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品質保証部門が現場に嫌われても改善を続ける理由

目次
はじめに:品質保証部門が抱える「嫌われ役」という現実
製造業の現場で働く多くの方が、一度は「品質保証部門の立ち振る舞い」にイライラした経験があるのではないでしょうか。
図面通りに仕上がっているはずの製品に、不具合や寸法の誤差を指摘される。
再発防止のために、厳しい是正策や多くの追加資料の提出を求められる。
「いつも現場の手を止めるのは品質保証じゃないか」と、陰でささやかれることも珍しくありません。
実は、品質保証部門の担当者自身も多くの場合「嫌われていること」を自覚しています。
しかし、なぜそれでも品質保証部門は現場にとって厳しい要求や改善活動を続けるのでしょうか。
この問いに、私は二十年以上現場・管理職として製造業に携わってきた経験から、現実的かつ持続的な改善の意味を交えて解説したいと思います。
昭和の現場文化と品質保証部門のすれ違い
多くの日本のメーカーでは、いまだに昭和期から続く熟練工の経験や勘が重視される文化が色濃く残っています。
現場作業者や班長は、「自分たちの作り方」に誇りを持っています。
「毎日同じ手順を守って45年、この方法が間違っているはずがない」と考えるベテランもいます。
一方、品質保証部門は「根拠や記録」を重んじます。
「このチェックリストは本当に正しく記入されていますか?」「トレーサビリティの記録は漏れなくそろっていますか?」と、形式的な確認も厳格です。
ここに大きなギャップがあります。
現場は「実際に作っているのはこちらだ」という自負があり、品質保証部門は「お客様や会社のブランドを守る砦である」という強い使命感を持っています。
このすれ違いが、現場と品質保証の軋轢を生んでいるのです。
なぜ昭和的な現場のやり方が根強いのか
製造業の現場は、手作業や目視確認などアナログな方法が長く主流でした。
その理由の一つが「現場の職人芸」による不良検出力や品質維持能力への信頼です。
そして、日本のものづくりの競争力は、まさにこうした現場主導の粘り強さの上に築かれてきました。
しかし、時代とともに製品の多様化や「なぜこの品質なのか」という説明責任、グローバル化での品質標準の統一が求められるようになりました。
昔ながらのやり方では限界が来ている、というのが品質保証部門の現実的な認識です。
品質保証部門が嫌われても改善にこだわる理由とは?
品質保証部門が“現場に煙たがられがち”なのを承知で、なぜ厳しい改善要求や検証を続けるのか。
そこには3つの理由があります。
1.「お客様の信頼」は一度失うと戻らない
製品に不良や不具合が発生し、市場で「○○社のものは故障が多い」「クレーム対応が雑だ」といった評判が立つと、たった一度でも築き上げてきたブランド価値や“信頼”は急速に失われます。
品質保証部門は、常に「顧客目線」の“最後の砦”です。
目の前の「なんとか収めよう」「今回は見逃してもよいだろう」という誘惑に負けず、厳しく再発防止や管理強化を促すのは、「顧客との信頼関係」を何よりも重視しているからです。
2. 会社の屋台骨を支える「リスク回避」
どれだけ現場で「自分のやり方」に自信があっても、まれに“人的ミス”や“うっかり”が混入してしまうのが現実です。
これまでリコールや大きなクレームに至るケースを、品質保証部門が未然に防いできたことは少なくありません。
特に近年は、サプライチェーン全体での品質責任やリスク回避が求められる時代です。
「納品後にどんな責任を問われるかわからない」「複雑化する法規制や国際規格にも対応しないといけない」という背景もあり、慎重にならざるを得ません。
3. 製造業の「進化」と向き合うため
不良ゼロ、ミスゼロは理想ですが実現は困難です。
それでも「現状維持は後退と同じ」。
現場と共に小さな改善を積み重ね、“よりよいものづくり”を追い続けることで、初めて競争力を維持できます。
過去のやり方に固執していては、市場の変化や他社の進化に取り残されてしまいます。
「なぜこの改善が必要なのか」「この失敗をどう活かすか」をしっかり問い直すことが、製造業の未来につながるのです。
バイヤーやサプライヤーに求められる「品質保証視点」
品質保証部門の活動は、単なる社内事情にとどまりません。
グローバル化が進み、近年では「サプライヤー段階での品質保証」「バイヤーとの情報共有や透明化」が強く求められています。
バイヤーを目指す方や、サプライヤーの立場の方も、品質保証部門の動きや考え方を理解することが重要です。
1. サプライヤーは「なぜ、ここまで求められるのか?」
「書類にもう一筆追加して」「検査項目を増やしてほしい」といった依頼があった場合、
「なぜそこまで?」と疑問に思うかもしれません。
その背景には「サプライチェーン全体での信頼構築」「トレーサビリティ強化」「海外顧客との契約条件」といった要求が積み重なっています。
「また面倒な注文を…」と思うかもしれませんが、これがこれからの製造業の“標準”です。
現場目線で「なぜこれが必要か」「この情報をどう活かせるか」を自社の“強み”として提案できれば、競争力を高める武器にもなります。
2. バイヤーは「リスクマネジメント意識」が必須
単に安い価格を引き出すだけがバイヤーの仕事ではありません。
大きなトラブルや品質事故の責任の所在を突き止め、
「上流・下流でどのように情報共有し、問題発見・改善を進めるか」を戦略的に考える必要があります。
品質保証部門と協力し、
「どうすれば品質事故を未然に防げるか」
「このサプライヤーの改善力は自社の競争力強化につながるか」
を見極めることが、これからの時代のバイヤー像です。
現場に伝えたい「これからの品質改善」とは
ここまで読んで「現場の負担になってしまうのは仕方ないのか」と思われた方もいるかもしれません。
ただし、品質保証部門にも“進化”が求められています。
現場との「対話型改善」の重要性
昔ながらの「上から押し付ける」品質保証では、現場の納得や協力は得られません。
現場作業者・班長・工程リーダーとともに、小さな課題から議論し、
「このやり方のままで良いのか?」
「本当に手間がかかる部分は、どう自動化・IT化できるか?」
を共に考えていく“対話型”のスタイルが、これからの主流です。
品質保証部門も「現場でどんな問題が起きているのか」「なぜこの運用が大切なのか」を分かりやすく説明し、
現場の意見を聞きながら小さな改善を繰り返す地道な活動が不可欠です。
デジタル時代の品質保証部門の役割
IoTやAI、RPAといった最新技術の導入が進む中、品質保証部門もアナログ一辺倒からの脱却が迫られています。
現場で蓄積されたデータをリアルタイムで分析し、
“勘”に頼らない科学的な品質管理や不良低減に活かす。
この意識転換が、生き残るメーカーへの道です。
データと現場力、双方を活かす「橋渡し役」としての品質保証部門の進化が、求められています。
まとめ:「嫌われ役」で終わらない品質保証部門を目指して
品質保証部門は、現場の皆さんやサプライヤー、バイヤーから時に「やっかいな存在」として見られることがあります。
しかし、その改善活動の裏には「お客様の信頼」と「会社の価値を守る」という重い責任が隠れています。
現場に根付く昭和的なものづくり文化や誇りを尊重しつつ、「なぜ今この改善が必要なのか」を対話し、
一歩ずつでも変革を進めていく。
この両者の“橋渡し”が、これからの製造業の存続、発展につながるのです。
携わる全ての方が「対話」と「納得感」を大切にできれば、品質保証部門も“嫌われ役”から“信頼される成長パートナー”に進化できるはずです。
現場から、そして未来へ。「しぶとく、誠実に」改善を続ける品質保証部門と共に、新たな製造業の地平線を拓いていきましょう。
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