物流担当が実は“会社で最も多くの工程を知る”存在である理由

物流担当が実は“会社で最も多くの工程を知る”存在である理由

はじめに：物流担当の役割に光を当てる

製造業における「物流担当」と聞くと、多くの方が“出荷や在庫管理の担当者”といったイメージを持たれるのではないでしょうか。
実際、物流部門は製品を倉庫から出荷し、トラックやコンテナを手配する現場作業が主な仕事に見えがちです。

しかし、多くの企業の内部に目を向けると、物流担当は伝票を運ぶ裏方や“ひたすら指示通りに物を流す人”ではありません。
むしろ、サプライチェーン全体を俯瞰し、複雑に絡み合う各工程の調整役を担っている、いわば「会社の心臓部」ともいえる存在です。

この記事では、物流担当がなぜ“会社で最も多くの工程を知る存在”となるのか、その理由と実態を、製造現場のリアルな視点から解き明かします。
また、バイヤーやサプライヤー視点で物流担当と連携する際のポイントも紹介します。

物流の枠を超える「モノの流れ」すべてに目を光らせる役割

物流部門の基本的な役割は、入荷・在庫・出荷・配送に関連する実務です。
しかし、実際の現場では以下の点で製造の全工程と密接な関りを持っています。

1. 生産計画や納期調整に直接関与する
2. 調達や購買担当と連携し部品・資材の在庫状況を把握
3. 営業や顧客からのニーズに基づいた物流戦略を立てる
4. 現場作業者や品質管理部門とも情報共有し、欠品トラブルや品質クレーム発生時のリスク回避を構築
5. 外部委託先（サプライヤー、物流業者）との調整ハブとなる

物流担当は単なる「モノの運び屋」ではなく、工場内外で生じるすべての調達・供給・生産・納品のプロセスに通じています。
だからこそ会社全体の「工程全掌握」に一番近い立場なのです。

製造業現場でのリアル：物流担当者が知るべき5つのポイント

物流担当は下記5つの観点で全社横断的に業務を遂行します。

1. 調達と購買部門の動き

原材料や部品をいつ、いくらでどこから調達し、在庫をどのタイミングで補充するかは、物流担当が現場と計画・調整を重ねています。
昨今のサプライチェーンリスクや半導体供給問題など、業界の大きな波を一早く現場へ落とし込む役割も担っています。

2. 生産現場・工場との密接な連携

生産ラインで必要なモノ、納期変更、作業遅延、突然の機械停止——こうした変動に最も敏感に反応しなければいけないのが物流担当です。
生産計画や進捗会議に参加し、正しい情報を全体に流すことでラインの安定稼働を陰で支えています。

3. 品質保証部門との橋渡し

不良品やリコール発生時には、どこから・どれだけ問題製品が流れたのかを最速でトレースする必要があります。
各工程、各拠点の動きを“俯瞰”で追いかけるには、工程間の移動を全て把握している物流担当が最も頼りにされます。

4. サプライヤー・協力会社との取引

外部の物流会社や協力工場と日常的に直接コミュニケーションをとっているため、契約書にないイレギュラーや現場トラブルへも臨機応変に対応します。
取引先ごとの事情・クセ、人間関係まで熟知しているのは現場目線で動く物流担当ならではです。

5. 社内外の情報ハブ

オーダー変更、客先要望、急な運行遅延や伝票誤記載など、日々発生するイレギュラーを調整・吸収できるのは、現場・事務所両方の動きを熟知した物流担当です。
だから、会社の現場・間接部門すべての動きを見渡せる数少ない存在となります。

アナログ業界ならではのローカルルール・暗黙知の把握力

製造業では今でも“昭和のアナログ文化”やローカルルールが色濃く残っています。
例えば「○○部品は最終日に手配するのが暗黙の了解」「△△ラインだけは搬入順序を逆にする必要あり」など、現場でしか知り得ない情報（暗黙知）が多数存在します。

デジタルシステムが普及した現在も、リーダーやベテランが“空気を読む”ことで場をおさめている現場も少なくありません。
こうした「属人的ノウハウ」を体系立てて記憶・実践しているのが物流担当です。

物流担当が最強のプロジェクトマネージャーたる理由

会社の大小を問わず、プロジェクト推進や効率化、DX（デジタルトランスフォーメーション）などの新しい波に真っ先に晒されるのが物流部門です。
工程間の隙間を埋め、現場の納得感を持って円滑に新システムや新ルールへ移行する際も、物流担当の“現場調整力”は不可欠です。

たとえば工程変更や新しい自動仕分けシステム導入など、大きな転換点でも物流担当が実務レベルのボトルネックや人間関係、細かなリスクを察知して全体最適に落とし込みます。

経営トップ・工場長・購買担当・生産現場・外部協力会社の「調整役」を一手に引き受けるこの役割は、まさに「全社を知る最強のプロジェクトマネージャー」と呼べるでしょう。

バイヤーやサプライヤーが知っておきたい物流担当の“思考回路”

サプライヤーやバイヤー、営業担当者は、物流担当者とのコミュニケーションを「現場都合に振り回される」と感じることがあるかもしれません。

しかし現場の物流担当は、会社全体のリスクやムダを最小限に抑えつつ“全体最適”を目指しています。
以下のような視点で動いていることを知ることで、双方の連携がスムーズになります。

• 納期厳守の背景には、生産現場の段取りや他工程への影響を最小化したい思いがあること
• トラブル時やイレギュラー発生時も、根本原因を探り全体最適で改善しようとしていること
• 単なるコストカット以上に「現場の安全・品質・効率」を守る使命感を持っていること
• 現場目線と経営視点を両にらみで調整している“橋渡し役”であること

サプライヤーの立場から見ても、物流担当と十分に信頼関係を築き、現場情報をタイムリーかつ正確にキャッチアップすることで、商談や連携のミスを未然に防ぐことができます。

これからの物流担当に求められるスキルとは

従来から重要視されてきた「現場調整力」や「知識の幅広さ」に加え、これからの物流担当には次のような力が求められます。

1. デジタル活用力：IoTやAI、SCMシステムなどを使いこなし、現場の可視化・最適化を進める
2. グローバルな調整力：海外サプライヤーや現地法人など、多様な文化・時差を踏まえた対応力
3. リスクマネジメント：災害や感染症、社会情勢変化によるサプライチェーン断裂への即応力
4. ロジカルシンキングと現場感覚の両立：数値分析と現場観察、両方を重視した意思決定ができるバランス感覚

このように、物流担当は今後ますます“会社の全体を知る戦略的ポジション”となっていきます。

まとめ：物流担当をただの裏方で終わらせてはいけない

物流担当は会社の隅々まで目を配る“縁の下の力持ち”であり、全ての工程を横断的に調整・連携できる唯一無二の存在です。
サプライチェーンが複雑化し、現場のアナログ的なノウハウとデジタル改革の両輪が求められる今こそ、物流担当の総合力が組織の競争力そのものになります。

製造業でバイヤーを目指す方、またはサプライヤーの立場からバイヤーのニーズを理解したい方も、ぜひ物流担当との連帯を強化しましょう。
会社を俯瞰し、現場の声を聞き、“変化”を生み出す原動力となる、そのキーマンが“物流担当”なのです。