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相見積もりの乱発が企業ブランド価値を下げる理由

目次
はじめに 〜相見積もりの意味と、日本の現場での現状〜
相見積もりという言葉は、製造業に関わる方であれば、一度は必ず耳にしたことがあるはずです。
製品や部品、資材の調達時に複数のサプライヤーから見積もりを取ることで、最善の取引先や価格・納期・品質などを選択するプロセスです。
合理的な意思決定には必須のステップと思われがちですが、昨今の日本のものづくり現場では、相見積もりが本来の目的から逸脱し、むしろ企業ブランドや調達部門の信頼性を損ねる事例も増えています。
特に、昭和の時代から受け継がれる「とにかく安く買いたい」「複数社に声をかけるのは当たり前」といった商習慣が、グローバル競争の中では陳腐化しつつあります。
本記事では、相見積もり乱発の本質に迫り、なぜそれが企業ブランド価値を下げるのかを、約20年の現場経験を交えて解説します。
相見積もりの意義と、その裏にある“昭和型”志向
本来の“健全な相見積もり”とは
適正な相見積もりは、調達部門とサプライヤー双方にメリットをもたらすものです。
具体的には、
・競争意識を適度に高め、サプライヤーのコストダウンや技術改善を促す
・バイヤーが納期や品質など多角的な情報を比較検討できる
・不測のトラブル時に調達先を分散してリスクヘッジできる
など、業務改善や企業競争力強化の種となります。
“乱発”される相見積もりの現状
ところが最近、こうした理想的な相見積もりが形骸化し、「とりあえず見積を取っておく」「“御用聞き”的に数社へばら撒く」という行動が常態化しています。
発注金額や仕様詳細を固める前から、もしくは現実的には受注の見込みが極めて薄い案件まで、ごく短い納期で片っ端から依頼してしまう。
なぜこうした風潮が根付いたのかと言えば、過剰な安値志向や、組織防衛的な「とりあえずやっておけ」的な文化、属人的な判断を避けようとする空気など、昭和世代から平成・令和に至るまで改革しきれなかった商習慣が背景にあります。
バイヤーとサプライヤー、それぞれの心理と齟齬
バイヤー側の言い分
バイヤー側は、安定調達とコストダウンの両立、経営部門からの厳しいコスト要求、短納期や柔軟な対応といった理想を常に突き付けられています。
そこから「とりあえず相見積を取ればマズいことは起こらない=アリバイ作り」の発想に止まりがちです。
また、組織内稟議を通す際、「この価格が本当にベストだったか?」という厳しい目をかわす保険として相見積もりが求められます。
サプライヤー側の本音
一方、サプライヤー側からすれば、「また相見積だけか」「本気で発注する気があるのか?」といった徒労感が募ります。
繰り返されるだけの形式的な見積依頼に、応じてもビジネスに結びつく期待感が薄れると、自社の業務効率やモチベーション低下にも直結します。
そのうえ、技術的なノウハウやコスト構造などの機密情報を見積段階で安易に開示させ、交渉材料として“値下げ圧力”に使われるケースも目立ちます。
こうした行き過ぎたバイヤー優位の交渉姿勢は、サプライヤーの信頼を失い、長期的な協力関係に重大な亀裂を生みかねません。
相見積もり乱発がもたらす3つの重大なマイナスインパクト
1. ブランド価値・信頼性の低下
調達を受ける側から「この会社との見積もりやり取りは無駄が多い」「誠意が感じられない」「形式ばかりで信頼されていない」と思われるようになれば、取引候補として後回しにされやすくなります。
特に中堅・中小のサプライヤーにとっては、人的リソースが有限なので、「このバイヤーに割く価値は無さそう」と判断され、親身な対応が受けられなくなるリスクも高まります。
また、過度な値下げ交渉や情報の横流し(=A社の見積内容をB社に提示して安値を誘導する等)など“裏切り行為”が横行すれば、その評判はサプライヤー業界内で瞬く間に広がり、企業の調達ブランド価値を著しく損ないます。
2. 組織全体の競争力低下
見積もりプロセスが形骸化し、「とりあえず安い」「とりあえず早い」だけの判断軸に陥ると、真に優れた技術や長期協力関係の育成、新たな付加価値創造の機会が失われます。
「値段で選ぶ会社」というラベルが貼られると、サプライヤー側も最低限のコスト重視の提案しかしてこなくなり、開発協力や保守サービス、品質改善などで積極的な取り組みが得られなくなります。
結果として、調達先の選定眼力が鈍り、抜本的な競争力強化につながらない悪循環に陥ります。
3. 現場と管理層間の信頼断絶、組織疲弊
現場の調達・生産部門と、経営・管理層とのあいだにも深刻な隔たりが生じます。
たとえば、稟議上形式的に「最低3社から見積を取れ」と求められる一方で、本質的には現場担当者が日常的に蓄積してきた「この会社なら安心して任せられる」「迅速できめ細かい対応がありがたい」といった経験知が活かされにくい構造です。
机上の空論で下された基準が、実務の合理性やサプライヤーとの真のパートナーシップ構築を妨げる元凶となってしまいます。
業界トレンドとグローバル化、ESG・SDGs時代のバイヤー像
< h3 >“昭和型”調達取引が通用しなくなる理由
かつてのような大量生産・画一的商品であれば、単に安いだけのバイヤーが力を持つ時代もありました。
しかし、今は仕様変更やカスタマイズが当たり前となり、納期短縮・高付加価値化・省エネ対応など、サプライチェーンの俊敏で柔軟な連携が必須です。
加えて、グローバル市場のサステナビリティ重視や、ESG(環境・社会・ガバナンス)評価、SDGs達成といった大テーマのもとで、単なる金額主義・短期至上主義の調達は時代遅れとなっています。
調達先と適切なパートナーシップを築けないバイヤーは、早晩競争力を喪失する運命にあります。
“誠実な調達”が導く未来のサプライチェーン像
現代の優れたバイヤーとは、単に価格や納期でサプライヤーを足切りする存在ではありません。
相見積もりのプロセス一本とっても、
・案件規模と緊急度に応じて本当に必要な時だけ活用する
・サプライヤーに見積を依頼する際は、きちんと目的・選考基準・決定プロセスを説明する
・見積り技術情報は他社へ転用しない等、情報管理ルールを徹底する
・落選したサプライヤーにもフィードバックする
など、“対等なパートナーシップ”志向が重視されるようになりました。
持続的な発注関係・技術連携を通じてサプライヤーの力を引き出し、企業全体の競争力向上に貢献する姿勢こそ、現代バイヤーの矜持です。
バイヤーへの提言:乱発から脱却し「選ばれ続ける企業」になるために
現場で実践できる 5つの見直しポイント
1.「なぜ相見積もり?」を毎回自問する
安値至上主義・形式主義の呪縛から離れ、自社にとって本当に必要か?成果に直結した依頼となっているか?を徹底的に問い直す習慣を持ちましょう。
2.“選考理由”を透明化する
見積依頼時には「なぜこの条件で依頼したのか」「どういった観点で評価するのか」まで可能な限り説明し、お互いの前提を共有します。
3.案件ごとにサプライヤーのリソース配分も配慮する
頻度・規模に見合わない乱発は控え、相手側にかかる負担・工数にも注意を払いましょう。
4.落選理由や改善点は積極的にフィードバック
「今回はこの点で選外になった」「次回こういった案件があれば再度声をかけたい」といった具合に、サプライヤーの成長機会にも寄与する対応を心がけましょう。
5.自社担当者の裁量や“現場知”を積極活用
データや数値基準に加え、現場担当者が持つ蓄積やヒューマンスキルも大事な判断軸として認め、お互いに誠意ある意思決定を行うようにしましょう。
まとめ:相見積もりは“信頼構築”のために使いこなせ
相見積もりの安易な乱発は、企業ブランド価値を毀損し、サプライヤーとの信頼関係はおろか、社内の現場知をも軽視する温床となります。
安定したサプライチェーン構築や製品の高付加価値化に挑む現代の製造業では、形式にとらわれず、本質的で誠実な調達・購買活動が何より重要です。
“目先の安さ”に目を奪われず、“長く選ばれる”企業となるために、あなたの調達スタンスを今一度見直してみてはいかがでしょうか。
製造業に携わるすべての方が、サプライチェーン全体に誇れる信頼とブランド価値を築いていけることを心から願っています。
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