地方製造業で「人が足りない」が口癖になる理由

はじめに—地方製造業の慢性的な人手不足とは

皆さんの身の回りやニュースでも「地方の製造業は人が足りない」という声を耳にしませんか。

私も現場で長年働く中で、「人が足りない」という言葉が合言葉のようになっている会社や工場を数多く見てきました。

なぜ地方製造業では、これほどまでに人手不足が声高に叫ばれるのでしょうか。

それは単なる人口減少や高齢化の問題だけでは語り尽くせません。

この記事では、昭和から抜け出せないアナログ業界の現実も織り交ぜつつ、なぜ「人が足りない」という状態が当たり前になってしまうのかを深掘りしていきます。

また業界全体としてどんな解決策が模索されているのか、そして今後求められる「人材」とは何かについても考察します。

製造業従事者はもちろん、バイヤーやサプライヤーの方々もぜひ現場目線で読んでいただき、今後の業界発展のヒントとしていただければ幸いです。

地方製造業で「人が足りない」が口癖になる根本原因

人口動態の変化と都市への人口流出

地方都市における人口減少と高齢化は、よく挙げられる理由の一つです。

若い人材の多くが進学や就職をきっかけに都市部に流れ、そのまま戻ってきません。

その結果、地元工場では新卒採用はもちろん、中途採用も難しくなります。

人材を増やしたくとも、そもそも応募者自体が少ないのです。

仕事内容と評価制度の“昭和的”体質

地方の多くの製造現場では、いまだに昭和的な働き方が色濃く残っています。

「とにかく現場に人を配置して動かす」「厳しい上下関係や根性論」「長時間労働や残業が当たり前」といった風土です。

給与やキャリアアップの仕組みも明確でないケースが多く、「やりがい」や「成長」を求める若手が定着しづらいのが現状です。

業務が属人的、マニュアルが不十分、仕事の引き継ぎも口頭中心という職場も珍しくありません。

デジタル化や自動化の波に乗り遅れ、「効率化」より「人海戦術」を優先する会社は、ますます人が足りなくなっていきます。

地方ならではの賃金格差と通勤事情

都市部に比べて賃金水準が低く、しかも公共交通の便が悪い地域では、通勤のハードルも高いです。

地元以外からの人材流入も期待できず、結局は既存社員に仕事が集中し、「人が足りない」「誰か採ってくれ」と愚痴がこぼれてしまうのです。

人手が足りないと口にする“クセ”の正体

これらの要素が複雑に絡み合うことで、もはや「人が足りない」と言うことが“常態化”してしまいます。

場合によっては、本気で人手不足の抜本策を考える前に、言い訳としてこの言葉を多用するクセが組織全体に染みついてしまっているのです。

人手不足時代の現場—その深層心理に隠された本当の課題

では、本当に「人が足りない」という一言だけで片付く問題なのでしょうか。

現場を20年以上経験した立場から言わせてもらうと、答えはNOです。

“人員補充”への過度な依存体質

現場が困ったとき、最初に発想するのは「人を増やせば何とかなる」という手法です。

これは、過去の成功体験から生まれている発想です。

人が豊富にいた高度経済成長期やバブル経済時代には、「猫の手も借りたい」ほど現場に人を入れればスピードも質も上がりました。

しかし、いまは時代が違います。

単純に人を増やすだけでは、課題は解決しません。

“今ある仕事”を見直さない業務設計

人手不足の本質的な背景には、業務そのものの生産性向上が進んでいないという問題があります。

今まで通りの業務をそのまま増やして「人を配置すればOK」というやり方では、価値の低い作業ばかりに人材が取られ、本当に重要なコア業務にパワーが掛けられません。

「人が足りない」と言う前に、そもそも本当に今ある作業は全部必要なのか、システム化や自動化で減らせるものはないか、業務設計を根本から見直す必要があります。

人材育成・技能継承の遅れ

地方の現場は属人的な技術・ノウハウによって支えられていることが多く、体系的な人材育成や技能継承の仕組みが不十分です。

先輩が辞めたり急病になると、「あの人しかできない仕事」がストップしがち。

その結果、穴を埋めるために「とりあえず人を入れる」→「育成が間に合わない」→「人が足りない」と嘆く悪循環に陥りやすいのです。

アナログ業界でも根強い「人手不足」の根底にある昭和文化

なぜデジタル化が進まないのか

「人が足りない」と叫ばれる現場ほど、意外にもアナログ業務が色濃く残っています。

紙の書類や手書き伝票、エクセル台帳、口頭やFAXでの情報伝達が主流です。

理由は「今までコレでやってきたから」、「新しい仕組みは難しそう」「ITに投資する余力がない」といった保守的な文化が強いからです。

こうした風土は、ちょっとした異動や定年で仕事がブラックボックス化しやすく、人的ミスも増やします。

人が不足しているのに、「仕事のやり方」を変える勇気や労力を惜しむのも昭和的な特徴です。

“顔が見える取引”にこだわる故の非効率

長年の顔なじみのサプライヤーとの商習慣や、バイヤーの現場判断の重視など、良くいえば「ローカルな信頼関係重視」が根強いです。

しかし、その分だけ全国的な調達網を駆使した高度な最適化や、戦略的購買活動が遅れがちです。

「前例踏襲」「保守的」「変化を避ける」——こうした文化こそが、人手不足を“慢性的に口癖にする”根底なのです。

バイヤーやサプライヤーの立場から見る「人が足りない」の本音

調達戦略と現場課題のギャップ

バイヤーの目線に立てば、サプライヤーから「人が足りなくて納期が厳しい」と言われるのは日常茶飯事です。

そのため、納期回答には常にリスクヘッジや余裕を持たせる必要があります。

しかし欧米の先進的なバイヤーは、サプライヤーと共に業務効率化や自動化を支援し、人手不足の根本原因を共創しています。

一方、日本では「納期調整」や「追加発注」で人手不足を都度場当たり的に解消しようとしがちです。

サプライヤー側も、単に「人が足りません」と泣きつくだけでは信頼を損なう危険性があります。

現場発の改善提案がサプライヤーの武器に

人手不足が常につきまとう地方製造現場ですが、だからこそ「現場レベルの小さな効率化の積み重ね」や「デジタルへの一歩」が強みになります。

本質的な現場改善のアイデアを自社やサプライヤー側から提案できれば、バイヤーとの信頼も深まり、Win-Winの関係が築けます。

人が足りないを嘆くだけから抜け出す“新しい地平線”

業務の棚卸しと役割最適化

「人が足りない」という口癖から抜け出すための第一歩は、現状の業務内容を徹底的に棚卸しすることです。

どの作業が価値を生むコア業務か、どこに無駄や重複があるか、絶えず見直しましょう。

自動化や外部委託できる部分、現場の意思決定を分権化できる業務なども洗い出すことが大切です。

積極的なデジタル化とスキルアップ

難しいことを一気にデジタル化しようとせず、まずは「目の前の紙伝票をやめる」「作業指示をスマホで共有する」など、現場に刺さる“ちいさなDX”から始めましょう。

経験が浅くてもデジタルに強い若手とベテランをペアにしたチームを作り、知恵を出し合うスタイルも効果的です。

役割の見直しとデジタル化を両立させれば、少数精鋭でも高効率な現場運営が可能になります。

外部連携と多様な働き方の推進

地元の学校や異業種との連携、リモートワークや短時間勤務、シニア層・女性人材の積極登用など、今まで「できない」と思い込んでいたことにも挑戦を。

意外なところに“新しい人材”や“業務の担い手”が存在します。

変化に強いマインドセットの醸成

最後は個々の意識変革が重要です。

「人が足りないからできない」ではなく、「いま居るメンバーと、今ある資源でどうすればできるか」と発想を転換しましょう。

これこそが、AIや自動化で問われる“これからの現場力”です。

まとめ—「人が足りない」が変わる未来へ

地方製造業に「人が足りない」が口癖になっている理由は、単なる人材の数だけでなく、業務の最適化や評価制度の遅れ、昭和的な文化や変化への抵抗など複雑な要因に起因します。

本気でこの慢性化した言い訳体質から脱却したいなら、現場主導で「やらない仕事」を増やし、業務を見直し、積極的なデジタル化と多様な働き方に挑戦することが求められます。

サプライヤーやバイヤーの立場であっても、現場起点の課題解決や改善提案はますます重視されるでしょう。

これからは「人が足りない」を嘆く口癖を、「どうすれば少数で最大の成果を出せるか」という強みへと変えていくことが、新しい製造業の価値創造につながると確信しています。

読者の皆さんの現場が、もっと働きやすく、創造的な価値を生み出す場所になることを心から応援しています。