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人手不足を解消したはずなのに残業が減らない現象

目次
はじめに:人手不足を補ったのに、なぜ残業が減らないのか
人手不足は、今や日本の製造業を取り巻く大きな問題です。
各社は新たな人材の獲得やアウトソーシング、場合によっては業務自体の見直しなど、さまざまな打ち手を講じてきました。
一見すると「人手不足解消=残業も減少」と考えられがちですが、現場では期待どおりには進まず、「人手は増えたはずなのに、なぜか残業は減らない……」という現象が多発しています。
これはなぜなのでしょうか。
20年以上、工場現場や調達、バイヤー・サプライヤー管理などに携わってきた実体験から、深く掘り下げて考えてみたいと思います。
よくある「人手不足解消」の実態と現場のズレ
人数補充だけで効果が出るとは限らない
まず、現場への補充が「単なる頭数の補完」だけになっているケースが多々見受けられます。
ベテランが抜けた穴を新人や短期間で育った人材で埋めても、スキルやノウハウの伝承が追いつかず、結局ミスが増えたり、作業効率が下がり、本来なら短時間で終わる作業に余計な工数がかかってしまう。
例えば、ラインリーダーが「マンパワーは揃ったけど、あの人がいないと夜遅くまで片付かない」と嘆く現場には、必ずといっていいほどこの歪みが見られます。
業務自体が「昭和的アナログ運用」のまま停滞している
もう一点、製造業特有の「アナログ慣習」が疲弊の輪を広げています。
紙伝票やExcel運用を主軸とした工程管理、帳票への手書き記入、膨大な承認フロー……。
こうした非効率なレガシー業務は、人手を増強したところで劇的に労働負荷は軽減されません。
多くの現場で「作業自体は機械化できても、周辺のアナログ作業や調整は人頼み」のまま残業の温床となっています。
バイヤー・サプライヤー視点で見る「残業の伏線」
調達・生産計画の精度が低い=現場にシワ寄せがくる
バイヤーや調達担当の方であれば、材料や部品の納期調整や手配の難しさを痛感されているのではないでしょうか。
発注元の計画が急変すれば、最終的に工場現場で無理な突貫作業・夜間作業が発生します。
また、生産管理側から十分なリードタイムやロスの見込みが提示されていない場合も、多かれ少なかれ「見えない残業」が発生するのです。
これは単に現場の仕事量だけでなく「手配ミス→やり直し→追加発注→確認作業追加」といった二重三重の工数増加が隠れています。
サプライヤー側の「バイヤーの本音を読む力」の不足
サプライヤー側は「納期通り・品質通りに出荷すればOK」と受け取りがちですが、実態としてバイヤーがどこを重視し、どこで融通を利かせて欲しいと思っているかを深掘りできていない事が多いです。
例えば、「急な生産計画変更にもある程度柔軟に応じてほしい」といったサインを見落とすと、後から現場が自分たちの責任で無理な工程を吸収しようとし、結局そのしわ寄せが残業というかたちで表面化するのです。
なぜ現場は「常に自分たちで帳尻を合わせようとする」のか
現場文化と意識の壁
日本の製造業の多くは「ムダな残業はだめ」と言いながらも、現場に根強い「サービス残業・自己犠牲の精神」が残っています。
とくに昭和〜平成初期に根付いた「現場の困りごとは現場で何とかする」という文化は、いまだに多くの作業現場で色濃く続いています。
本来は上流設計や管理側の仕組みで回避できる問題も、現場がなんでも受け止めて“無理を通す”ことで現実をしのごうとし、その疲弊が慢性残業状態を生んでいるのです。
変革を阻む“見えないハードル”
また、変革を試みようとすると、現場では「何かトラブルがあったときの責任は誰が取るのか」という心理的な壁にぶつかりがちです。
役割分担が曖昧な職場ほど、「誰でもできる手順より、俺がやったほうが早い」「細かい作業はみんなの阿吽の呼吸でやったほうが楽」という昭和のやり方に包摂され、改善が進みません。
この構造こそが、人数を増やしても残業が減らない根本的な問題なのです。
生産管理・工程設計から見える本質的な解決アプローチ
部分最適化から全体最適化への転換
多くの企業では「どこが一番ボトルネックになっているのか」を正確に把握せず、局所的にリソース(人員・時間)を投下して問題の先送りを繰り返しているケースが目立ちます。
例えば、組立ラインの人員を増やしても、検査工程の待ちや材料の遅配などが解消されなければ、実質的な残業は依然として発生します。
ここで大切なのは、サプライチェーン全体を俯瞰して「どの業務フローに無理・ムダ・ムラがあるのか」を可視化し、全体最適の視点で根本解決を図ることです。
IT化・自動化だけでなく、プロセス自体の再設計が必要
DX(デジタルトランスフォーメーション)の流行で、ERPやMESといった生産管理システムを導入する企業は増えています。
しかし、昔ながらの無駄な紙・手作業のままシステム化だけ進めても現場の残業は減りません。
現場の誰が、どの情報を、どのタイミングで扱っているかを棚卸し、「やらなくて良い仕事」「システムで代替できる仕事」をそぎ落とすことが不可欠です。
そのうえで、現場の運用実態に合わせてプロセス自体を再設計することが、真の意味での「人手不足解消+残業削減」への近道になります。
現場・サプライヤー・バイヤーをつなぐ『対話の場』の重要性
リアルな現場の声をボトムアップで反映する仕組み
現場の改善を進めるうえで、現場で働く人々の具体的な声や気づきを吸い上げる「現場発信型ミーティング」は非常に重要です。
紙ベースの改善提案箱や現場パトロールではなく、ITツールやWebアンケートも活用しながら「どこに負荷がかかっているのか」を見える化し、関係者で定期的に共有しましょう。
その際、「声を挙げた人が責任を押し付けられる」といった心理的バリアを排除する工夫もポイントです。
サプライヤーとの接点でロス・誤解を最小化
バイヤーとサプライヤー間で「本音ベースの要求・現場情報の共有」を図る場を設けることで、工程の無理なやりくりや突発残業を減らすことができます。
調達の現場でよくある「うちは納期優先だから……」という空気感をやめ、「どうすれば全体の効率・品質・コストが最適化できるか」まで議論する姿勢が重要です。
お互いの都合やルール、現場リアル、工程上のウィークポイント等を共有し合うことで初めて、全体最適化に向けたOne Team体制が実現します。
まとめ:『人手の補充』だけでは解決しない本質
人手不足を補えば残業も減る――。
シンプルな方程式が当てはまらないのは、現場にはスキルのミスマッチや、アナログ業務、属人化、サプライチェーン全体のムリ・ムダ・ムラが根強く残存しているからです。
そして何より、現場自身が「全体最適=自分たち・サプライヤー・バイヤーが一体となって変革する」という意識に切り替えられない限り、一時的なマンパワー増強や業務改善では、真の働き方改革には到達できません。
製造業に従事する皆さん、そしてプロバイヤーやサプライヤーを目指す皆さんには、現場目線を大切にしつつ、常に「もっと新しい地平」を探し、組織全体でラテラルに発想し続けることを強くお勧めします。
人手不足解消のその先、本質的な現場改革に挑み続けていきましょう。