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海外顧客は“現場の生の情報”を求める理由と共有方法

目次
はじめに:グローバル化が進む製造業と情報の質
グローバル化が加速するなか、海外顧客からの要求は年々厳しく、かつ多様化しています。
以前は「カタログスペック」や「納期」などの数字が重視されていましたが、今やお客様の目は“現場の生の情報”に向いています。
なぜ現場の情報がこれほどまでに求められるのでしょうか。
そして、こうした現場情報をいかに正しく、効率良く共有できるのでしょうか。
本記事では、大手製造業で培った実地経験を踏まえ、経験者ならではの視点からその理由と具体的な情報共有手法を解説します。
サプライヤー・バイヤー双方の立場での着眼点もご紹介します。
なぜ今「現場の生の情報」が注目されるのか
背景1:グローバル調達の拡大と信頼構築
90年代以降、世界規模でサプライチェーンが複雑化し、多拠点調達が主流になりました。
海外顧客は言語や文化、商習慣の壁を越えて製品や部材の調達を行うため、「現地工場の実状」が見えづらいという課題を抱えています。
そのため“現場からの生の声=一次情報”を直接知ることができれば、調達リスク低減やクレーム防止の上で大きな安心材料となります。
背景2:“見える化”による品質担保
多くの品質問題は「報告されている内容」と「実際の現場」のギャップから起きています。
海外顧客にとっては、“現場の生の情報”をシームレスかつタイムリーに受け取れるかどうかが、品質・コンプライアンスリスク防止の鍵です。
また、規格や法規制が国ごとに異なるため、現場対応の柔軟性に関する情報も重視されます。
背景3:デジタル化とデータの信憑性
IoT技術やスマートファクトリーの登場で、客観的な現場データ(温度・稼働率・設備稼働ログなど)の共有が可能になっています。
しかし、導入だけでは意味がなく、現場での肌感覚やイレギュラー発生時のリアルな対応など“人間の視点”としての生情報も同時に要求されるケースが増えています。
日本の製造業が直面する「アナログ壁」
日本の製造業は、「現場勘」や「ベテラン職人の肌感覚」を重視し、“紙・FAX・電話”の文化が今なお根強く残っています。
これが海外顧客との情報共有の障壁となっています。
なぜ壁が生まれるのか
・言語の壁(英語力不足と、現場担当者の海外対応未経験)
・情報伝達手段が分散(エクセル台帳、紙伝票、現場ホワイトボードなど)
・責任所在や情報の属人化
・「失敗は隠すもの」という昭和的な風土
この「アナログ壁」をどう乗り越えていくのかが、日本発サプライヤーの勝ち筋といえるでしょう。
「現場の生の情報」とは具体的に何か?
5つの現場情報カテゴリ
1.生産現場の稼働状況
設備の稼働率、ライン停止理由、日々のトラブル発生件数と対策内容など。
2.品質に関する一次データ
工程内異常発生履歴、検査成績書、生産ロットごとの不良内訳、画像データ。
3.納期・リードタイムの変動要因
急な人員減少や材料遅延、仕入先トラブルなど“予定外”の事象への対応力。
4.サプライチェーンリスク管理
自然災害、感染症流行、政情不穏時のBCP=継続計画と現場即応体制。
5.現場PDCAと改善活動
5S・カイゼン実績、新人教育・OJTの進み具合、改善提案例の可視化。
こうした情報は、全て「机上」や「仕様書」には現れてこない、リアルタイムな現場の“血の通った”証拠です。
現場目線ならではの付加価値とは
現場作業者のコメントや気付き、ベテランの経験則・リスク予知、たとえば“明日から急に暑くなるから寸法変動に注意”といった的確な現地情報。
これらを発信できるサプライヤーは、海外顧客から信頼されやすく、「この会社はきちんと現場と向き合っている」という評価に繋がります。
海外顧客は何を期待しているのか?バイヤーの心理に迫る
“透明性”と“即時性”への期待
・「何かあればすぐに教えてくれ」
・「言われる前に事前に説明してほしい」
・「数字だけでなく、現場の空気感も知りたい」
これがグローバルバイヤーの共通した本音です。
「悪い情報こそ価値になる」、これを理解している海外バイヤーの多くは、“すぐ連絡が来るサプライヤー”を高く評価します。
生産の“現場経験値”を重視
顧客側の担当者も“ものづくり”現場を知るバイヤーが増えています。
そのため、机上の説明より、現場作業員の具体的なコメントや動画、運用の工夫に興味を持ちます。
どうやって「現場の生情報」を伝えるか?実践的な共有方法
1.定期的なレポート共有
週次・月次など定期的に、現場リーダーのコメント付きで「稼働報告」や「不良発生履歴」をまとめて共有します。
メールではなく“オンラインダッシュボード”や“クラウドストレージ”を活用し、必要に応じて英文化します。
2.動画・写真・現場ライブ中継
「百聞は一見に如かず」です。
製品の出来栄え、検査方法、改善事例などは、短い動画や写真を付けて送信することで訴求力が増します。
また、TeamsやZoom活用で“現場ライブ中継”を実施することで、顧客現場からのその場質問にも即答可能です。
3.オンライン工場見学・リモート監査
現地訪問が難しいバイヤーでも、リアルに現場を「歩いているような体験」ができるオンライン工場見学会は有効です。
監査チェックリストに沿ったリモートリアルタイム監査も仕組み化すれば競争力となります。
4.トラブル・異常時のリアルタイム報告
予定外の設備停止、材料遅延、新規不具合発生などは、速報性が何より大切です。
「メールでの速報」「関係者チャット」「自動化ダッシュボードでの自動アラート」など、複数の手段を組み合わせることで取りこぼしを防ぎます。
5.現場改善・KPIの定量/定性データ共有
“5S活動”や“現場改善の成果”は、写真や日報、月例報告などで「この現場は進化し続けている」ことを可視化します。
また、現場のミニKPI(例:作業者の提案数、不良検出までの時間短縮など)を定量化し即時共有できる体制を整えましょう。
現場情報の伝達を阻む壁と、その突破策
突破策1:現場DX推進と「双方向」チャネルの確立
単なるエクセル送信、紙資料のスキャン送付だけでは“生の情報”にはなりません。
IoTシステムやMESデータ、または現場作業者から直接情報を吸い上げるモバイルアプリやチャットボットの活用が有効です。
また、顧客から現場への「逆質問」や「現地フィードバック」も受けられるチャネルを用意しましょう。
突破策2:現場教育とマインドセットの変革
「情報は隠さず公開してこそ価値」という認識を現場作業員・管理監督者レベルまで徹底する必要があります。
リスクを恐れず、悪いニュースでもこまめに共有することが「評価基準」になることを周知します。
現場の声を可視化することで、個人のモチベーション向上や一体感も高まります。
突破策3:多言語・多文化対応の強化
現場情報の“英語化”や“多言語展開”は必須です。
自動翻訳+ダブルチェック体制、現場作業指示書やレポートの多言語サンプル蓄積など、汎用的な仕組みを構築しましょう。
また“文化ギャップ”に配慮した情報発信(例:曖昧な表現を避ける、数値で示すなど)も不可欠です。
まとめ:生の現場情報は付加価値――製造業の未来づくりへ
製造業において、「現場の生の情報」は今や重要な競争軸となっています。
海外顧客は、単なるカタログスペックではなく「現場がどう考え、どう工夫しているか」「問題発生時にどんな対応ができるか」といった“体温のある情報”を強く求めています。
これをきちんと発信できるかどうかが、選ばれるサプライヤーと淘汰されるサプライヤーの分かれ道かもしれません。
デジタル技術も積極的に活用しつつ、“アナログの現場勘”“職人技”も付加価値として発信する。
令和のものづくりに必要な現場発の情報共有こそ、サプライヤーが世界で勝ち抜くための新たな“武器”となるはずです。
ぜひ、現場の一人ひとりが情報発信者として、一歩前に踏み出してほしいと思います。
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