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ISO/TS 22163が鉄道産業で重視される理由

目次
はじめに:ISO/TS 22163とは何か?
ISO/TS 22163は、鉄道産業における品質マネジメントシステムの国際標準です。
広く知られているISO 9001をベースとし、特に鉄道車両やその構成部品、補修・メンテナンスサービスなど鉄道関連業界の特殊事情を考慮して設計された規格です。
IRIS(International Railway Industry Standard)という名称で過去に運用されていた仕組みが昇華し、2017年にISO規格として認定されました。
この規格は単なるQMS(品質管理システム)にとどまらず、サプライチェーン全体での信頼性・安全性・トレーサビリティ向上を目的としています。
日本の鉄道産業の現状と課題
日本の鉄道業界は、世界に誇れる高品質・安全性に支えられてきました。
新幹線を含む鉄道車両は高い稼働率と定時運行の実績で広く評価されています。
しかし、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せる中、現場は今なお“昭和的”な管理手法が色濃く残っているのも事実です。
図面は紙、伝票は手書き、品質記録も所定の筆順指定あり、などアナログ文化が根深く残っています。
さらに、業界特有のピラミッド型サプライチェーン構造、バイヤーとサプライヤーの関係性、納期重視とコストダウン圧力も大きな課題です。
これらの状況下で、ISO/TS 22163はどのような意味を持つのでしょうか。
なぜISO/TS 22163が鉄道産業で重視されるのか
1. サプライチェーン全体の品質向上
鉄道車両は、“一品受注生産”といわれることが多いですが、その性質上、多種多様な部品や技術が組み合わさります。
一つひとつの部品に不具合があれば、重大な安全事故につながりかねません。
ISO/TS 22163は、部品供給元から完成車両までの全工程にわたる品質管理を標準化し、個々のサプライヤーや下請けの立場でもバイヤーと同じ目線で品質向上を追求できます。
2. グローバル化への対応とビジネス拡大
近年、日本の鉄道メーカーも海外進出を加速させており、グローバルなサプライチェーン構築が必要不可欠となっています。
その際、国内独自のルールや慣習だけでは国際競争の中で戦えません。
ISO/TS 22163は“世界で通用する共通言語”として機能し、現場レベルでも輸出プロジェクトや外資系企業との取引で大きな武器になります。
3. リスクマネジメントとしての規格活用
鉄道業界は、万が一の事故が社会的責任やブランド毀損に直結します。
ISO/TS 22163では、リスク管理・不適合管理・是正処置が極めて重視されます。
これは単なる書類文化ではなく、現場の実効性あるリスク低減策として機能します。
例えば、部品不具合が見つかれば、その原因を特定し、サプライチェーンのどこに弱点があるかを追跡・分析するのは至難の業です。
この規格は、トレーサビリティを確保し、再発防止策を徹底できる設計となっています。
4. “脱・昭和”とDX推進のきっかけに
ISO/TS 22163の導入は、現場のアナログ体質からの脱却、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進にも大きな意味を持ちます。
規格の要求事項には、記録の電子管理やデータの可視化、継続的改善プロセスが盛り込まれています。
この取り組みが、紙や人手頼りからの脱却・工程の自動化の第一歩として機能するでしょう。
現場感覚で見るISO/TS 22163の導入メリット
トップダウンだけでなく現場主導で変わる
多くの経営者は、認証取得=バイヤー通過点、と捉えがちです。
しかし、本質は現場の改善活動です。
ISO/TS 22163は、作業標準や業務プロセスを「現場が本当に動かせる」設計に仕立てる鍵となります。
現場主体のルール定着が、カイゼン文化の推進力になります。
取得が困難な理由と乗り越え方
正直に言って、ISO/TS 22163の取得は簡単ではありません。
とくに中小サプライヤーや従来のやり方に固執する組織では、工程管理や記録管理のハードルが高く感じます。
しかし、現場全員で“なぜ必要なのか”を腹落ちさせ、日々の仕事にフィットするやり方を探ることが重要です。
例えば、既存のアナログ記録をデジタル化するにも、まずは帳票の簡素化やデータ記入項目の整理から始めるのも現実的です。
取得後の価値を最大化する「つなぎ」役
取得だけで満足してしまうと、往々にして「帳票記入」「報告資料作成」といった事務作業が肥大化しがちです。
しかし、製造現場とバイヤー、品質部門と開発・設計、国内と海外拠点の“つなぎ”として機能させることで、現場改善が定着します。
ISO/TS 22163を“使える規格”に昇華するには、横串を刺したコミュニケーションと現場のフィードバックが不可欠です。
サプライヤーから見た「バイヤーの要求」とISO/TS 22163
サプライヤーの立場から見ると、「バイヤーがISO/TS 22163にこだわる理由が分からない」「コスト増につながるばかり」と戸惑うケースもあるでしょう。
しかしバイヤーの本音は「安定した品質」「トラブル時のトレーサビリティ」「事故防止」の三点に集約できます。
ISO/TS 22163を理解・運用することで、バイヤーの要求水準を満たすだけでなく、受注案件の幅を広げたり、長期的な信頼関係を構築したりすることができます。
とりわけ、IRIS Portal(国際標準化された監査・認証情報の共有システム)の活用が広がれば、業界全体の透明性が向上し、優れたサプライヤーが正当に評価される土壌も整っています。
バイヤーを目指す人にとってのマスト・ナレッジ
これからバイヤーを目指す製造業関係者にとって、ISO/TS 22163の知識は“必須スキル”です。
単なる調達管理・コスト折衝だけでなく、現場の品質向上・工程改善・DX推進にまで目配りできるバイヤーが、今後ますます求められます。
バイヤーとして重要なのは、規格要求の字面をなぞるのではなく「本当に現場が変わったか」「工場の安全性・信頼性が高まったか」を批判的・建設的に評価することです。
また、サプライヤー選定においても、表面的な認証取得数ではなく、実際の運用状況や改善活動にも注目してほしいところです。
現場目線の「これからの製造業」へのヒント
ISO/TS 22163をきっかけに、鉄道産業の現場も“昭和の延長”から“新しいモノづくり”への転換点を迎えています。
例えば現場DX(デジタルトランスフォーメーション)やIOT、トレーサビリティ強化、工程の自動化といった動きは今後無視できない潮流です。
一方で、伝統的な現場ノウハウや強固なチームワーク、熟練工の「見える化できない技術」も大きな財産です。
ISO/TS 22163は、アナログ業界でも十分に根付く規格であり、むしろ現場の強みを引き出すための“羅針盤”として位置づけることができます。
まとめ:ISO/TS 22163で鉄道産業はどう進化するか
ISO/TS 22163が鉄道産業で重視される理由は、品質と安全への飽くなき追求、グローバル化対応の必然性、サプライチェーン全体の信頼や効率性といった視点があります。
実務として現場感覚を大切にし、アナログ現場にも柔軟にフィットさせつつ、現実的なDX・工程改善と融合を進めていくことが、これからの競争力強化に直結するのです。
本規格を単なる“取得するだけ”の目標に終わらせず、バイヤー・サプライヤー双方が本当に価値を感じる「現場改善のインフラ」として活用することこそ、鉄道産業の未来を切り開く鍵となります。
製造業のすべての現場に、そして、これから鉄道産業を志す方々に、ISO/TS 22163の真価をぜひ実感してほしいと思います。