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製造業で健康経営を始めた瞬間に人事と現場の温度差が表面化する理由

目次
製造業で健康経営を導入する背景と現場のリアル
製造業はかつて「3K(きつい・汚い・危険)」の代名詞とされてきた業界です。
しかし少子高齢化、慢性的な人手不足、そして人材の確保競争が激化する今、従業員の健康維持や労働環境改善が経営課題の一つとなりました。
このような時代背景のもと、多くの企業が「健康経営」に取り組み始めています。
健康経営とは社員の健康管理を経営的な視点で戦略的に推進し、最終的に生産性向上や企業価値の向上を目指す取り組みです。
ですが、健康経営を強化することによって、表面化する問題があります。
それが「人事部門と現場(工場現場)の温度差」です。
なぜ健康経営導入の瞬間に、この“ズレ”が顕著になるのでしょうか。
私の実体験や現場での対話、昭和から令和に続く業界風土を交えて解説していきます。
“健康経営”と現場感覚のギャップとは何か
従来の現場と人事の関係性
昭和・平成の時代、製造業の現場では「定時まで働き、きっちり成果を出す」が美徳でした。
繁忙期に残業や休日出勤が当たり前という風潮も根強く、会社全体が効率・納期重視で動いていたのは多くの方が経験されています。
人事部門は主に採用・勤怠・労務というバックオフィス業務が中心。
現場が“やって欲しいこと”と人事が“やるべきこと”には距離感があり、互いに「無関心」な場合さえありました。
この構図は今も一部の製造企業に色濃く残っています。
健康経営がもたらす新たな接点
健康経営が始まると、人事部門が中心となり“健康診断受診率の向上” “生活習慣病予防” “メンタルヘルス対策”などを推進します。
現場の作業服を着たリーダー格社員や技能職は、こうした取り組みに急に巻き込まれる形になるわけです。
ここで出てくるのが「温度差」です。
人事が戦略的に「全社一丸で取り組むべき」と盛り上がる一方、「現場はこれで本当に変わるのか?」「新しい仕事が増えただけでは?」という懐疑や戸惑いが露骨に表れます。
“昭和的現場文化”の根強さ
多くの作業現場や工場には、60代以上のベテラン従業員が大きな影響力を持っています。
たとえば、休憩中のタバコ・コーヒー、終業後の“反省会”という名目の飲み会も定着してきました。
こうした文化の中、「健康を経営の柱に」というトップダウンの施策は、現場感覚からすると“よそ行き”や“綺麗ごと”と見なされやすいのです。
このような文化の壁が、温度差をより大きくしています。
なぜ健康経営で温度差が表面化するのか
1. 形だけの施策・打ち合わせが増える
健康経営宣言、社内掲示、健康目標、中期健康経営計画——言葉や資料は増えても、現場に「今まで通りの仕事+α」しか実感できる変化がない場合が多くみられます。
“月一回のウォーキングキャンペーン”“健康標語の募集”などイベントが始まりますが、実働部隊である現場は「日常業務が忙しくて対応しきれない」「やらされ感だけが募る」という本音が渦巻きやすい傾向にあります。
2. 「健康第一」と「生産第一」のジレンマ
工場では生産計画が絶対です。
納期・品質・原価がすべてに優先され、特に繁忙期には休日出勤、残業対応が増加します。
このタイミングで「残業削減」「過重労働是正」を進めても、「現実と理想が合わない」「数字だけ合わせて後は現場まかせ」という不信感が生まれがちです。
このジレンマは、特にアナログな体制が残る工場で強く、管理職ほど「板挟み」となりやすい現象です。
3. メンタルヘルス施策の難しさ
現場では「ちょっとの無理」が品質や納期につながります。
心の健康支援や相談窓口の設置は増えているものの、「本当に話して大丈夫か」「相談したら評価が下がるのでは?」と疑心暗鬼が根付きやすい現場文化があります。
人手不足の中で「誰かが割を食う」「結局、現場にしわ寄せ」という思いが噴き出しやすく、温度差が浮き彫りになります。
健康経営で温度差に直面したとき、現場はどう感じているか
1. 実効性に疑問
「健康診断を受けた後、その結果をどう活かすのか?」
「年に一度のストレスチェックだけで何が変わるのか?」
「イベントが終わったら誰もフォローしないのでは?」
こうしたリアルな疑問が頻繁に現場から聞こえます。
意見を集めてもフィードバックに返りがないと「どうせ形だけ」という見方がさらに強まります。
2. “今ここ”の課題感
熟練技能の継承や、生産性維持、高齢者ケアなど、「すぐ現場に関わる課題」を差し置いて、健康経営のプロジェクトが急先鋒で進むと、「優先度が見合っていないのでは」との不満が蓄積していきます。
畑違いの施策が横滑りで降ってくることで「現場への配慮のなさ」「現状認識のズレ」を感じざるをえません。
3. 評価制度と連動していない
生産系の現場は「評価=実績・スキル」が基本です。
健康経営への参加や健康活動への貢献が評価に組み込まれてなければ「やる意味が見えない」と直感的に捉えられます。
この“行動と評価の整合性のなさ”も、人事と現場の温度差を広げる一因です。
サプライヤー(取引先)やバイヤーが知っておくべき“現場の本音”
バイヤーや外部サプライヤーにとって、自社の健康経営の取り組み度合い・レベル感は大きな商談材料やパートナー先選定基準にもなります。
一方で、現場側には独特の空気があります。
たとえば、
「働き方改革・健康経営に積極的、と言っているが、下請けにはむしろ負担が増えただけ」
「調達側のチェックリスト(健康活動状況など)に現場が書類作りで振り回されている」
という声もしばしば届きます。
健康経営に熱心な調達部門やバイヤーほど、実際の現場事情・人材のモチベーションやキャパに理解を持つことが肝要です。
また、サプライヤー側も「どの程度のレベルを現場ベースで遵守しているか」「形だけの対応になっていないか」を理解したうえで適切なコミュニケーションを取らなければ、表面的なパートナーシップに留まる危険性が高まります。
温度差を越えて製造業の健康経営を根付かせるには
1. “現場視点の見える化”と双方向コミュニケーション
健康経営の“目的”や“成果指標”を「現場のリアル」と紐づけた説明が不可欠です。
たとえば、
– 「健康診断受診率」は「設備トラブル時の急病リスク低減」に直結する
– 「労働時間の適正管理」は「熟練者の事故防止=属人化リスク低減」に繋がる
と常に工場のKPIとリンクさせて伝えることが第一歩です。
また、“一方通行の掲示”や“アンケート”だけではなく、現場の声を拾うしくみ(現場リーダー座談会、ワンポイントミーティング、改善提案の即時反映など)が定着すれば、体感温度は必ず実感レベルで変わってきます。
2. 評価制度・表彰との連動
健康経営の活動や現場改善の取り組みを“成果”として正しく評価し、顕著な貢献には表彰・報奨を与える制度を導入すると、やってみようという雰囲気作りにつながります。
加えて、「健康活動をしたら○○のインセンティブ」などわかりやすい仕組みを一部組み込むのもおすすめです。
3. “現場リーダー”の巻き込みと自主的活動の促進
管理職や班長・リーダーが納得できるロジックと仕組みの整備が健康経営定着のカギです。
トップダウンの施策と現場発の改善案がうまく融合すれば「口先だけ」から「実のある取り組み」へと進化します。
また、現場発信で「腰痛予防体操」や「分煙スペースの改良」「休憩室改革」など実効性と即効性のある自主活動が増えていけば、温度差の緩和だけでなく、業務効率やエンゲージメント向上にも直結します。
まとめ:健康経営の“理想と現実”の溝を埋めるために
製造業が健康経営を進めた瞬間、一気に浮き彫りになる現場と人事の温度差。
この現象は“伝統的な現場文化”や“現場固有の課題感”、そして“施策の現場定着の難しさ”が絡み合って生まれています。
真に健康で活力ある職場を実現するためには、人事・バイヤー・現場スタッフが一体となった対話と調整、そして合理的かつ柔軟な運用が求められます。
形だけの進捗ではなく、一人ひとりの納得を得る仕組み、現場リーダーの巻き込み、そして現実に即した評価制度の見直し——これらの地道な積み重ねが、製造業の未来を明るく照らします。
健康経営は単なる「制度」ではありません。
“現場が変わる”ことをもってはじめて、経営やバイヤーの戦略にも真の意味が生まれるのです。
健康経営をめぐる温度差、それは裏を返せば「現場変革の伸びしろ」でもあると私は考えます。
今こそ、製造業のすべての立場から“働く人”への本当の価値づくりを進めていきましょう。