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不良率が下がっても顧客満足が上がらない理由

目次
はじめに:現場経験から見える「品質」と「顧客満足」のギャップ
製造業で長年働いていると、品質こそがすべてだという空気が現場には充満しています。
なぜなら、「不良率ゼロ」=「最高品質」=「顧客満足」だと信じてきた時代が長かったからです。
しかし、現代の製造業では「不良率を下げる=顧客満足が上がる」とは言い切れません。
長年現場に身を置き、多くのバイヤーやサプライヤー、さらには一緒に汗を流した仲間たちの声に耳を傾けてきた私の経験から、その理由を紐解きます。
なぜ「不良率」が下がっても顧客満足が上がらないのか?
品質とは「出来栄え」だけではない
まず誤解しがちなポイントが、「品質」とは「不良の有無」だけを指しているわけではないということです。
もちろん、製品が壊れていたり、仕様から逸脱していれば顧客は満足しません。
ですが、たとえば仕様を守った製品であっても、納期が遅れては顧客は困ります。
「正しい商品が、約束のときに、約束の形で届くこと」が現代の「品質」であり、単なる不良率だけではそのすべてをカバーできないのです。
誰の満足を目指しているのか?
品質管理の現場では不良率低減がKPI(重要業績評価指標)になりやすいです。
これは当たり前のことですが、実はこれが落とし穴でもあります。
製造現場が「検査を厳しくする」「些細な傷一つでもはねる」ことで不良率が下がったと数字は出ます。
しかし、結果として「納期の遅れ」や「現場負荷の増大」「コストアップ」が誘発されるケースもあります。
また、“使いやすさ”や“サポート体制”は改善されず取り残されることが多いのです。
顧客が本当に求めているものは何か?
昭和から続く「作れば売れる」時代は完全に終わりました。
今、顧客が求めているのは製品自体の品質だけでなく、「安心」「信頼」「迅速さ」「柔軟な対応」「適切なコスト」といった総合的な価値です。
高品質は当たり前、それ以外の部分でどれだけ満足度を押し上げられるかが差別化のポイントになっています。
現場目線から考察する「顧客満足」とは
1. バイヤーは「リスクのない調達」を求めている
バイヤーがサプライヤーに本当に望んでいるのは「不良がない」だけではありません。
「不具合が万一発生した際の対応」「トレーサビリティの速さ」「納品トラブルの未然防止」といった“安心して調達できる仕組み”です。
たとえば、自動車産業では一つの不良部品で数万台のリコールが発生するリスクを常に考えています。
このとき、現場が「不良ゼロ」に躍起になっていても、サプライチェーン全体を俯瞰して動けるメーカーでなければ評価されません。
2. コスト・リードタイムとのバランスがカギ
不良率を極限まで下げることは可能です。
ですが、そのために「生産工程を増やす」や「検査工程を増やす」といった対応をすると、今度は納期遅延やコスト高につながります。
バイヤーの立場からすれば、過剰品質は「無駄なコスト」と映る場合も多いです。
共にサプライチェーン価値を最大化する“パートナー”であるなら、適正品質でスピーディーに、そしてコストも無視できません。
3. コミュニケーションと透明性で信頼構築
サプライヤーの現場経験者でしか気づかないことですが、「現場の声が顧客に伝わらない」ことは非常に多いです。
たとえば、微細な仕様変更や急な注文変更に素早く柔軟に対応できるか。
トラブルが起きたとき正直に正確な情報を迅速に伝える透明性があるか。
このコミュニケーション力の差が、中長期的な顧客満足に直結するのです。
実践:昭和型アナログ現場における顧客満足向上策
マニュアル偏重では満足度は高まらない
多くの工場では、“手順書通り”に動くことに熱心です。
もちろん不良を減らす意味では効果がありますが、AIやIoTの活用が進む今、マニュアル偏重型組織は変革が求められています。
顧客は、標準化だけでなく“臨機応変な対応”や“現場力による価値創出”を評価します。
現場スタッフが「なぜこのルールが必要か」「顧客はどんなことを困っているか」を理解するための教育が重要です。
「見える化」と「現場発信」の仕組み作り
実際の現場で有効だったのは、「進捗管理」「納期リスク」「不具合発生時の再発防止策」などの定量的データと、現場の生の声をタイムリーに見える化するITツールの導入です。
これにより、顧客から「何かあってもすぐ分かる」「対応が早い」「ウソをつかない」という信頼を得やすくなりました。
アナログ産業でも、ホワイトボードや日報だけでなく、できることからデジタル化し、現場発信の文化を根付かせることが大切です。
現場/製造スタッフが直接顧客を知ることの重要性
製造現場ではよく「うちはバイヤーと直接やり取りしない」という慣習があります。
ですが、現場スタッフが「どんな顧客が、何を困っているのか」を肌で感じることが、結果として製品・サービス改善につながります。
バイヤー・エンドユーザーの声を技能伝承の一部として現場に伝える工夫をすると、顧客満足度は確実に上がります。
今後求められる「品質管理」の新たな地平線
ロボット化・自動化だけで良いのか?
生産工程の自動化やAI適用が急速に進む中で、「不良率自体」は劇的に改善する事例が増えています。
しかし、それだけで顧客満足を向上できる企業は一部です。
むしろ自動化によってスタッフの「考える習慣」が失われれば、イレギュラーなトラブルや顧客要望に迅速に対応する力が下がり、かえって満足度が下がるケースもあるのです。
品質保証部門とマーケティング・営業部門の連携
現場では「品質保証=生産部門の指導」だけになりがちですが、これからは後工程(顧客)からの声、生の市場クレーム情報を品質保証にフィードバックし、“プロセス保証”から“顧客体験保証”へのパラダイムシフトが必須です。
営業部門やバイヤーと定期的な情報交換をする仕組み作りが、現場力と競争力の両立には不可欠です。
バイヤーサイドと「Win-Win」の関係づくり
バイヤーは単なる「買い手」ではありません。
良いものを“速く”“コストを抑えて”仕入れる使命を背負ったプロです。
サプライヤーとしては、価格競争だけでなく「納期リスクをどう最小化できるか」「トラブル時のバックアップ体制」なども含め、パートナー的な提案力を磨く必要があります。
表面的な不良率改善ではない、総合的な価値を共有できる体制がこの業界での差別化ポイントとなります。
まとめ:現場発のラテラルシンキングで新しい地平線を切り拓く
伝統的な製造現場ほど「不良率」を悪者にしがちです。
しかし、時代は大きく変わっています。
どれだけ仕組みや技術を磨いても、「顧客が何に困っているのか」を想像し、誠実かつ柔軟に対応し続ける現場こそが、長い目でみれば最も愛される存在となります。
バイヤーを目指す方、サプライヤーの方、現場で汗を流す方。
それぞれの立場で“真の満足”とは何かを考え、現場の力を最大限に発揮しましょう。
何よりも、現場からラテラルシンキングを発展させ「不良率低減以外の価値創出」で、“新しい製造業の地平線”を一緒に切り拓いていきましょう。
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