣習も織り交ぜて深掘りします。

そして、設計・調達・バイヤー・サプライヤー各視点からの対策や、今後の工程管理のあり方についても提言します。

工程ばらつきの定義と、その重要性

ばらつきとは何か?~単なる誤差ではない

ばらつき(Variation)とは、同じ製品を同じ工程で作ったとしても、出来映えや寸法、品質値が異なる現象です。

単なるランダムな「誤差」や「ミス」とは異なり、製造ラインに内在する特性や周環境の影響を受けて発生します。

設計段階で「この工程なら±0.1mmに収められる」と想定しても、現場では0.2mm、場合によってはそれ以上逸脱することも珍しくありません。

このばらつきが大きいと、後工程で不良品が増えたり、全体の効率低下につながり、調達コスト・納期・最終顧客満足度にも直結します。

なぜ“設計想定”を超えてしまうのか?

多くのエンジニアやバイヤーが悩むのが、「設計上は問題ないはずだが、量産すると安定しない」という現象です。

これは現場のリアルな“現象”に設計者の想像や過去データが追いついていないからです。

設計上のばらつき“想定値”は、理論上の計算や標準工程に基づくものです。

しかし、実際の現場は生身の人間、時代遅れの機械、未熟な作業者、複雑なサプライチェーンによって構成されています。

そこには、設計の想定をはるかに超える“変動要因”が隠れているのです。

工程ばらつきを生み出す現場の“七つの壁”

設計段階では見えにくい、実際の工程ばらつきを生み出すメカニズムを、「七つの壁」として整理します。

1.ヒト:スキルの違いとモチベーション

昭和から連綿と続く「手作業文化」が今も根強い現場では、個人ごとのスキルやクセがばらつきの大きな要因となります。

誰が作業するかで、出来映えや処理時間が微妙にずれていきます。

また、正社員と派遣・期間工など雇用形態の違い、モチベーションの差も顕著です。

この“ヒトの壁”は、設計段階で最も過小評価されやすい要素です。

2.モノ:設備・治具・道具の経年劣化

設備は設計当初のスペック通りに動作を続けることはまずありません。

道具の摩耗、治具の歪み、古いラインにありがちな油切れや各部のガタつきが、徐々にばらつきを増幅します。

また、修理や更新のタイミングが現場任せで計画的でないと、想定外の異常が突然現れます。

3.材料:調達先ごとの品質差

サプライヤーごとに原材料の品質はブレます。

同じ規格なのにロットごとに微妙に硬さや色味が違うことも珍しくありません。

特に購買コストを重視した“安値調達”を推進した場合、ばらつきの元凶となり、現場オペレーターを苦しめます。

4.測定:検査方法や測定者変動

検査の観点でも、測定工具のキャリブレーションや測定者のクセによる誤差が馬鹿にできません。

“この人が測るとOKになるが、別の人が測るとNGになる”というのは現場あるあるです。

5.環境:気温・湿度・季節変動

日本の多湿・高温な気候は、部品や材料だけでなく、機械の挙動や作業性にも強烈な影響を及ぼします。

冬と夏では加工精度が違う、夜勤と昼勤で出来栄えが違う──。

設計段階でこれらの変動を織り込み済みにするのは、相当な経験値が必要です。

6.情報:昭和的な口頭伝承・帳票文化

長年の紙管理や口頭伝承で育まれてきた“昭和の現場知”は、デジタル化の遅れとともに、情報の抜け漏れや属人化を招きます。

新設備導入や世代交代のたびに、工程ばらつきが急拡大するのはこのためです。

7.プロセス:サプライチェーンの多段化

グローバルサプライチェーンの多層構造化で、工程管理が複雑化しました。

どこでどんな“変動要因”が混入するのかブラックボックスとなり、設計想定の精度が大きく揺らぎます。

中国・東南アジアなど遠隔地調達が主流となると、現場でのばらつき監視はさらに難易度を増しています。

アナログ業界の宿痾:なぜ改革が進まないのか

現場力頼みの度合いが強すぎる

昭和以来続く製造業の現場文化は、「ベテラン頼み」「場当たり的改善」に依存してきました。

データ・IoT活用やロジカルな工程管理よりも、経験と勘を重視しがちです。

この結果、“なぜこのばらつきが出るのか”の合理的な説明や抜本改善が後回しになります。

「工程能力」「工程設計」の管理レベルが低い

工程能力指数(Cpkなど)を紙ベースでしか管理していない、生産準備段階のシミュレーションや工程設計が手抜きになりやすい、といった問題もあります。

現場には「うまくごまかす」「あとでつじつまを合わせればいい」的な旧態依然とした文化も根強いです。

工程ばらつきとバイヤー・サプライヤーの葛藤

コストダウン至上主義がばらつき拡大を呼ぶ

調達バイヤーはコスト削減を優先しがちですが、それがサプライヤー側の品質・工程安定化投資の減少につながります。

サプライヤー側はコスト競争を強いられ、工程の安定化や教育に投資できず悪循環に陥ります。

この板挟み状態が、結果的に工程ばらつきの拡大を招いているのです。

設計者と現場担当者の相互理解不足

設計者は「この条件なら大丈夫」と思い込み、現場は黙って現実的な対応を迫られる。

時には、設計者が現場に足を運ぶ機会が極端に少なく、リアルなばらつきを把握しきれていないケースも多いです。

現場力と設計知見、双方のギャップがばらつき発生の温床になります。

工程ばらつきを最小化する“新たな地平”へ

昭和の時代にはそれでも生産は回っていましたが、品質クレーム厳格化やグローバル競争の時代には、これまでのやり方では対応しきれません。

現代の製造業におけるばらつき最小化の“新たな地平”をいくつか提案します。

デジタル化・IoTによるリアルタイム監視

現場にセンサーやIoTデバイスを配置し、温度・湿度・振動データや作業者ごとの動線情報を蓄積します。

これにより、設計-現場間の“ブラックボックス”が可視化され、工程ばらつきの「見える化」が進みます。

計測データを基に、工程能力を逐次評価し、異常兆候をいち早く捉える仕組みが不可欠です。

“プロセスFMEA”の徹底と現場視点の工程設計

設計段階で生じうる全ての工程ばらつきを洗い出し、FMEA(故障モード影響解析)を徹底しましょう。

現場担当者・サプライヤーと設計者がワンチームとなり、“人・設備・材料・環境”多角的な観点からリスクをつぶします。

現場の声をいつも聴き、設計の想定値に“生々しい現場の実態”を織り込む習慣が必要です。

工程監査・現場パトロールの定期化

管理職や品質保証部門が、現場に頻繁に足を運び、実際の作業状況や工程ばらつきの兆候に目を配ること。

この地道な取り組みが、設計-現場の“温度差”を埋め、トラブル未然防止につながります。

バイヤー・サプライヤー間の共創体制強化

コストだけにとらわれた一方的な“発注-受注”関係では、工程ばらつきの抜本改善は不可能です。

バイヤー・サプライヤーが共に現場を訪問し、課題抽出や改善計画を一緒に立案する「共創型調達」が不可欠となります。

サプライヤーの設備投資を支援したり、教育コストの一部を持つことも長期的な仕入れ安定化につながります。

まとめ:工程ばらつきは現場と設計の対話からしか超えられない

製造業における工程ばらつきは、単なる計算ミスや個人の怠慢ではありません。

そこには、人・設備・材料・測定・環境・情報・プロセスという幾重にも重なる壁があり、それぞれが複雑に絡み合っています。

設計と調達、現場とサプライヤーが“お互いの言い分”を本音で語り合うこと、現場知と設計知を融合させる「対話型の工程設計」が、新たな地平を開く唯一の道なのです。

これまで昭和的現場力に頼ってきた日本の製造業も、今やデジタル化・現場共創に本気で取り組むべき時代です。

誰一人として「ばらつきは仕方がない」と諦めることなく、バイヤーもサプライヤーも一丸となって、「工程ばらつきゼロ」に挑戦し続けましょう。

製造現場に携わるあなたの知恵と行動が、その第一歩になります。

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