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調達改革を進めるほど社内の摩擦が増える理由

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調達改革を進めるほど社内の摩擦が増える理由
近年、製造業を取り巻く経営環境は激しく変化しています。グローバルサプライチェーンの複雑化や原材料価格の高騰、サステナビリティへの対応など、その難しさは年々増しています。その中で重要性が高まっているのが「調達改革」です。しかし、実際に調達改革を推進しようとすると、社内の反発や摩擦が大きくなることも珍しくありません。なぜ調達改革を進めるほど、かえって摩擦が増えるのでしょうか。本記事では、製造業現場で20年以上の経験をもつ筆者が、現場目線でその本質と背景、そして真の調達改革を進めるためのヒントを解説します。
調達改革とは何か
調達部門の役割と「改革」の意味
調達部門の主な役割は、良いモノをなるべく安く、安定的に、必要なタイミングで調達することにあります。また、サプライヤーとの強固なパートナーシップを築くことも求められます。調達改革とは、こうした基本的な業務のやり方自体にメスを入れ、コストダウン・新規サプライヤー開拓・DX導入・サステナブル調達推進など、企業競争力の源泉となりうる領域を大きく変革しようとすることです。
調達改革の具体例
調達改革には例えば以下のような施策が含まれます。
・単価交渉の標準化および集約
・新規サプライヤー選定基準の厳格化
・ITシステムによる業務の見える化と自動化推進
・グローバル調達体制へのシフト
・CSR/SR、環境負荷情報の収集と基準化
・原材料ベンチマークによる購買価格合理性の追求
こうした改革を現実に進めるためには、現場・経理・品質・生産管理・設計など、複数部門を横断した調整が必要不可欠になります。ここに摩擦の根本的な種が潜んでいます。
なぜ調達改革が社内の摩擦を生むのか
1. 既得権益と慣習への抵抗
製造現場では長年にわたる慣習や「なじみサプライヤー」との関係が根強く残っています。特に昭和から続くアナログ志向の現場では、「これまでこのやり方でうまく回っていた」「取引先との信頼関係がすべて」という認識が当たり前です。
調達改革は、こうした既存のルールや関係性を根底から揺るがすため、「自分たちのやり方が否定される」「既得権益を脅かされる」と感じる人々からの本能的な抵抗が生まれやすいのです。
2. 業務負荷・リスク意識の高まり
改革の実行段階では、既存の業務プロセス変更や新システムの導入を伴うことがほとんどです。その準備や教育、調整には膨大な手間がかかり、「わざわざ面倒なことをしなければならない」「余計な仕事が増える」と現場従業員が負担を感じやすくなります。さらに、新規サプライヤーの導入や購買プロセスの変更は、品質トラブルや納期遅延という直接的なリスクも増すため、現場や生産管理部門から反発を招くこともあります。
3. 目指すゴールのすれ違いと現場感覚のギャップ
経営層や改革推進層は、原価低減や新しいサプライチェーン構築といった全社最適を狙いがちです。一方で現場は、目の前の生産安定や日常業務の遂行を優先するため、「現場のことをわかっていない」「机上の空論だ」と捉えやすくなります。この意識のギャップが、調達部門 vs. 現場部門の対立、施策が空回りする主因となります。
“昭和的調達文化”からの脱却はなぜ難しいのか
根強い“顔の見える取引”志向
クラウド購買システムや入札型取引の導入を進めても、「顔も知らないサプライヤーとは不安」「人間同士の信頼関係こそが大事」という現場の声は根強いです。トラブル時の「人情的調整力」や「貸し借りの関係性」が日本のものづくりを支えてきたという自負も重なります。昭和的な調達文化は、こうした“人”に根ざした価値観が基盤となっており、一朝一夕で切り替えられないのが現状です。
リスク回避志向の強さ
ベテラン購買担当者ほど、過去の調達トラブルを豊富に経験しています。そのため、「新しいこと=トラブルの元」と身構えやすく、冒険するよりも“無難に同じ業者から買う”判断を優先しがちです。その心理背景には、製造業特有の「一度失敗すると全ラインが止まる」「納品遅れや不良品発生が命取りになる」という極端なリスク感覚があります。
ルールより「阿吽の呼吸」を重視
手順化・マニュアル化・ITシステム導入など、“仕組み”でカバーしようとする改革推進層に対し、多くのベテランは「現場は生き物」「最終的には人と人」と考えています。このギャップが、調達改革の“空回り”を生み、むしろ周囲との溝を深めてしまうのです。
理想的な調達改革推進のポイント
1. 小さく始めて成功体験を共有する
大幅な仕組み変更やシステム切り替えを一気に進めるのではなく、特定のカテゴリや拠点、複数サプライヤーを抱える領域などから小規模に始めるのが現実的です。まずは成功体験を積み上げ、それを現場と共有・共感することで、じわじわと改革の空気を醸成していくアプローチが有効です。
2. 現場主義 vs. 全体最適の橋渡し役をつくる
単純なトップダウン指示や改革部隊の一方的な号令では、制作現場の納得感は得られません。購買チーム、現場リーダー、技術スタッフ、サプライヤー担当者などを巻き込んだプロジェクト型の進め方が重要です。現場の声に耳を傾け、「本当に困ること」「逆にチャンスになること」をきちんと探し出すファシリテーター的人材がカギを握ります。
3. “新しい信頼関係”の構築を目指す
調達改革の目的は、サプライヤーを使い捨てたり、価格を叩くだけではありません。むしろ、パートナーとして共に課題を乗り越えるための同盟関係を“新しい信頼基盤”として築くことがゴールです。AIやデジタル化も、見える化・透明性アップにこそ本質があります。「フェアな取引の新時代」をキーワードに、互いに納得できる基準で付き合う姿勢にシフトすることが、最終的な摩擦解消につながるでしょう。
サプライヤー視点・バイヤー志望者への示唆
サプライヤーの方は、「なぜあの会社は急に新制度や厳しい要求を出してきたのか」と疑問に思う場面もあるはずです。その背景には、“管理職同士”のパワーバランス、過去のトラブル事例、経営トップの入れ替わりなど、現場では見えない社内事情があることを知っておくと、より良い関係の築き方が見えてきます。バイヤー志望者の場合、単なる価格交渉力ではなく、現場と経営層・サプライヤーそれぞれの立場や感情を理解し、場をまとめる調整力こそが今後のキャリアで大いに生きてくるでしょう。
まとめ:調達改革は“痛み”と“成長”のプロセス
調達改革が進むほど社内の摩擦が増えるのは、人・組織文化・過去の経験が複雑に絡み合っているからです。しかし、その摩擦は、確実に企業競争力強化への成長痛でもあります。要は、痛点と丁寧に向き合いながら、小さく進め、多く語り合い、時代に即した新しい仕組み・信頼関係を一歩ずつ積み上げていくことが、真の調達改革です。アナログな現場が多い日本の製造業こそ、“人”の力を最大限に生かした進化を、今こそ目指すべきだと私は考えています。
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