投稿日:2025年12月11日

品質保証部門が嫌われ役にならざるを得ない根本的背景

はじめに

製造業における品質保証部門は、しばしば「嫌われ役」と呼ばれる運命を背負っています。

現場の設計や生産、時には調達や営業と対立構造を生み出してしまうケースも少なくありません。

それではなぜ、品質保証部門がこうした立場にならざるを得ないのでしょうか。

自身も現場管理の立場で悩み抜き、バイヤーやサプライヤーの思惑も体感してきた立場から、現場目線・業界構造・変革へのヒントとともに掘り下げていきます。

製造業における品質保証部門の役割

品質保証=最後の砦

品質保証部門は、顧客や市場に不良品や品質問題が流出しないよう、最終的なチェックと仕組みづくり、ルール管理を担います。

製造現場や部品サプライヤーから上がってくる膨大な情報を精査し、不備があれば厳しく指摘し改善を要求することも日常です。

トレーサビリティと説明責任

昨今の製造業界では、出荷した全製品に対し、「なぜこの工程・この材料・この設備を使ったのか」を説明できる体制=トレーサビリティの確立が強く求められています。

品質保証部門は、数十年スパンで過去製品の追跡、やり直し対応まで行う必要があり、リスクゼロ思考、想定外の芽も徹底して摘まねばなりません。

現場や調達、開発部門との攻防

一方、現場の生産管理や調達部門、そして開発部門は、コスト・納期・競争力重視でものごとを進めたい立場です。

品質保証部門が「この条件ではリスクがある」「追加評価が必要」と立ち止まると、現場部門から「また品質がうるさい」「もう十分だ」とため息が漏れる光景は、今も昔も変わりません。

嫌われ役にならざるを得ない構造的背景

短納期・コスト削減と品質のせめぎ合い

日本の製造業の現場では、この数十年、コスト圧縮とリードタイム短縮が至上命題として君臨してきました。

一方で、品質保証はあくまでリスクゼロ化、全数保証、安全マージン確保を至上とします。

顧客要求も年々厳しくなり、「もう一段レベルを上げろ」「他社より不具合ゼロを」「トレーサビリティを100%確保せよ」といった声は強まる一方です。

こうした流れの中で、品質保証部門が「融通の利かない壁」や「進捗の足を引っ張る存在」と受け取られやすい構造が生まれてしまっています。

組織の分断と“縦割り”の限界

多くの製造企業では、品質保証部門が「品質の番人」として独立し、開発・生産・営業などの他部門と物理的にも心理的にも距離を感じやすい体質が続いています。

昭和から続く“縦割り組織”の弊害で、部門ごとのKPIや目標が食い違い、真の意味で一体化したモノづくりにはなり切れていません。

自分の部門以外の「本音」や「悩み」に無関心になりがちで、互いの立場を尊重し合うシナリオが描きづらくなっています。

アナログ体質と変化への抵抗

また、品質保証の現場は今も「証拠主義」「紙主義」が根強く、微細データや数値の違いに細かく目を光らせます。

デジタル化やAI活用の波も一部では進んでいますが、業界全体としてはいまだ“昭和的管理”の色合いが濃いのも現実です。

こうした現場独特のアナログ管理や、「昔からこうやってきたから…」という習慣が、ますます品質保証部門と他部門の距離を広げています。

現場で起きている具体的な摩擦事例

納期遵守vs追加評価の板挟み

例えば、重要な部品切り替え時に調達部門や生産現場が「この新サプライヤーの納品が遅れると工場が止まる」と焦りを募らせる場面。

一方で品質保証は「まだ十分な耐久テストデータが揃っていない。万一大きな不良が出れば回収もありうる」とブレーキをかけます。

こうした衝突は、「どちらが正しい/間違っている」ではなく、双方のミッションやKPIのズレが生み出す必然なのです。

設計変更の優先順位問題

新製品開発で「今年度中に必ず上市したい」という営業・開発陣の圧力が強いケース。

品質保証担当者は「量産試作時に見つかった不具合に、本当に目をつぶれるのか」「保証範囲を狭めれば顧客クレームのリスクが高まる」と反論。

こうした議論では、現場が積み上げてきた信頼関係や、ミスが許されない“最後の砦”としての責任意識が濃く反映されます。

サプライヤーとの板挟み

ポジションによっては、サプライヤーの立場で品質保証部門からの「指摘」や「是正要求書」に頭を悩ませた経験がある方も少なくないでしょう。

一方でバイヤーは、「これ以上サプライヤーに無理させても価格転嫁できない」「早期供給のプレッシャーが強い」という事情も抱えます。

このようにサプライヤー、バイヤー、品質保証の三者それぞれが立場ごとに異なるプレッシャーを背負い、時に摩擦を生んでしまいます。

嫌われ役の“本質”を逆手に取るには

品質保証は“攻め”のイノベーターも担い得る

品質保証部門の重要な使命は「守り」だけではありません。

蓄積された膨大な不具合情報やクレーム対応データは、実は現場のバリューチェーン改善や新技術導入のヒントの宝庫なのです。

データ解析やAI活用を進め「ここにコストダウンと品質向上の同居余地がある」と気づき、現場や調達部門と連携すれば、業務改革や新規バイヤー評価プロセスの一新も十分実現できます。

“教育係”として現場力強化

品質保証の知見を、サプライヤーや現場担当者向けに「バイヤーはここを見ている」「ここでつまずくと後で何倍もコストがかかる」「過去にこんな失敗があった」といった形で共有し、“嫌われ役”から“教育役”へ脱皮する動きも生まれつつあります。

「なぜそのルールが必要なのか?」を真正面から伝え、現場の疑問や納得感に丁寧に寄り添うことが、質の高いモノづくり文化の基盤になるのです。

業界の未来と“新たな地平線”を拓くヒント

部門連携と“品質経営”への進化

今後の製造業では、「誰かが強く守り、誰かが攻める」のではなく、経営の中心に品質保証の考え方を据え、全社一体で攻守バランスを取る“品質経営”への進化が不可欠です。

これには、設計・調達・現場・品質保証が早期段階から情報を共有し、多様な立場でリスクと価値を議論する習慣が重要となります。

品質保証部門が、その橋渡し役となることで、“嫌われ役”から“頼れるパートナー”へと転換できるのです。

デジタル化と見える化の活用

アナログからデジタルへの転換は、現場やサプライヤー、品質保証すべてに恩恵をもたらします。

データ共有を促進し、リスクやコスト、納期と品質の兼ね合いを“見える化”することで、「なぜ今ここでストップが必要か」「どこに譲歩の余地があるか」を全体最適で判断しやすくなります。

これこそ、昭和から続く“部門主義”を超えた新時代のものづくりへの一歩となるでしょう。

まとめ

品質保証部門が嫌われ役になりやすいのは、短納期・コスト削減・部門分断・アナログ体質といった、製造業独特の構造的な事情が背景にあるからです。

しかし、その立ち位置を悲観的に捉えるのではなく、品質保証の守備範囲こそがイノベーションの源泉、“現場の最後の砦”を“攻めと連携の最前線”に転換するべきタイミングが来ています。

製造現場、調達バイヤー、サプライヤーそれぞれの立場を深く理解し、データと現場知見を掛け合わせて、新たな製造業の地平線を一緒に切り拓いていきましょう。

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