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人事DXを入れたのに属人管理が残る理由

目次
はじめに:製造業のDX推進と現場のギャップ
全社的なデジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれる中、製造業でも業務効率化や省人化を目指して、さまざまなシステムが導入されています。
特に人事や生産、購買といった管理部門へのDX投資は活発になっています。
しかしながら、「人事DXを入れたのに、なぜか現場では属人管理がずっと残り続けている」という悩みを多くの現場責任者や管理職の方から耳にします。
なぜDXツールやクラウドシステムを入れても、紙台帳やExcel、昔ながらの“誰々さんしか分からない”ノウハウが根強く残るのでしょうか。
その理由を、現場視点で掘り下げ、新たな改善のきっかけを皆様と共有していきます。
製造現場のリアル:人事DX導入の理想と現実
人事DXとは?
人事DXとは、人事労務管理のデジタル化、すなわち勤怠管理やシフト作成、評価、人材育成、資格管理など、従業員に関わるさまざまな情報をシステムで一元管理し、業務効率を飛躍的に高めることを指します。
近年は、クラウド型のSaaSサービスも充実し、ERPやワークフローとも連携可能になっています。
理想としては、「全社員の情報が見える化され、手作業や人に依存した管理から脱却し、統一されたルールや運用が根付いた職場」になることが期待されています。
アナログ文化が根強い製造業の現場
ところが現実の現場では、DXシステムを導入した後も、
– 「現場リーダーがExcelで独自の名簿台帳を持っている」
– 「日々のシフト変更や残業調整は、リーダーのカンと経験で最後は帳尻を合わせている」
– 「スキルや資格の情報も、結局は“あの人何持ってる?”“どのラインが得意だっけ?”と、担当者同士の口伝えが頼り」
といった“属人管理”が根強く残っている例が数多く見られます。
属人管理が残る5つの理由
属人化=悪、とは一概に言えません。
しかし、急な担当者交代・退職・休職が発生したときや、若手・中途社員の戦力化、新拠点の立上げといった場面で、属人管理が大きなハードルとなり、組織の成長や生産性の足かせとなるケースが多く見受けられます。
なぜ人事DXを導入しても解消できないのか、その背景を分解して考察します。
1. システムの“入力者=管理者”思想
多くの人事・勤怠システムは「標準フロー」を前提にできています。
しかし、現場には標準化しきれない“イレギュラー対応”が日常的に存在します。
一例を挙げれば、設備トラブルに伴う突発応援、工程間移動、育成段階による補助業務、特殊資格保有者のアサインなどです。
これら柔軟なアサインやスキルマッチングは、現場リーダーが従業員の性格・経験・作業習熟度といった定量化できない情報をもとに瞬時に見抜き、適切に采配することで成立しています。
システムには「入力」しか載せない現場独特のオフライン情報は、どうしてもリーダーや主任の頭のなかに蓄積されやすくなります。
2. “昭和脳”的なコミュニケーション文化
昭和の時代から続く、現場力・人間関係・暗黙知こそが現場の武器である、という文化が今も息づいています。
「システムが言ってることより、俺の経験が正しい」
「紙でもいいから現場に見えるものを貼ってほしい」
「困ったらまず上司に聞け」という“現場第一主義”が、受け身なデジタル運用を生み、DX定着の妨げとなっているのです。
3. 教育・説明責任の曖昧化
実は新しい人事DXシステムを入れても、「使いこなせる人」と「見るだけの人」に分化してしまうことが多々あります。
属人管理が続く原因は、「誰がどこまで入力し、どこまで現場に情報共有すべきか」という役割分担が明確でないことにあります。
結果、
– 一部の“システム得意な人”へ作業が集中し疲弊
– 多くの従業員が「見てるだけ」「分からないまま毎日を過ごす」
– データよりも慣習・経験・噂話が優先
という構図が出来上がってしまうのです。
4. システムと現場実務の“隙間”の多さ
人事DXシステム自体は優れていても、その情報が現場の帳票、現場リーダーの管理ファイル、実際の工程進行等と「微妙に噛み合っていない」ことも大きな課題です。
例えば、資格やスキル情報はシステムで管理されていても、現場の日々のアサインや技能マップには古いExcelやホワイトボードが使われている。
この“隙間”には、人の記憶力や確認作業による補填、現場事情優先のカスタマイズが入り込み、現場では「やっぱりAさんが必要だ」という暗黙知、属人ノウハウが生まれ続けます。
5. 現場の「変えたくない」心理
最も大きな要因はこれかもしれません。
長年同じ方法でやっていた仕事、“現場の名人芸”を手放したくない心理が、現場リーダーや管理監督者層には根強くあります。
DXシステムが正しく機能し始めてしまうと、自分の役割の一部が失われるという“懸念”が生まれます。
また、「自分だけが知っている」情報や作業ノウハウの価値が薄れることへの抵抗や、自分のポジションを守りたいという思いが、潜在的なDX忌避感となり属人化を温存する温床となっています。
属人化からの脱却に効く5つのラテラルシンキング
ここからは、一般的な“システムの使いこなし”や“現場教育の充実”という直線的な解決策ではなく、発想の転換(ラテラルシンキング)を使って、「現場にDXを浸透させ、属人管理から脱却する」ために有効なアプローチを考えてみます。
1. 属人化を“見える化”して評価する
多くの改善活動では「属人化=悪」と決めつけてしまいがちですが、一度現場で、
– どんな場面で、
– 誰が、
– どういった属人的判断・工夫(ナレッジ)を使っているのか
を整理・リストアップし、その価値を正当に評価することが大切です。
“属人ワークの棚卸”を行い、「これを見える化したら現場力が倍増するクセやアイデア」を、むしろポジティブに取り上げましょう。
これにより、「自分のノウハウが認められた」「チームのノウハウとして伝える価値がある」と認識することで、現場の積極的な協力を得やすくなります。
2. システム側を“現場仕様”にチューニング
現場では「システムに現実を合わせろ」ではなく、「システムの運用を現実に合わせて柔軟にカスタマイズ」することが、長い目で見ると推進力になります。
日々の現場でつけている個人ファイルや紙台帳といった“現場独自の管理”を、運用ルールや設定項目に一部組み込むなど、現場起点でカスタマイズ検討を行う。
また、現場にヒアリングしながら、「誰が、何を、どこまで見る/触る権限があれば不便でないか」という点を細かく設計すると、スムーズなDX浸透が期待できます。
3. “教え合い”と“越境学習”の場づくり
人事DXの利活用は、座学による一方的な研修だけでは根付きません。
各現場ごとに“お互いのナレッジ(技能・経験・工夫)を教え合い、システム上に落とし込んで共有する場”を設けることが効果的です。
たとえば、毎月一回のDX促進ミーティングや技能伝承ワークショップを実施し、現場担当者もDX推進者もフラットに話せる機会を作ることで、属人的な情報も“組織知”へと昇華しやすくなります。
4. 「属人→標準化」だけでなく「標準化→個性化」も進める
均一な標準化を目指すだけでなく、「個々人の強みや個性を活かした運用」にも目を向けるべきです。
たとえば、技能やリーダーシップを持つ人には「スーパーバイザー」や「教育担当」といった役割をシステム上で明示化し、彼らのおすすめノウハウを“現場便り”としてシステム上に表示する。
DXで生産性を高めたぶん、現場のコミュニケーションや工夫により多くの時間を使えるように設計すると、“個の力”が組織全体に活きるようになります。
5. “評価軸”を明示してモチベーションアップ
結局のところ、現場が一番重視するのは「どの行動・スキル・ノウハウが、どのように評価され、待遇向上につながるのか」という点です。
人事DX上で「ナレッジ蓄積・活用」「後進指導」「チーム全体のパフォーマンス」に対し、評価項目やポイント(インセンティブ)設計を盛り込むことで、
– 独自ノウハウの共有
– 属人ワークの見える化
– チーム全体の技能底上げ
を一気に推進できます。
最後に:DXと現場力の融合が製造業の未来を創る
人事DX導入は単なるIT化ではなく、属人管理=現場力をどう活かし、どう組織力に変えていくかが真の価値になります。
人にしかできない判断や経験、現場独自の工夫を“排除”するのではなく、その知恵の中に未来の生産性向上やチーム力アップのヒントが埋まっていると捉えるべきです。
製造業のDX推進には“現場と経営”のチームワークが不可欠です。
現場の声を吸い上げ、ノウハウを共通言語化し、「個の力」を「組織力」に結びつけていく。
それこそが、DX×現場力の融合による真の脱属人化であり、アナログ時代からデジタル時代への“本物のトランスフォーメーション”です。
この記事が、みなさんの現場でのDX推進、ナレッジ共有、そして属人管理の見える化と組織強化への一助となれば幸いです。